植物性プロテインのアミノ酸スコアはなぜ低いのか — 制限アミノ酸・DIAAS・補完効果の科学
植物性プロテインのアミノ酸品質がなぜ動物性より低いかを、DIAAS・PDCAAS・制限アミノ酸の観点から整理する。穀類はリジン、マメ科はメチオニンが制限アミノ酸となり、FAO推奨のDIAASではピー70・米47・大豆91という数値が報告されている。
- 植物性プロテイン
- アミノ酸スコア
- DIAAS
- PDCAAS
植物性プロテインのアミノ酸品質(amino acid quality)は、動物性プロテインより全般的に低い。FAO(国連食糧農業機関)が推奨する現行指標DIAAS(消化必須アミノ酸スコア)では、ピープロテイン70・玄米47・大豆91に対し、ホエイWPIは109(Mathai et al., 2017, British Journal of Nutrition)または85(Herreman et al., 2020, Food Science & Nutrition)という数値が報告されている。この差の主要因は、植物性タンパク質に特定の必須アミノ酸(essential amino acid)が不足する「制限アミノ酸(limiting amino acid)」の存在と、植物細胞壁による消化率の低下である。
アミノ酸品質を測る指標はどう変遷してきたか
タンパク質の品質評価指標は「アミノ酸スコア(amino acid score)→PDCAAS→DIAAS」と段階的に改良されてきた。旧来のアミノ酸スコアはFAOのアミノ酸パターンとの比率だけで算出し、消化率を考慮しない点が問題だった。
PDCAAS(タンパク質消化率補正アミノ酸スコア)は消化率を乗算する改良版だが、スコアの上限を1.0(100%)に切り捨てる処理が欠点だった。この切り捨てにより、大豆・ホエイ・卵白はいずれもPDCAAS 1.0として「同等」に分類され、実際の品質差が見えなくなる。FAOは2013年の専門家会議でDIAASを正式推奨し、切り捨てなしの数値比較を可能にした(FAO Expert Consultation, 2013, FAO Food and Nutrition Paper 92)。
DIAASは小腸終末部(回腸末端)での実測消化率を使用する。FAO基準ではDIAAS 100以上を「excellent(優秀)」、75〜99を「high-quality protein(高品質タンパク質)」、75未満を「no claim(クレーム不可)」と分類する。この基準で見ると、ピープロテインのDIAAS 70は「クレーム不可」に相当し、ホエイWPIの109(excellent)との差は定量的に明確である。
植物性プロテインの制限アミノ酸はどのアミノ酸か
植物性タンパク質源によって制限アミノ酸の種類は異なる。Gorissen et al.(2018, Amino Acids)が植物性プロテインアイソレート各種のアミノ酸組成を比較した研究によれば、穀類(米・小麦・とうもろこし)は**リジン(lysine)が制限アミノ酸となり、マメ科(えんどう豆・大豆)はメチオニン(methionine)**とシスチン(Met+Cys合計)が不足する。
定量的に見ると、ホエイのロイシン(leucine)含有量は100g中8.6gであるのに対し、ピープロテインは5.7gにとどまる(Gorissen et al., 2018)。メチオニンはホエイ1.8g/100gに対してピープロテインは0.3g/100gと、約6分の1に過ぎない。この数値は、植物性プロテインが動物性と比べて筋タンパク質合成(muscle protein synthesis)において量・質の両面で異なることを示す根拠の一つとして挙げられている。
消化率の問題も重要である。van Vliet et al.(2015, The Journal of Nutrition)のレビューが引用する複数の研究によれば、植物性タンパク質は消化率が動物性より低く、内臓でのアミノ酸抽出量も多いため、末梢循環に届くアミノ酸の絶対量が少なくなる傾向がある。
DIAAS数値でプロテイン源を比較するとどうなるか
以下は主要プロテイン源のDIAAS・PDCAAS・制限アミノ酸を整理した比較表である。DIAAS値降順(品質高→低)で掲載する。なお、数値は参照文献・年齢基準パターンによってばらつきがあるため、出典を括弧内に示す。
| プロテイン源 | PDCAAS(上限1.0) | DIAAS(0.5-3歳基準) | FAO品質分類 | 制限アミノ酸 | 製品例 |
|---|---|---|---|---|---|
| ホエイ(WPI) | 1.00 | 109(Mathai 2017)/85(Herreman 2020) | Excellent | なし | WPC/WPI各種 |
| 卵白 | 1.00 | 101(Herreman 2020) | Excellent | なし | 卵白粉末製品 |
| 大豆(アイソレート) | 1.00 | 91(Herreman 2020) | High-quality protein | Met+Cys | GronGソイ、ボディウイング大豆 |
| エンドウ豆(アイソレート) | 0.82〜0.93 | 70(Herreman 2020) | No claim | Met+Cys | Myproteinピープロテイン |
| ヘンプ | 0.46〜0.51 | 54(Herreman 2020) | No claim | Lys | ヘンププロテイン製品 |
| 小麦 | 0.42 | 48(Herreman 2020) | No claim | Lys | 小麦グルテン製品 |
| 玄米 | 0.47〜0.54 | 47(Herreman 2020) | No claim | Lys | ライスプロテイン製品 |
※数値はHerreman et al.(2020, Food Science & Nutrition)の0.5-3歳基準パターンによる測定値。成人基準パターンでは数値が異なる場合がある。BAZOOKA WPH/WPCのDIAASは非公開のため、ホエイの一般値(Mathai 2017: WPI=109)を参照。
PDCAASでは大豆・卵白・ホエイがすべて1.0に切り捨てられ「同等」となるが、DIAASで見ると大豆91(high-quality protein)< ホエイ109(excellent)という差が数値化される。PDCAAS1.0への切り捨てが品質差を見えにくくする典型例である。
「ライス+ピー混合」で品質は向上するか
