クレアチンは加齢による認知機能低下を遅らせるか — 中高年の脳機能維持に関する研究

クレアチン補給が中高年の認知機能に与える影響を、RCT・メタ分析・MRS研究の数値データとともに整理する。Prokopidis 2022 Corrigendum後の訂正値、高齢者サブグループのSMD=0.88、腎機能との関係も含めて解説する。

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本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

Marshall et al.(2026, Nutrition Reviews)が55歳以上を対象とした6研究・n=1542のシステマティックレビューをまとめたところ、対象研究の83.3%で記憶力または注意力に正の関連が報告された。Prokopidis et al.(2022, Nutrition Reviews)のメタ分析は出版後に訂正(Corrigendum)が公表されており、全体効果量はSMD=0.29(p=0.02)からSMD=0.19(p=0.15)に修正されて統計的有意性が消失した。ただし高齢者サブグループ(66〜76歳)のみでは訂正後もSMD=0.88(95%CI 0.22–1.55、p=0.009)が維持されており、若年者(11〜31歳)のSMD=0.03(非有意)との対比が注目されている。

クレアチンは加齢で減少するのか

脳内クレアチン代謝は加齢とともに変化することが磁気共鳴分光法(magnetic resonance spectroscopy、MRS)研究で報告されているが、変化の方向は脳領域によって異なる。Rawson & Venezia(2011, Amino Acids)がレビューで整理したところ、加齢によって脳のエネルギー代謝効率が低下し、ホスホクレアチン系の緩衝能が縮小する可能性が複数の観察研究で示唆されている。ただし「脳内クレアチン濃度が一様に低下する」とは断言できず、現時点では「脳内エネルギー代謝の効率低下」という表現がより正確である。

食事からのクレアチン摂取量も加齢に伴って減少しやすい。クレアチンは主に赤肉・魚に含まれており(生肉100gあたり約0.5〜2g)、食欲低下や動物性食品の摂取減少が起こりやすい中高年ではベースラインのクレアチン貯蔵量が低くなりやすい傾向がある。Avgerinos et al.(2018, Experimental Gerontology)は、ベースラインのクレアチン状態が低い集団で補給効果が大きくなるというパターンを確認している。

加えて、加齢によって体内でのクレアチン合成に関わる酵素活性が低下するという知見もある。内因性クレアチン合成はグリシン・アルギニン・メチオニンを基質とし、腎臓と肝臓で行われるが、この合成量が加齢とともに縮小する可能性がRawson & Veneziaのレビューで整理されている(孫引き原著: Walker, 1979)。

中高年の脳のクレアチン濃度と認知機能の関係はどうか

Avgerinos et al.(2018, Experimental Gerontology)のシステマティックレビュー(RCT 6件、n=281)は、短期記憶・推論・知能のドメインで改善を示す根拠を確認した。このレビューでは高齢者とベジタリアンという2つのサブグループで特に効果が顕著であることが報告されており、ベースラインのクレアチン濃度が低い集団ほど補給効果が大きいというパターンが示唆されている。

Marshall et al.(2026, Nutrition Reviews)は55歳以上に対象を絞ったシステマティックレビューとして最新のエビデンスをまとめた。6研究のうち5研究(83.3%)で記憶力または注意力に正の関連が報告されたが、著者は方法論的質として「良好(good)」が1研究、「不良(poor)」が3研究、「中程度(fair)」が2研究であることを指摘しており、エビデンスの質は低〜中程度にとどまると評価している。なお6研究のうち4研究は食事由来クレアチン摂取量を評価した横断観察研究であり、補給介入の効果を直接測定したRCTは2研究にとどまる。横断研究は因果関係を示せない設計であるため、「クレアチン補給→認知機能改善」という因果推論には適さない点に注意が必要である(本レビューの方法論的限界を指摘する書簡が同誌に掲載されている: Nutrition Reviews, advance article)。

一方でSmith et al.(2025)は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)患者20名を対象としたシングルアームパイロット試験(クレアチン20g/日×8週間)において、脳内総クレアチン(total creatine、tCr)が+11%増加し、複数の認知指標(NIH Toolbox global composite p=0.02、fluid composite p=0.004、List Sorting Working Memory p=0.001)で統計的有意な改善が観察されたと報告している。ただし対照群のないシングルアーム試験であり、練習効果やプラセボ効果を排除できないため、著者ら自身は「効果の確認には対照群を設けたRCTの追試が必要」と述べている。アルツハイマー病患者を対象としており軽度認知障害(mild cognitive impairment、MCI)患者とは集団が異なる点にも留意が必要である。

