PDCAASとは — タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコア
PDCAAS(Protein Digestibility-Corrected Amino Acid Score)は1991年FAO/WHO採択のタンパク質品質指標。アミノ酸スコアに糞便消化率を乗じて算出し上限を1.0に切り詰める。ホエイ・卵・大豆が同じ1.0となる構造的限界からDIAAS(2013)へ移行が進む。
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PDCAAS(Protein Digestibility-Corrected Amino Acid Score、タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコア)は、1991年にFAO/WHOが採択したタンパク質品質指標である。アミノ酸スコア(食品のアミノ酸組成とヒト必要量との比率)に糞便真消化率(fecal true digestibility)を乗じて計算され、上限は1.0に切り詰められる(Schaafsma, 2000, Journal of Nutrition)。ホエイ・卵・牛乳・カゼイン・大豆プロテインアイソレートはいずれもPDCAAS=1.0に達するため、これらの間の品質差を数値上で区別できないという構造的限界がある。この限界を克服するため、2013年にFAOはDIAAS(Digestible Indispensable Amino Acid Score)の採用を推奨した(FAO Expert Consultation, 2013, FAO Food and Nutrition Paper 92)。
PDCAASとは何か
PDCAASは「アミノ酸スコア(AAS)×糞便真消化率」の積として算出される。参照パターンとして就学前児童(プリスクール児)のアミノ酸必要量が用いられ、最終スコアが1.0を超える場合は1.0に切り詰められる(Schaafsma, 2000, Journal of Nutrition)。1989年に米国メリーランド州ベセスダで開催されたJoint FAO/WHO Expert Consultationで計算法が合意され、1991年の報告書「Protein Quality Evaluation」として公表・正式採択された。
計算式は次の通りである。
PDCAAS = (食品の第一制限アミノ酸含量 ÷ 参照パターンの同アミノ酸含量)× 糞便真消化率
第一制限アミノ酸(first limiting amino acid)とは、必須アミノ酸(EAA)の中でヒトの必要量に対して最も相対的に不足するアミノ酸のことを指す。例えば小麦の場合はリジン(Lys)、米の場合もリジンが第一制限アミノ酸となる。
PDCAASが導入される以前は、単純なアミノ酸スコア(AAS)が使われていたが、AASは消化吸収の程度を考慮しないという欠点があった。PDCAASは消化率補正を加えることで、より実態に近いタンパク質の利用可能性(protein bioavailability)を反映しようとしたものである。
PDCAAS 1.0という上限が持つ構造的限界は何か
PDCAASが1.0に切り詰められる仕様は、ホエイ・卵・牛乳・カゼイン・大豆プロテインアイソレートがすべて同じ「1.0」に収束することを意味する。これらの高品質タンパク質の間の品質差はPDCAAS上では判別できない。Schaafsma(2012, British Journal of Nutrition, DOI: 10.1017/S0007114512002541)はこの問題をPDCAASの第一の構造的限界として整理している。
Schaafsma(2012)はPDCAASの限界を4点に整理した。
- 1.0上限切り捨て: 高品質タンパク質間の差別化が不可能
- 抗栄養因子の非考慮: トリプシン阻害剤・タンニン・レクチン等の抗栄養因子は消化吸収を阻害するが、糞便消化率の測定には反映されにくい。特に植物性タンパク質の品質が実態より過大評価される
- 糞便消化率の過大評価問題: 糞便消化率は「口から肛門までの全腸管」でのアミノ酸損失を測定する。しかし大腸ではアミノ酸が腸内細菌に利用されて糞便から消えるため、実際に小腸で吸収された量より消化率が高く算出される(小腸末端=回腸末端での消化率の方が正確)
- 遊離アミノ酸との区別なし: 食品由来のタンパク質とサプリメントの遊離アミノ酸を同等に評価する
Rutherfurd et al.(2015, Journal of Nutrition, DOI: 10.3945/jn.114.195438)はラット成長モデルを用いて14種類のタンパク質源についてPDCAASとDIAASを算出し比較した。低品質なタンパク質(小麦グルテン等)では、切り捨てなしのPDCAASがDIAASより高い値を示し、タンパク質摂取が不足しがちな集団での実用的意義を指摘している。
主要食品のPDCAAS・DIAAS比較