「アミノ酸が補完し合う食品を組み合わせると(complementary protein)、合計のアミノ酸プロファイルが向上するとされる」という理論は広く知られている。ピープロテイン(Met+Cys不足)と米プロテイン(Lys不足)の組み合わせは、この補完理論の代表例として言及されることが多い。
Herreman et al.(2020)の計算では、41%ライス + 59%ピーのブレンドでDIAASが最大84(単独時より高い)になると試算されている。一方、Rogers et al.(2024, British Journal of Nutrition)がn=10の急性試験でピーライスブレンドとピー単独を比較した結果、食後の血漿EAA(必須アミノ酸)可用性に有意差は認められなかった。同研究ではホエイは両植物性プロテインより食後EAAのAUC(曲線下面積)が高かった。
この「補完効果が限定的だった」という結果は、著者自身が「EAA組成の差異が限界的だったことが原因」と考察している。ただしこの研究はn=10と小規模であり、急性単回投与の測定であるため、結果の解釈には留保が必要である。
なお、Joy et al.(2013, Nutrition Journal)は8週間のレジスタンストレーニング中にホエイまたはライスプロテインをトレーニング直後1回48g(週3回)という高用量で補給した際、体組成・筋力・パワーに両群間で有意差がなかったと報告している。ただし1回48gは通常推奨量(20〜25g/回)の約2倍にあたる高用量であり、この結果を通常摂取量での比較に一般化することは適切ではない。
アイソレート加工でDIAASは改善されるか
プロテインの製造工程(特にアイソレート化)は、タンパク質の消化率と品質スコアに影響を与えうる。Guillin et al.(Roquette & INRAE, 2022, American Journal of Clinical Nutrition)は、特定のピープロテインアイソレート(NUTRALYS)が回腸吸収モデルを用いた測定でDIAAS 100を達成したと報告している。
ただし、この研究はRoquette社の依頼研究であり、特定ブランド・特定品種(NUTRALYS)の結果である。一般的に市販されるピープロテインアイソレートのDIAASが100に達するわけではなく、Herreman et al.(2020)のような独立した包括比較ではピープロテインのDIAASは70と報告されている。企業依頼研究の数値を製品カテゴリ全体に一般化する場合は注意が必要である。
van Vliet et al.(2015, The Journal of Nutrition)のレビューが整理する改善戦略としては、①制限アミノ酸(Met, Lysなど)の強化、②選択育種によるアミノ酸組成の改善、③摂取量の増加、④複数タンパク源の組み合わせの4つが挙げられている。
よくある質問
Q. ヴィーガンでも植物性プロテインから筋肉の材料となるタンパク質を十分に摂れるか
A. 植物性プロテインはDIAASが低い製品が多く、同量を摂取しても血中アミノ酸の上昇が動物性より小さい傾向があると複数の研究で報告されている。この差を補う実用的な方法として、摂取量を増やすこと、複数の植物性タンパク源を組み合わせること、大豆などDIAAS値が高い植物性プロテインを選ぶことが栄養学的観点から示されている。いずれの方法も、現時点では研究知見の一つであり、個人の食事全体のバランスとの兼ね合いで判断する必要がある。
Q. PDCAASとDIAASのどちらが信頼できる品質指標か
A. FAOは2013年の専門家会議でPDCAASに代わりDIAASを推奨している。PDCAASはスコアを1.0に切り捨てるため製品間の差異が消えてしまう問題があるが、DIAASは切り捨てなしで数値を示し、測定に小腸末端での実際の消化率データを使う点でより精度が高いとされる。ただし測定にはileostomy(回腸造瘻)モデル等を必要とするため、分析コストが高く、測定値が文献によってばらつく場合がある。
Q. 植物性プロテインと動物性プロテインのアミノ酸スコアの差はどのくらいか
A. Herreman et al.(2020, Food Science & Nutrition)の0.5-3歳基準パターンによる比較では、ホエイWPI DIAAS 85〜109(excellent)に対し、ピープロテインDIAAS 70(no claim)、玄米DIAAS 47(no claim)、大豆アイソレートDIAAS 91(good)と報告されている。ただし数値は年齢基準パターン・加工方法・測定法によって異なるため、単一の数値だけで比較する際は出典の確認が必要である。
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参考文献
- Herreman L, Nommensen P, Pennings B, Laus MC et al., 2020, Food Science & Nutrition, vol.8(10), pp.5379-5391. DOI: 10.1002/fsn3.1809
- Mathai JK, Liu Y, Stein HH et al., 2017, British Journal of Nutrition, vol.117(4), pp.490-499. DOI: 10.1017/S0007114517000125
- Gorissen SHM, Crombag JJR, Senden JMG et al., 2018, Amino Acids, vol.50(12), pp.1685-1695. DOI: 10.1007/s00726-018-2640-5
- van Vliet S, Burd NA, van Loon LJC, 2015, The Journal of Nutrition, vol.145(9), pp.1981-1991. DOI: 10.3945/jn.114.204305
- Rogers LM, Belfield AE, Korzepa M et al., 2024, British Journal of Nutrition, vol.132(6), pp.691-700. DOI: 10.1017/S0007114524001958
- Joy JM, Lowery RP, Wilson JM et al., 2013, Nutrition Journal, vol.12, Article 86. DOI: 10.1186/1475-2891-12-86
- FAO Expert Consultation, 2013, FAO Food and Nutrition Paper 92(政策文書・グレーリテラチャー)