RCT・メタ分析の結果はどうなっているか

Prokopidis et al.(2022, Nutrition Reviews)のメタ分析(RCT 8件、n=225)は、出版後にEckertらが二重カウントを指摘するLetter to the Editorを発表し、著者らによる再解析(Author’s Reply)が同誌に掲載された経緯がある。再解析前の全体効果量はSMD=0.29(95%CI 0.04–0.53、p=0.02)と有意であったが、再解析後はSMD=0.19(95%CI -0.07–0.45、p=0.15)に修正されて統計的有意性が消失した。ただし高齢者サブグループ(66〜76歳)ではSMD=0.88(95%CI 0.22–1.55、p=0.009)が再解析後も有意を維持しており、若年者(11〜31歳)のSMD=0.03(非有意)と大きく異なる。

若〜中年成人(平均年齢30.6歳)を対象としたSandkühler et al.(2023)の二重盲検RCTでは、5g/日を6週間投与しても認知機能の有意な向上は認められなかった。この結果は、「若〜中年健常者の通常条件下では補給効果が現れにくく、高齢者や脳のエネルギー需要が高まるストレス条件下で効果が顕在化する可能性がある」という仮説と整合する。

EFSA(欧州食品安全機関)は2024年に一般成人を対象としたクレアチンと認知機能のヘルスクレーム申請を「因果関係が確立されていない」として却下した。この評価は一般成人を対象としたものであり、中高年や高齢者に特化した評価ではない点に留意が必要である。MCIを主対象としたRCTは現時点でほとんど実施されておらず、NCT06948149として登録された進行中試験はまだ結果が公表されていない。

以下の表は、中高年・加齢関連のクレアチン認知研究をまとめたものである(公開年降順)。

著者(年)対象(年齢・状態)n投与量・期間主要結果
Smith et al.(2025)アルツハイマー病患者(パイロット・対照群なし)2020g/日×8週脳内tCr +11%、認知global composite p=0.02・fluid p=0.004(対照群なし・追試必要)
Marshall et al.(2026)55歳以上・健常〜軽度認知低下1542(6研究合算)複数条件83.3%の研究で記憶・注意力に正の関連(方法論的質は低〜中程度)
Sandkühler et al.(2023)若〜中年健常者(平均30.6歳)RCT単施設5g/日×6週認知機能に有意な向上なし(若年健常者への外挿限界)
Prokopidis et al.(2022、訂正後)成人混合(サブグループ: 66〜76歳)225(8RCT合算)複数条件全体SMD=0.19(非有意); 高齢者SMD=0.88(p=0.009)
Avgerinos et al.(2018)健常成人(高齢者・ベジタリアン多含)281(6RCT合算)複数条件短期記憶・推論・知能に改善根拠。高齢者・ベジタリアンで顕著
McMorris et al.(2007)健常成人(年齢記載なし)、睡眠剥奪条件19記載省略(睡眠剥奪後投与)反応時間・バランス・気分の低下が有意に小さい(年齢特化ではない)

※本表は公開年降順に並べた。McMorris 2007は加齢特化ではなく睡眠剥奪条件の参照値として掲載した。製品スペックは各メーカー公式サイトの情報に基づく(2026年5月時点)。

中高年が摂取する場合の用量・期間・注意点はあるか

国際スポーツ栄養学会(ISSN)の2017年ポジションスタンド(Kreider et al., 2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition)では、維持量として3〜5g/日を推奨している。ローディング(20g/日、5〜7日間)は筋肉内クレアチン貯蔵の飽和を早める方法として示されているが、高齢者への高用量ローディングは消化器症状(下痢・胃痛)のリスクが相対的に高く、3〜5g/日の維持量を継続する方法がより負担が少ないとされている。

