妊娠中にプロテインを飲んでも大丈夫か — 必要量・甘味料・ホエイの安全性の科学的根拠

妊娠後期のタンパク質付加量は+25g/日。プロテインパウダーの甘味料の胎盤通過性、重金属リスク、第三者認証の有無を論文データで整理し、妊婦のプロテイン選びの判断材料を4つの軸で比較する。

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本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

妊娠後期のタンパク質推奨付加量は+25g/日(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025年版」)であり、食事のみで確保が難しい場合にプロテインパウダーが補助的な選択肢となる。ただし製品に含まれる甘味料の種類によって胎盤通過性に関するデータが異なり、重金属含有量は原料の種類(ホエイ vs 植物性)でリスクが変わる。この記事では妊娠期のタンパク質必要量、主要甘味料の安全性データ、ホエイプロテインの重金属リスク、製品選定の考え方を論文に基づいて整理する。

妊娠中のタンパク質必要量はどれくらいか — 厚労省・IAAO法の最新知見

厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025年版」は、妊婦のタンパク質推奨量の付加量を初期+0g/日、中期+5g/日、後期+25g/日としている。非妊娠女性の推奨量50g/日を基準とすると、妊娠後期は75g/日が推奨水準となる。

IAAO法(指標アミノ酸酸化法(indicator amino acid oxidation method))を用いたElango & Ball(2016, Advances in Nutrition)の研究によると、妊娠初期の推定平均必要量(EAR)は1.22 g/kg体重/日、妊娠後期では1.52 g/kg体重/日に達する。体重60kgの妊婦であれば後期で約91g/日が必要と計算される。WHO/FAO/UNUの旧基準(後期付加量+31.2g/日)を踏まえると、IAAO法による実測値は必要量がより高い方向を示している。実際のカナダ人妊婦の摂取量(1.3〜1.5 g/kg/日)は、この範囲に概ね収まっていることも同研究で報告されている(Elango & Ball, 2016, Advances in Nutrition, DOI: 10.3945/an.115.011817)。

食事でタンパク質75g/日以上を確保するには、主食・主菜・副菜のバランスに加えて間食や補食でタンパク質源を追加する必要がある。プロテインパウダー1食分(20〜25g)は、こうした補食としての位置づけで活用される。

ホエイプロテインと妊娠中の胎児発育

妊娠24〜36週の300名を対象としたRCT(ランダム化比較試験(randomized controlled trial))では、ホエイプロテイン25g/日の補給群と対照群で胎児発育制限(FGR(fetal growth restriction))の発症率に有意差は認められなかった(20% vs 18.75%、統計的有意差なし)。一方、母体の総タンパク質値と血清カルシウム値は補給群で有意に改善した(Ali et al., 2024, Hellenic Journal of Obstetrics and Gynecology, DOI: 10.33574/hjog.0575)。この研究は妊娠中のホエイプロテイン摂取に関する初期のRCTエビデンスであり、sample sizeの限界や単施設という条件のある研究であることを踏まえて解釈する必要がある。

プロテインパウダーの甘味料は胎児に影響するのか — 胎盤通過性の研究

甘味料の胎盤通過については、ヒトの帝王切開時に母体・胎児血液・羊水を採取した研究(Leth-Møller et al., 2023, Nutrients)が胎盤通過を実証している。スクラロース(sucralose)の胎児/母体血漿濃度比は0.57(95%CI 0.42〜0.73)、アセスルファムK(acesulfame potassium)は0.80(95%CI 0.70〜0.90)であり、いずれも胎盤を通過して胎児循環に移行することが確認された。甘味料は胎児が腎排泄後に羊水を飲み込む経路で胎児-羊水間を循環するとも報告されている。

スクラロースの大量摂取(>36mg/日)と軽量摂取(<60mg/週)を比較した前向き断面研究(292名)では、大量摂取群の新生児で出生体重の有意増加(3.2±0.6 vs 2.8±0.1 kg、p=0.0005)、臍帯血インスリン上昇(15.4±5.7 vs 12.2±3.8 mU/L、p=0.0425)、炎症性非古典的単球の増加(8.1% vs 4.9%、p<0.001)が観察された(Aguayo-Guerrero et al., 2023, Biomedicines, DOI: 10.3390/biomedicines11030650)。ただしこの研究は横断研究であり因果関係は未確立で、大量摂取(>36mg/日)のリスクを示した研究である。プロテインパウダー1食分に含まれるスクラロース量は製品によって異なるが、この研究の「大量摂取」閾値(>36mg/日)との比較では製品ごとに判断が必要となる。

ステビア・羅漢果(モグロシド(mogroside))の妊娠中データ

ステビアについては、Pope et al.(2014, Canadian Family Physician)がHealth Canadaのレビューとしてヒト妊娠データが存在しないと報告している。動物試験では催奇形性(teratogenicity)なしが確認されているが、ヒトへの外挿は限定的である。EFSA(欧州食品安全機関)は2024年にステビオール配糖体(steviol glycosides)のADIを4 mg/kg体重/日(スティビオール当量)として維持し、生殖毒性・催奇形性・発がん性なしを動物試験で確認している。羅漢果(モグロシド)については公的機関による妊娠時の安全性評価データが現時点でさらに限られており、ヒト妊娠データは確認されていない。「動物試験でリスク報告なし」「現時点でヒトデータなし」という状況は「安全と確定」ではなく「データ不足」を意味する。

