持久系アスリートにプロテインは必要か — ランナー・サイクリストのリカバリー栄養学

持久系アスリート(ランナー・サイクリスト)のタンパク質推奨量をISSN・ACSM基準で整理。運動後のMPS・グリコーゲン再合成におけるタンパク質の役割、WPHの吸収速度とリカバリーの関係、製品スペック比較をまとめる。

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持久系アスリート(ランナー・サイクリスト等)にもタンパク質の摂取は重要であるとする知見が蓄積されている。ISSN(International Society of Sports Nutrition)のポジションスタンド(Jäger et al., 2017, JISSN)は運動する個人のタンパク質推奨量を1.4〜2.0g/kg/日としており、持久系アスリートも筋損傷の修復・酸化的アミノ酸損失の補充のためにこの範囲の摂取が推奨されている。体重65kgのランナーであれば1日91〜130g、体重75kgのサイクリストであれば1日105〜150gが目安となる。

ただし持久系競技では糖質(炭水化物)の確保が最優先事項であり、タンパク質はあくまで糖質補給と併せてリカバリーを強化する位置づけである。

持久系アスリートにはどれくらいのタンパク質が必要なのか

持久系アスリートのタンパク質推奨量は、複数の国際ガイドラインで概ね一致している。

ガイドライン推奨量(g/kg/日)備考
ISSN(Jäger et al., 2017)1.4〜2.0持久系は筋損傷相殺・酸化的アミノ酸損失補充が主目的
ACSM/AND/DC(Thomas et al., 2016)1.2〜2.0強化トレーニング期・減量期はさらに高い値が必要
Witard et al.(2025, Sports Medicine)約1.8(推奨)習慣的摂取量は約1.5。糖質制限期は2.0超の可能性
一般的な筋肥大目的1.6〜2.2メタ分析での最適値は約1.6

Witard et al.(2025, Sports Medicine)のナラティブレビューによれば、持久系アスリートの習慣的なタンパク質摂取量は約1.5g/kg/日にとどまっているが、推奨値は約1.8g/kg/日であり、不足している可能性が指摘されている。糖質制限トレーニング(train low戦略)の期間にはタンパク質需要が2.0g/kg/日を超える可能性があるとされる。

体重別のタンパク質摂取量目安(1.8g/kg/日の場合)は、55kgで99g、60kgで108g、65kgで117g、70kgで126g、75kgで135gとなる。食事だけで1日120g以上のタンパク質を摂取するのは容易ではなく、プロテインパウダーによる補完が現実的な選択肢となる。

筋肥大目的との違いは、持久系では糖質確保が最優先でありタンパク質はリカバリー補助という位置づけである点にある。筋肥大目的ではタンパク質量が最優先される。ただし1回20〜40gを3〜4時間間隔で摂取するパターンがMPS(筋タンパク質合成 / Muscle Protein Synthesis)を最大化するという点は共通している。

持久系運動後のタンパク質摂取はなぜリカバリーに寄与するのか

持久系運動後のタンパク質摂取がリカバリーに寄与するメカニズムは3つ報告されている。

第一に、筋構造タンパク質のリモデリングである。Breen et al.(2011, Journal of Physiology)はトレーニングを積んだサイクリスト10名を対象に、90分間の中高強度サイクリング(77% VO2max)後に糖質のみを摂取した群と、糖質+ホエイプロテイン合計20gを摂取した群を比較した(運動直後と30分後の2回に分けて摂取)。その結果、糖質+タンパク質群ではミオフィブリラー(筋原線維)MPSが有意に増加したと報告されている。ミトコンドリアMPSには差が認められなかった。持久系運動であっても、筋構造タンパク質のリモデリングにタンパク質が関与していることを示す知見である。

第二に、グリコーゲン再合成の補助である。複数の研究を統合すると、運動後の糖質摂取量が最適量(1.2g/kg/h)に満たない条件ではタンパク質の追加がグリコーゲン再合成を促進する可能性が報告されている(Alghannam et al., 2018, Nutrients)。一方、糖質摂取量が1.2g/kg/h以上の十分な条件ではタンパク質追加によるグリコーゲン再合成の追加効果は確認されていない。ただしMPSの改善は糖質が十分な条件でも認められている。

第三に、酸化的アミノ酸損失の補填である。持久系運動中はアミノ酸の酸化的分解が進むため、運動後にタンパク質を摂取して損失分を補填する必要がある。Witard et al.(2025, Sports Medicine)はこの酸化損失を持久系アスリートがタンパク質を多く必要とする理由の一つとして挙げている。

運動直後の「ゴールデンタイム」は本当に重要なのか

運動後30〜60分の「アナボリックウィンドウ(anabolic window)」にタンパク質を摂取すべきとする考え方は広く知られているが、最新の知見ではこの時間枠は以前考えられていたほど狭くない可能性が指摘されている。

Churchward-Venne et al.(2020, American Journal of Clinical Nutrition)は持久系運動後のMPS最大化には30gのタンパク質(ロイシン約3g含有)が必要であるとしているが、厳密な摂取タイミングについては「5〜6時間のウィンドウ」である可能性も議論されている。ただし、絶食状態でトレーニングを行った場合(朝練前に食事をしなかった場合など)には、運動直後の速やかなタンパク質摂取がより重要になるとされている。

吸収速度の観点では、WPH(加水分解ホエイプロテイン)とWPC(ホエイプロテインコンセントレート)に差がある。WPHは消化プロセスをほぼスキップしてPepT1トランスポーター経由でジペプチド・トリペプチドが直接吸収されるため、血中アミノ酸のピークは摂取後30〜60分で到達する。WPCは胃と小腸での消化が必要なため、ピークは60〜120分後となる。

