授乳中にプロテインを飲んでも大丈夫か — 母乳への影響・必要量・選び方の科学的根拠
授乳中のプロテインパウダー摂取について、タンパク質の必要量、人工甘味料の母乳移行データ、WPHの母乳アレルゲン低減効果、重金属リスクを論文に基づいて整理。授乳中に選ぶべきプロテインの条件を4軸で比較する。
- 授乳
- プロテイン
- 母乳
- 人工甘味料
- 産後
- WPH
- タンパク質
本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。
授乳中の女性はタンパク質の必要量が増加する。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、授乳婦のタンパク質付加量を+20g/日とし、合計で1日約70gを目安としている。プロテインパウダーはこの不足分を補う手段の一つだが、製品に含まれる人工甘味料や重金属の母乳移行が懸念されることがある。結論として、タンパク質そのものは授乳中に積極的に摂取すべき栄養素であり、製品の甘味料・認証・製法を確認した上で選べばプロテインパウダーの活用は合理的な選択肢となりうる。
授乳中のタンパク質はどれくらい必要なのか
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人女性の推奨量50g/日に対し、授乳婦は+20g/日の付加が推奨されている。合計70g/日が目安となる。
Rasmussen et al.(2020, Current Developments in Nutrition)は、授乳中女性のタンパク質必要量がEAR(推定平均必要量 / Estimated Average Requirement)の1.05g/kg/日を上回り、1.7〜1.9g/kg/日(EARの約1.6〜1.8倍)に達する可能性を示唆している(n=11の予備的研究であり、現行の食事摂取基準を置き換えるものではない)。体重55kgの女性で93〜105g/日に相当する計算であり、厚生労働省の70g/日よりさらに高い値だが、追試が求められている段階である。
授乳中のタンパク質が不足すると、母乳の組成に影響が生じる可能性がある。Dewey(1997, Annual Review of Nutrition)は、母体の食事タンパク質が低下すると母乳中の非タンパク質窒素(non-protein nitrogen)が減少することを報告している。Wren et al.(2025)の研究では、高タンパク食を摂取する母親の母乳はタンパク質含量が高い傾向が示されている。
なお、授乳中は腰椎・大腿骨頸部で4〜7%の骨密度低下が生じることが知られているが、離乳後6〜12ヶ月で回復するとされている(Grizzo et al., 2020, Osteoporosis International)。タンパク質は骨基質の構成要素でもあり、十分な摂取が重要である。
食事だけで70〜100g/日のタンパク質を確保するのは容易ではない。鶏むね肉100gでタンパク質約23g、卵1個で約6g、牛乳200mlで約7gである。産後の生活で十分な食事時間を確保できない場合、プロテインパウダー1食(タンパク質20〜25g)で不足分を効率的に補える。
プロテインパウダーの成分は母乳に移行するのか
プロテインパウダーの主成分であるホエイタンパク質は、消化されてアミノ酸やペプチドとして吸収される。アミノ酸は母体の代謝経路を経て母乳タンパク質の原料となる通常の栄養素であり、プロテインパウダー由来のタンパク質が特別な形で母乳に移行するわけではない。
ただし、未消化のタンパク質が微量に母乳へ移行する現象は知られている。Fukushima et al.(1997, Journal of Nutritional Science and Vitaminology)は、授乳婦にホエイ加水分解物(WPH)を長期摂取させた介入試験において、母乳からのβ-ラクトグロブリン(beta-lactoglobulin)検出率が牛乳摂取群の85%に対し17%に低下したと報告している。β-ラクトグロブリンは乳児の牛乳アレルギーの主要アレルゲンの一つである。ただし、この研究は約30年前のものであり、現在のWPH製品の加水分解度・製造工程とは異なる可能性がある点に留意が必要である。
重金属の観点では、Bandara et al.(2020, Toxicology Reports)がプロテインサプリメントの重金属汚染を分析し、植物性プロテインはホエイプロテインよりヒ素含有量が高い傾向にあったと報告している。同研究ではハザード指数(HI)が1未満であり、通常の摂取量では健康リスクは低いと結論づけている。授乳中に重金属の摂取を最小限にしたい場合、ホエイプロテインが選択肢の一つとなる。
人工甘味料は母乳を通じて赤ちゃんに届くのか
Rother et al.(2018, Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition)は、授乳中の女性が人工甘味料を摂取した場合の母乳中濃度を測定している。スクラロース(sucralose)は母乳から検出され、中央値ピーク濃度は8.1ng/mL(範囲: 4.0〜7,387.9ng/mL)であった。アセスルファムK(acesulfame potassium)も中央値ピーク945.3ng/mL(範囲: 299〜4,764ng/mL)で検出された。個人差が非常に大きいことがこのデータの特徴である。なお、この研究の測定対象はスクラロースとアセスルファムKの2種であり、アスパルテーム等の他の甘味料は測定されていない。
この結果は、スクラロースとアセスルファムKが母乳を通じて乳児に移行することを示している。ただし、検出された濃度が乳児の健康にどのような影響を与えるかについては、現時点で十分な長期データが蓄積されていない。Rother et al.自身も「乳児への影響は不明」と述べている。
スクラロースとアセスルファムKの母乳移行を避けたい場合は、天然甘味料(羅漢果 / monk fruit、ステビア / stevia)使用の製品か、無添加(プレーン)のプロテインを選ぶ方法がある。ただし、天然甘味料については母乳への移行に関する定量的データ自体が存在せず、「データがないからリスクが低い」とは結論づけられない。LactMed(2024年更新)はステビアについて「母乳中に排出されるかどうかのデータは存在しない」としている。現時点で確実に母乳移行を排除できるのは無添加(プレーン)の製品のみである。
授乳中に安心して飲めるプロテインの条件とは何か
授乳中のプロテイン選びでは、通常のプロテイン選びに加えて以下の4つの条件が重要となる。
- 人工甘味料の有無: スクラロース・アセスルファムKは母乳移行が確認されている(Rother et al., 2018)。天然甘味料または無添加の製品が選択肢となる