| タンパク質源 | PDCAAS | DIAAS(参考) | 第一制限アミノ酸 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| ホエイプロテインアイソレート(WPI) | 1.0(上限) | 1.09以上 | — | Rutherfurd et al., 2015 |
| 牛乳 | 1.0(上限) | 1.14 | — | FAO, 2013 |
| カゼイン | 1.0(上限) | 1.08 | — | FAO, 2013 |
| 卵(全卵) | 1.0(上限) | 1.13 | — | FAO, 2013 |
| 大豆プロテインアイソレート(SPI) | 1.0(上限) | 0.90〜0.98 | Met/Cys | Rutherfurd et al., 2015 |
| 牛肉 | 0.92 | 1.11 | — | FAO, 2013 |
| エンドウ豆タンパク | 0.67〜0.89 | 0.64〜0.82 | Met/Cys | Mathai et al., 2017 |
| 米タンパク | 0.76 | 0.59〜0.78 | Lys | Rutherfurd et al., 2015 |
| 全粒小麦タンパク | 0.40〜0.42 | 0.45 | Lys | Rutherfurd et al., 2015 |
| 小麦グルテン | 0.24〜0.25 | 0.35 | Lys | Rutherfurd et al., 2015 |
※PDCAAS 1.0は上限値への切り詰め後の値(真の計算値はさらに高い可能性がある)。DIAASは上限切り捨てなし。小麦タンパクは全粒小麦由来とグルテン単体で値が大きく異なる点に注意。
PDCAAS=1.0の上限では、ホエイと大豆プロテインアイソレートが同等スコアとなる。しかしDIAASで見ると、ホエイWPIは1.09以上に対し大豆プロテインアイソレートは0.90〜0.98と約10〜20%の差がある。PDCAASはこの差異を評価できない構造になっている。
PDCAASはDIAASへどう移行したのか
2013年にFAOは「Dietary Protein Quality Evaluation in Human Nutrition」(FAO Food and Nutrition Paper 92)を公表し、DIAASをPDCAASに代わる公式タンパク質品質評価指標として推奨した。DIAASの核心的な改善点は2つである。第一に、消化率の測定箇所を糞便から回腸末端(small intestinal terminal ileum)に変更することで腸内細菌によるアミノ酸消費を除外した。第二に、1.0での上限切り捨てを廃止し、個々の必須アミノ酸ごとにスコアを算出することで高品質タンパク質間の品質差を数値で示せるようにした(FAO Expert Consultation, 2013)。
PDCAASとDIAASの設計上の差異は以下の通りである。
| 比較項目 | PDCAAS | DIAAS |
|---|---|---|
| 採択年 | 1991年(FAO/WHO) | 2013年(FAO推奨) |
| 消化率の測定部位 | 糞便(全腸管) | 回腸末端(小腸末端) |
| 上限切り捨て | あり(1.0) | なし(混合食評価を除く) |
| アミノ酸評価 | 第一制限アミノ酸のみ | 各必須アミノ酸を個別評価 |
| 参照パターン | FAO 1985(プリスクール児) | FAO 2013(年齢別3区分) |
| 高品質タンパク間の差別化 | 不可(全て1.0) | 可能 |
Moughan & Lim(2024, Frontiers in Nutrition, DOI: 10.3389/fnut.2024.1389719)は、DIAAS提唱から10年後の時点で400食品以上の真回腸アミノ酸消化率データが整備されたと報告している。一方で食品安全規制・製品表示への正式採用はまだ限定的であり、多くの食品製造業者は現在もPDCAASを製品表示に使用している状況にある。
Boye et al.(2012, British Journal of Nutrition, DOI: 10.1017/S0007114512002309)は採択後20年のレビューで、PDCAASは「タンパク質品質評価を単純化・標準化した功績がある一方で、上限切り捨てと測定部位の問題が科学的精度を損なっている」と評価している。
よくある質問
Q. PDCAAS 1.0の食品は最高品質のタンパク質と言えるのか
PDCAAS 1.0は「ヒトの必須アミノ酸必要量を満たし、糞便消化率が高い」ことを示すが、1.0に切り詰められた数値である点に注意が必要だ。ホエイプロテインのDIAASは1.09以上、卵は1.13と実際には1.0を超える品質を持つ一方、大豆プロテインアイソレートのDIAASは0.90〜0.98にとどまる。PDCAAS 1.0の食品間でも品質に差があり、より精度の高い評価にはDIAASが参照される(Rutherfurd et al., 2015, Journal of Nutrition)。
