競技別タンパク質要求量ガイド — 持久系・パワー系・球技系の3軸比較
ISSN 2017・AND/DC/ACSM 2016・IAAF 2019のガイドラインはアスリート全体の推奨を1.2〜2.0g/kg/日とする。競技カテゴリ別では持久系1.2〜1.8、パワー系1.4〜2.0、球技系1.4〜2.0g/kg/日が複数の合意文書で報告されている。
- タンパク質
- アスリート
- 持久系
- パワー系
- 球技系
- 推奨量
- ガイドライン
国際スポーツ栄養学会(ISSN)の2017年ポジションスタンドでは、アスリートの推奨タンパク質摂取量を1.4〜2.0g/kg/日とし、減量・除脂肪体重維持局面では2.3〜3.1g/kg LBM/日への増量を支持している(Jäger et al., 2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition)。米国栄養士会(AND)・カナダ栄養士会(DC)・米国スポーツ医学会(ACSM)の合同ポジションスタンドも全アスリートに1.2〜2.0g/kg/日を推奨しており、競技の種類・強度・期分けによって最適値は大きく異なると報告されている(Thomas et al., 2016, Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics)。
アスリートのタンパク質基本推奨量はどれくらいか
複数のスポーツ栄養ガイドラインは、アスリートの基本推奨量を1.2〜2.0g/kg/日の範囲に位置づけている。IOCスポーツ栄養会議(2010年ローザンヌ)を受けたPhillips & van Loon(2011, Journal of Sports Sciences)は総括推奨を1.3〜1.8g/kg/日とし、1日3〜4食への均等分配を推奨している。一般成人の推奨量(約0.8〜1.0g/kg/日)と比較すると、アスリートでは運動による筋タンパク質分解の補填と合成の促進が必要なためである。
体重70kgのアスリートを例にとると、ACSM/AND/DC 2016の下端(1.2g/kg/日)では84g、ISSN 2017の上端(2.0g/kg/日)では140gが目安となる。個人差・トレーニング強度・エネルギー摂取量によって実際の最適値は変動するため、これらは目安の範囲として参照する。
1食あたりの量については、筋タンパク質合成(MPS)の最大刺激に必要な量として0.25g/kg(体重60〜80kgでは15〜20g)が報告されており、全年齢への実用上限として0.4g/kg/食(30〜40g)が推奨されている(Jäger et al., 2017; Kerksick et al., 2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition)。
持久系競技ではどれくらい必要か
持久系競技(マラソン・トライアスロン・ロードバイク等)のタンパク質推奨量は、測定手法の更新に伴い段階的に引き上げられてきた。Phillips & van Loon(2011)による従来値は1.2〜1.4g/kg/日だったが、国際陸上競技連盟(IAAF)の2019年合意文書(Burke et al., 2019, International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism)では体組成維持局面を含め1.3〜1.7g/kg/日への更新が示されている。Witard et al.(2025, Sports Medicine)は指標アミノ酸酸化法(IAAO法)による再推定の結果として約1.8g/kg/日を報告しており、現代的なコンセンサスに近い値とされている。
従来の1.2〜1.4g/kg/日という数値は窒素出納法で導出されており、この手法はタンパク質必要量を過小評価しやすいと指摘されている。実際、Witard et al.(2025)は持久系アスリートの習慣的摂取量が約1.5g/kg/日にとどまる一方で推奨値の1.8g/kg/日より約20%不足していることを指摘している。
低糖質トレーニング期(トレーニング・ロウ)や意図的な休息日には、エネルギー基質としてアミノ酸が利用されやすくなるため2.0g/kg/日以上への調整が必要な可能性があると報告されている(Witard et al., 2025)。運動直後には0.4〜0.5g/kgの高質タンパク質摂取が回復を支援するとされている。
パワー系競技ではどれくらい必要か
パワー系競技(筋力トレーニング・スプリント・投擲・重量挙げ等)の推奨量は、Phillips & van Loon(2011)の従来値1.6〜1.7g/kg/日から、ISSN 2017では1.4〜2.0g/kg/日(通常期)が報告されている。Morton et al.(2018, British Journal of Sports Medicine)の49研究・1,863名を対象としたメタ解析では、抵抗運動時のタンパク質補給による除脂肪体重(FFM)増加の飽和点(閾値)は1.62g/kg/日(95%CI: 1.03〜2.20)と推定されている。