- 第三者認証の有無: 禁止物質や重金属の混入リスクを低減するため、Informed Choice・Informed Sport等の第三者認証を取得した製品が望ましい
- 製法(WPC / WPI / WPH): WPHは母乳へのβ-ラクトグロブリン移行が低いことが報告されている(Fukushima et al., 1997)。乳児の牛乳アレルギーリスクが気になる場合の選択肢となる
- 重金属リスク: ホエイプロテインは植物性プロテインより重金属含有量が低い傾向が報告されている(Bandara et al., 2020)
以下の表は、上記4条件で主要製品を比較したものである。製品スペックは各メーカー公式サイトの情報に基づく(2026年3月時点)。
| 製品 | 製法 | 甘味料 | 第三者認証 | 母乳移行リスク要因 | 1食あたりコスト |
|---|---|---|---|---|---|
| LIMITEST ホエイペプチド | WPH | なし(無添加) | なし | 低(WPH+甘味料なし) | ¥174 |
| BAZOOKA WPH | WPH | 羅漢果(天然) | あり | 低(WPH+認証)/天然甘味料は母乳移行データ未整備 | ¥497 |
| GronG WPI パフォーマンス | WPI | フレーバーにより異なる | なし | 中(WPIだがβ-LG移行はWPCより低い) | ¥217 |
| SAVAS ホエイプロテイン100 | WPC | スクラロース+アセスルファムK | なし | 高(WPC+人工甘味料2種) | ¥209 |
| DNS プロテインホエイ100 | WPC | スクラロース+アセスルファムK+ネオテーム | なし | 高(WPC+人工甘味料3種) | ¥193 |
表中の「母乳移行リスク要因」は、本記事で取り上げた論文データに基づく定性的な評価であり、臨床的なリスク判定ではない。各製品の安全性はいずれもFDAおよび厚生労働省の基準に適合している。授乳中の製品選択については医療専門家への相談を推奨する。
よくある質問
WPHや無添加プロテインは授乳中に向いているのか
WPH製法は乳糖が低減されており消化負担が少ない。天然甘味料(羅漢果・ステビア)使用の製品は人工甘味料の母乳移行リスクを回避できるが、天然甘味料の母乳移行データは現時点で存在せず、「天然甘味料だから安全」とは断言できない。確実に甘味料の母乳移行を避けるならLIMITEST等の無添加製品が選択肢となる。いずれの製品であっても、授乳中の摂取開始前に医師または管理栄養士に相談することを推奨する。
産後ダイエット目的でプロテインを飲んでも母乳に影響はないか
Trindade de Castro et al.(2019, Maternal and Child Nutrition)は、産後の高タンパク食が体重減少に有意に寄与したと報告している。授乳に必要なカロリー(授乳婦は+350kcal/日が目安)とタンパク質(+20g/日)を確保した上での体重管理は、母乳の質に悪影響を与えないとされている。ただし、極端なカロリー制限は母乳分泌を減少させる可能性があるため、授乳中のダイエットは緩やかな体重減少にとどめ、具体的な目標設定は医療専門家と相談の上で決めることが望ましい。
ソイプロテインの方が授乳中は安全か
ソイプロテイン(soy protein)は乳糖を含まず、乳由来アレルゲンの母乳移行リスクがないという点でメリットがある。一方、Bandara et al.(2020)の分析では植物性プロテインの重金属含有量がホエイプロテインより高い傾向にあった。また、大豆にはイソフラボン(isoflavone)が含まれ、授乳中の高用量摂取について十分なデータが蓄積されていない。授乳中のプロテイン選択は、乳アレルギー歴・重金属リスク・イソフラボン摂取量を総合的に考慮し、医療専門家と相談の上で判断されたい。
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参考文献
- 厚生労働省. (2025). 日本人の食事摂取基準(2025年版).
- Rasmussen B, et al. (2020). Protein requirements of healthy lactating women are higher than the current recommendations. Current Developments in Nutrition, 4(Suppl 2), 653.
- Dewey KG. (1997). Energy and protein requirements during lactation. Annual Review of Nutrition, 17, 19-36.
- Wren HM, et al. (2025). Maternal diet composition and human milk macronutrient content. Nutrients, 17(5), 821.
- Fukushima Y, et al. (1997). Long-term consumption of cow milk formula by lactating women reduces the transfer of beta-lactoglobulin into human milk. Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 43(6), 673-678.
- Rother KI, et al. (2018). Pharmacokinetics of sucralose and acesulfame-potassium in breast milk following ingestion of diet soda. Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition, 66(3), 466-470.
- Bandara SB, et al. (2020). Protein supplements: heavy metal contamination and regulatory oversight. Toxicology Reports, 7, 1255-1262.
- Trindade de Castro MB, et al. (2019). High protein diet promotes body weight loss among Brazilian postpartum women. Maternal and Child Nutrition, 15(4), e12874.
- Grizzo FMF, et al. (2020). Pregnancy, lactation and bone health. Osteoporosis International, 31, 1069-1076.