Q. 糞便消化率と回腸末端消化率はどう違うのか
糞便消化率は「摂取したタンパク質と糞便中の残存タンパク質の差」から算出される。このとき大腸内では腸内細菌がアミノ酸を利用して代謝するため、アミノ酸が小腸から吸収されなくても糞便から姿を消す。結果として実際の小腸吸収量よりも消化率が高めに計算される。回腸末端消化率は小腸出口(回腸末端)でサンプリングするため、大腸細菌による影響を受けない。DIAASが採用する「真回腸消化率(true ileal digestibility)」は内因性アミノ酸損失も補正することで、より正確な吸収量の推定が可能とされる(Schaafsma, 2012, British Journal of Nutrition)。
Q. 製品ラベルで今もPDCAASが使われているのはなぜか
DIAASはPDCAASより科学的精度が高いとされるが、真回腸消化率の測定にはカニューレ挿入動物実験や同位体トレーサー法が必要で、コストと手間がかかる。Lee et al.(2016, Journal of Nutrition)はFAO 2014作業部会の報告として「ヒト食品における腸内消化率データがまだ不十分」と指摘している。各国の食品規制当局がPDCAASからDIAASへの切り替えを正式に義務づけていないため、多くの製造業者はコスト・規制両面からPDCAASを継続使用している。
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参考文献
- Schaafsma G (2000). The Protein Digestibility-Corrected Amino Acid Score. Journal of Nutrition, 130(7):1865S-1867S. DOI: 10.1093/jn/130.7.1865S
- Schaafsma G (2012). Advantages and limitations of the protein digestibility-corrected amino acid score (PDCAAS) as a method for evaluating protein quality in human diets. British Journal of Nutrition, 108 Suppl 2:S333-S336. DOI: 10.1017/S0007114512002541
- Boye J, Wijesinha-Bettoni R, Burlingame B (2012). Protein quality evaluation twenty years after the introduction of the protein digestibility corrected amino acid score method. British Journal of Nutrition, 108 Suppl 2:S183-S211. DOI: 10.1017/S0007114512002309
- FAO Expert Consultation (2013). Dietary protein quality evaluation in human nutrition. FAO Food and Nutrition Paper 92. Rome: Food and Agriculture Organization. PMID: 26369006
- Rutherfurd SM, Fanning AC, Miller BJ, Moughan PJ (2015). Protein digestibility-corrected amino acid scores and digestible indispensable amino acid scores differentially describe protein quality in growing male rats. Journal of Nutrition, 145(2):372-379. DOI: 10.3945/jn.114.195438
- Lee WT, Weisell R, Albert J, Tome D, Kurpad AV, Uauy R (2016). Research approaches and methods for evaluating the protein digestibility of human foods proposed by an FAO working group in 2014. Journal of Nutrition, 146(5):929-932.
- Moughan PJ, Lim WXJ (2024). Dietary protein quality evaluation: ten years after the introduction of the DIAAS. Frontiers in Nutrition, 11:1389719. DOI: 10.3389/fnut.2024.1389719