Morton 2018の「1.62g/kg/日閾値」は「これを超えるとFFMの追加増加が見込めなくなる」という飽和点の推定であり、競技パフォーマンス・回復・筋損傷マーカーに対する上限を意味するものではない点に注意が必要である。同メタ解析では、タンパク質補給によるFFM増加は平均+0.30kg、1RM増加は+2.49kgと報告されている。
減量期(カロリー制限期)の筋量(LBM)維持については、コンテスト準備中のナチュラルボディビルダーを対象としたHelms et al.(2014, Journal of the International Society of Sports Nutrition)が2.3〜3.1g/kg LBM/日を報告している。この数値はLBM(除脂肪体重)基準であり、体重基準の値より高くなる点に留意が必要である。また対象がボディビルコンテスト準備中という特殊な集団であるため、一般のアスリートの減量期に同値がそのまま当てはまるわけではない。
球技系競技と減量・増量期はどう違うか
球技系競技(サッカー・バスケットボール・テニス・ラグビー等の間欠的スポーツ)は、短時間の高強度スプリントと低強度の回復局面が繰り返される混合的な需要を持つ。ISSN 2017では間欠的スポーツ全般として1.4〜2.0g/kg/日の中央値帯(1.4〜1.7g/kg/日)が示されており、サッカー選手向けには欧州サッカー連盟(UEFA)の専門家グループが1.6〜2.2g/kg/日を推奨している。アカデミー・シニアのサッカー選手を対象にした観察研究のメタ解析では習慣的摂取量が1.8〜1.9g/kg/日であることも示されている。
増量期(カロリー余剰期)については、ISSN 2017がFFM増加を目標とする際の最適値として1.6〜2.2g/kg/日前後を支持しており、Morton et al.(2018)の飽和点(約1.62g/kg/日)を参照値として組み合わせることが一般的な実践指針とされている。
減量期のタンパク質量については、エネルギー制限時にタンパク質比率を引き上げることでLBMの保持が期待されると報告されている(Helms et al., 2014; Jäger et al., 2017)。ただし上述のとおり、2.3〜3.1g/kg LBM/日という高値はコンテスト準備中のボディビルダーを対象とした特殊な推奨であり、適用範囲には限定が伴う。
休養日については、運動による筋タンパク質分解量は少ないが、回復と適応のためのタンパク質需要は継続することから、摂取量を著しく減らす必要はないとされている。持久系アスリートでは、低糖質日・休養日でも2.0g/kg/日前後の維持が推奨される可能性がある(Witard et al., 2025)。
競技カテゴリ別タンパク質推奨量まとめ
| 競技カテゴリ | 推奨量(g/kg/日) | 1食分配の目安 | 主要参考ガイドライン |
|---|---|---|---|
| 一般成人(非アスリート) | 0.8〜1.0 | — | 各国基準 |
| 持久系(旧値・窒素出納法) | 1.2〜1.4 | 0.25〜0.4g/kg/食 × 3〜4回 | Phillips & van Loon 2011 |
| 持久系(IAAF 2019) | 1.3〜1.7 | 0.4〜0.5g/kg/食(運動直後・就寝前) | Burke et al. 2019 |
| 持久系(最新推奨・IAAO法) | 約1.8(低糖質期は2.0以上) | 0.4〜0.5g/kg/食 | Witard et al. 2025 |
| パワー系・筋力系(通常期) | 1.4〜2.0 | 0.25〜0.4g/kg/食 × 4回 | ISSN 2017 |
| 球技系・間欠的競技 | 1.4〜2.0(UEFA推奨: 1.6〜2.2) | 0.3〜0.4g/kg/食 × 3〜4回 | ISSN 2017; UEFA |
| 増量期(全競技) | 1.6〜2.2 | 0.4g/kg/食 × 4回 | ISSN 2017; Morton et al. 2018 |
| 減量期(ボディビルコンテスト準備・LBM維持) | 2.3〜3.1 g/kg LBM | 0.4〜0.5g/kg LBM/食 × 4〜5回 | Helms et al. 2014 |
※各値は体重・トレーニング強度・エネルギー摂取量・個人差により変動する。ガイドラインで報告された目安であり、特定の成績向上を保証するものではない。LBM基準値は体重基準値より高くなるため単純比較できない。
よくある質問
体重70kgで何gを目安にすればよいか