Buckley et al.(2010, Journal of Science and Medicine in Sport)は座位中心の男性28名を対象に100回の最大偏心性収縮後のリカバリーを比較した。WPI 25g群と水群では等尺性トルク(PIT)が約23%低下した状態が持続したのに対し、WPH 25g群では6時間でベースライン水準まで回復したと報告されている。ただしこの研究はアスリートではなく座位中心の一般男性を対象としており、持久系アスリートへの直接的な適用には留意が必要である。この結果は、WPHの速い吸収速度が筋力回復の促進に関与する可能性を示唆するものと位置づけられている。

持久系アスリートにWPHが有利と考えられるシナリオは以下の4つである。レース直後で胃腸が不安定な状況(消化プロセスのスキップが有利)、連日の高強度トレーニングで回復時間が限られる状況、糖質制限期でタンパク質需要が2.0g/kg超に増加する状況、そしてロイシン閾値への早期到達が必要な状況である。

持久系アスリート向けプロテインのスペックを比較するとどうなるか

持久系アスリートがプロテインを選ぶ際に重要なスペック軸は、タンパク質量・脂質量・吸収速度・糖質との併用設計の4点である。2026年3月時点の製品情報は各メーカー公式サイトに基づく。

製品は「タンパク質特化型」と「糖質+タンパク質混合型」の2カテゴリに分かれる。

タンパク質特化型(タンパク質20g以上/食)

製品名種類タンパク質/食脂質/食甘味料ロイシン認証
BAZOOKA WPHWPH(350Da)20.1〜20.5g0.1〜0.8g羅漢果3.0gInformed Choice
Dymatize ISO 100WPH+WPI25g0.5〜1gスクラロース+ステビア2.6gInformed Choice
ゴールドスタンダードWPI+WPC+ペプチド24g1gアセスルファムK
BAZOOKA WPCWPC21〜22g1.7〜1.8g羅漢果/ステビアInformed Choice
WINZONE ホエイWPC21g人工甘味料(一部)Informed Choice

糖質+タンパク質混合型(リカバリードリンク)

製品名種類タンパク質/食糖質/食特記成分
DNS R4 リカバリー糖質主体6.1g36.6g(炭水化物)HMBCa 1,500mg、グルタミン5,000mg
SAVAS プロ WPIリカバリーWPI+ペプチド+糖質5.8g19.1g10種ビタミン、4種ミネラル

タンパク質特化型で脂質が低い製品としてBAZOOKA WPH(サワーレモン味で脂質0.1g/食)やDymatize ISO 100(0.5〜1g/食)がある。持久系アスリートにとって低脂質は胃腸負担の軽減につながる。糖質+タンパク質混合型はグリコーゲン補充が主目的であり、タンパク質量は少ないため、MPS最大化にはタンパク質特化型との併用が前提となる。

よくある質問

Q: 持久系アスリートは筋肥大目的の人よりタンパク質が少なくてよいのか

A: 推奨量の範囲は大きく変わらない。ISSNは持久系・筋力系を問わず1.4〜2.0g/kg/日を推奨している(Jäger et al., 2017, JISSN)。ただし目的が異なる。筋肥大ではタンパク質量が最優先だが、持久系では糖質確保が最優先であり、タンパク質はリカバリー補助の位置づけである。糖質が不足している状態でタンパク質を追加してもグリコーゲン再合成は不十分となるため、まず糖質を確保した上でタンパク質を追加するのが持久系の基本戦略とされている。

Q: レース直後にプロテインを飲んでも胃もたれしないか

A: レース直後は運動による血流再分配で消化機能が低下している場合がある。WPC(ホエイプロテインコンセントレート)は胃と小腸での消化が必要なため、この状態では胃もたれが生じやすい。WPH(加水分解ホエイプロテイン)は分子量350〜500Daまで低分子化されており、消化プロセスをほぼスキップしてPepT1トランスポーター経由で吸収されるため、胃腸への負担が比較的少ないと考えられている。BAZOOKA WPH(350Da)やDymatize ISO 100等のWPH製品はレース直後の摂取に適した選択肢といえる。

Q: ランニング後にWPH製品を選ぶメリットは何か

A: WPH製品は分子量350〜500Daの低分子ペプチドが主体であり、消化プロセスをスキップして速やかに吸収される。持久系アスリートにとっては、低脂質(WPH製品は一般に脂質0.1〜1g/食)による胃腸負担の軽減と、ロイシン2.5〜3.0g/食によるMPS起動が期待できる。Informed Choice認証を取得したWPH製品(BAZOOKA WPH、Dymatize ISO 100等)はアンチドーピングの観点でも選択肢となる。天然甘味料使用や無添加の製品もあるため、甘味料の好みに応じて選ぶことができる。

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参考文献

  • Jäger R, Kerksick CM, Campbell BI, et al. (2017). International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14, 20.
  • Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. (2016). Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance. Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics, 116(3), 501-528.
  • Witard OC, Hearris M, Morgan PT. (2025). Protein Nutrition for Endurance Athletes: A Metabolic Focus on Promoting Recovery and Training Adaptation. Sports Medicine, 55(6), 1361-1376.
  • Breen L, Philp A, Witard OC, et al. (2011). The influence of carbohydrate-protein co-ingestion following endurance exercise on myofibrillar and mitochondrial protein synthesis. Journal of Physiology, 589(16), 4011-4025.
  • Churchward-Venne TA, et al. (2020). Dose-response effects of dietary protein on muscle protein synthesis during recovery from endurance exercise in young men. American Journal of Clinical Nutrition, 112(2), 303-317.
  • Buckley JD, Thomson RL, et al. (2010). Supplementation with a whey protein hydrolysate enhances recovery of muscle force-generating capacity following eccentric exercise. Journal of Science and Medicine in Sport, 13(1), 178-181.