加齢による腎機能低下(糸球体濾過率:eGFRの自然低下)が起こりやすい中高年では、高用量のローディングプロトコルに伴う消化器症状のリスクと、血中クレアチニン値の一時的上昇(クレアチン由来)が腎機能検査値の解釈を複雑にする可能性がある。Kreider et al.(2017)は健常者において30g/日×5年間でも安全と結論づけているが、この安全性データは主に健常な若年〜中年成人のものである。重篤な既存腎疾患(慢性腎臓病ステージ3以上)を持つ患者を対象とした臨床試験は限定的であり、適用判断には主治医との相談が必要となる。

健常な高齢者においてクレアチン補給が腎機能を悪化させたという報告は現時点では確認されていないが、この集団における長期安全性データは限られており、データの不在を「安全である」という証明として解釈すべきではない。慢性腎疾患・糖尿病性腎症などの既往がある場合には摂取前に担当医への確認が必要である。血中クレアチニン値は補給によって上昇することがあり、クレアチン由来のクレアチニン上昇と腎機能低下によるクレアチニン上昇を区別するにはシスタチンC(cystatin C)などの補完的な腎機能マーカーを用いた評価が有用とされている(詳細は([/guides/creatine-kidney-safety])参照)。

よくある質問

Q. 中高年が摂取する場合の用量はどれくらいか

A. ISSNポジションスタンド(Kreider et al., 2017)に基づく維持量は3〜5g/日とされている。高齢者を対象とした認知機能研究では5g/日が多く使用されており、高用量ローディング(20g/日×5〜7日)は消化器症状のリスクから推奨しにくいとする研究者もいる。3〜5g/日を数週間以上継続する方法が多くの研究で採用されており、体格に応じて個別に調整する必要がある。なお摂取前に医療専門家に相談することを推奨する。

Q. 腎機能が気になる場合に摂取しても問題ないか

A. 健常な高齢者においては、クレアチン補給が腎機能を悪化させるというエビデンスは現時点で確認されていない。ただし、血中クレアチニン値が補給によって上昇することは事実であり、腎機能マーカーとの混同が起こりやすい。慢性腎疾患・糖尿病性腎症など既往のある場合や、定期的な血液検査で腎機能の値が気になる場合は、担当医または管理栄養士に相談してから摂取の可否を判断することが必要である。

Q. アルツハイマー病やMCIへの効果は確立されているか

A. 現時点では確立されていない。Smith et al.(2025)のアルツハイマー病患者対象パイロット試験(n=20)では脳内tCr +11%増加と認知指標の統計的有意な改善(global composite p=0.02 ほか)が観察されたが、対照群のないシングルアーム試験のため練習効果・プラセボ効果を排除できず、追試が必要とされる段階にある。MCIを主対象としたRCTはほとんど行われておらず、進行中の試験(NCT06948149)はまだ結果が公表されていない。疾患の進行抑制や治療としての評価は現在研究段階であり、医師の管理下での疾患対応として位置づける必要がある。

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参考文献

  • Prokopidis, K. et al. (2022). Effects of creatine supplementation on memory in healthy individuals: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Nutrition Reviews, 81(4), 416-427. DOI: 10.1093/nutrit/nuac064
  • Marshall, S. et al. (2026). Creatine and Cognition in Aging: A Systematic Review of Evidence in Older Adults. Nutrition Reviews, 84(2), 333-344. DOI: 10.1093/nutrit/nuaf135
  • Avgerinos, K.I. et al. (2018). Effects of creatine supplementation on cognitive function of healthy individuals: a systematic review of randomized controlled trials. Experimental Gerontology, 108, 166-173. DOI: 10.1016/j.exger.2018.04.013
  • Rawson, E.S. & Venezia, A.C. (2011). Use of creatine in the elderly and evidence for effects on cognitive function in young and old. Amino Acids, 40(5), 1349-1362. DOI: 10.1007/s00726-011-0855-9
  • Kreider, R.B. et al. (2017). International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14, Article 18. DOI: 10.1186/s12970-017-0173-z
  • McMorris, T. et al. (2007). Creatine supplementation and cognitive performance in elderly individuals. Aging, Neuropsychology, and Cognition, 14(5), 517-528. DOI: 10.1080/13825580600788100
  • EFSA Panel on Nutrition, Novel Foods and Food Allergens (2024). Scientific opinion on creatine and cognitive function. EFSA Journal.