体重70kgのアスリートが複数のガイドラインを参照すると、持久系では90〜126g/日(1.3〜1.8g/kg)、パワー系では98〜140g/日(1.4〜2.0g/kg)、球技系では98〜140g/日(1.4〜2.0g/kg)が目安として示されている範囲となる。1食あたりでは0.25〜0.4g/kgが目安であり、体重70kgでは1食17.5〜28gに相当する。個人のコンディション・トレーニング強度・エネルギー摂取量によって最適値は変動するため、これらは参照値として扱うことが適切である。
タンパク質量を増やせば成績は伸びるのか
ガイドラインは「ガイドライン推奨量のタンパク質摂取が筋タンパク質合成や回復を支援する」という研究知見に基づいており、競技成績の向上を直接保証するものではない。Morton et al.(2018)のメタ解析では、抵抗運動時のFFM増加効果は1.62g/kg/日付近で飽和することが示されているが、この閾値は競技パフォーマンスそのものの上限を意味しない。エネルギー摂取・睡眠時間・トレーニング負荷との組み合わせが前提となる。
アンチドーピング認証は競技別タンパク質量の判断に影響するか
アンチドーピング認証(Informed Choice・Informed Sport・NSF Certified for Sport等)は製品中の禁止物質混入リスクの管理体制を示すものであり、必要なタンパク質量の算出とは独立した基準である。競技会への参加資格を持つアスリートがプロテインサプリメントを利用する際は、認証の有無を製品選定時の参照情報とすることが一般的に推奨されている(各競技連盟の規則に従うこと)。
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参考文献
- Jäger R, Kerksick CM, Campbell BI et al. International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:20. DOI: 10.1186/s12970-017-0177-8
- Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance. J Acad Nutr Diet. 2016;116(3):501-528. DOI: 10.1016/j.jand.2015.12.006
- Phillips SM, van Loon LJC. Dietary protein for athletes: From requirements to optimum adaptation. J Sports Sci. 2011;29 Suppl 1:S29-S38. DOI: 10.1080/02640414.2011.619204
- Kerksick CM, Arent S, Schoenfeld BJ et al. International Society of Sports Nutrition Position Stand: Nutrient Timing. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:33. DOI: 10.1186/s12970-017-0189-4
- Burke LM, Castell LM, Casa DJ et al. International Association of Athletics Federations Consensus Statement 2019: Nutrition for Athletics. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2019;29(2):73-84. DOI: 10.1123/ijsnem.2019-0065
- Helms ER, Aragon AA, Fitschen PJ. Evidence-based recommendations for natural bodybuilding contest preparation: nutrition and supplementation. J Int Soc Sports Nutr. 2014;11:20. DOI: 10.1186/1550-2783-11-20
- Morton RW, Murphy KT, McKellar SR et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med. 2018;52:376-384. DOI: 10.1136/bjsports-2017-097608
- Witard OC, Hearris M, Morgan PT. Protein Nutrition for Endurance Athletes: A Metabolic Focus on Promoting Recovery and Training Adaptation. Sports Med. 2025;55(6):1361-1376. DOI: 10.1007/s40279-025-02203-8