WHO(世界保健機関)は2023年に、体重管理目的の非栄養甘味料(non-nutritive sweeteners)の使用を長期的な効果が確認されていないとして推奨しない指針を発出した。妊娠期という特殊な文脈でのリスク・ベネフィットの評価は、各自の医療専門家との相談に委ねられる。

ホエイプロテインの重金属リスクは妊婦に問題となるのか

プロテインパウダーの重金属リスクについては、Clean Label Project(CLP、133製品)とConsumer Reports(15製品)の既存データを二次解析したBandara et al.(2020, Toxicology Reports)がホエイプロテインの相対的リスクを示している。ホエイプロテイン製品は植物性プロテイン製品と比較して重金属含有量が低い傾向にあり、1日3食分を摂取した場合のHazard Index(ハザードインデックス)はホエイで0.090〜0.445と、安全閾値(<1.0)を下回る範囲に収まった。なお、CLPは査読なし・方法論非開示の業界レポートであり、Bandara自身が133製品を独自に測定したわけではないことを付記する。

妊婦における鉛・カドミウムの胎盤蓄積に関する研究(Caserta et al., 2011)は主に環境曝露(鉛工場近傍・高汚染地域の妊婦)を対象としており、食品中の微量重金属による曝露とは桁が異なる文脈の研究である。プロテインパウダー由来の重金属摂取量を環境曝露研究と同列に論じることは適切ではない。

ホエイが植物性より重金属リスクが低い背景として、ホエイは牛乳由来で植物の根・葉からの土壌汚染物質吸収という経路を経ないことが指摘されている。ただし製品ごとの品質管理体制は異なり、第三者機関による定期的なバッチ検査(batch testing)の有無が製品選定の一指標となる。

妊娠中に適したプロテインの選び方は何か

妊婦向けのプロテインパウダー選定に関して、現在確立されたガイドラインは存在しない。以下の比較表は主要な検討軸として甘味料の種類・胎盤通過データ・第三者認証・乳糖含有の4点を整理したものである。製品スペックは各メーカー公式サイトの情報に基づく(2026年3月時点)。

プロテイン選定で参照できる主な軸は次の4点である。第一に甘味料の種類——スクラロース・アセスルファムKは胎盤通過がヒトで実証(Leth-Møller et al., 2023)されており、ステビア・羅漢果はヒト妊娠データが未整備、無甘味料はこの問題を回避できる。第二に第三者認証——Informed Choice・NSF Certified for Sport等の認証は定期的なバッチ検査を含み、重金属を含む禁止物質の管理状況を第三者が確認している。第三に乳糖(lactose)——WPC(ホエイプロテインコンセントレート)には乳糖が残存し、消化器症状が出やすい場合はWPH(ホエイプロテインハイドロライゼート(whey protein hydrolysate))または乳糖不耐症向け製品が選択肢となる。第四にビタミンA配合の有無——一部のプロテイン製品にはビタミンAが配合されており、妊娠中のビタミンA過剰摂取リスクを考慮すると、ビタミンA配合の有無も確認の対象となる。

主要プロテイン製品の妊婦向け選定軸比較(甘味料別ヒトデータ有無順)

製品甘味料種類胎盤通過ヒトデータ第三者認証乳糖ビタミンA配合
無甘味料製品(各社プレーン)なし該当なし製品による製品による製品による
羅漢果使用製品(例: BAZOOKA WPH/WPC)羅漢果(モグロシド)ヒトデータなし(動物試験でリスク報告なし)製品による(例: Informed Choice取得製品あり)製品による製品による
ステビア使用製品(各社)ステビオール配糖体ヒトデータなし(動物試験で催奇形性なし、EFSA 2024)製品による製品による製品による
スクラロース使用製品(各社)スクラロース胎盤通過確認(濃度比0.57、Leth-Møller et al., 2023)製品による製品による製品による
アセスルファムK使用製品(各社)アセスルファムK胎盤通過確認(濃度比0.80、Leth-Møller et al., 2023)製品による製品による製品による

備考: 「胎盤通過確認」は通過の事実を示すデータであり、健康リスクの確定ではない。甘味料のリスク評価は現在も研究が進行中の分野であり、本表は2026年3月時点の公開データに基づく。

よくある質問

Q. 妊娠中にプロテインを飲むと赤ちゃんに悪影響があるか?

A. 現時点では「妊娠中のプロテインパウダー摂取が胎児に悪影響を与える」と結論付けたエビデンスはない。ホエイプロテイン25g/日を補給したRCT(Ali et al., 2024)では胎児発育制限の発症率に有意差は確認されなかった。ただし含まれる甘味料の種類や製品の品質管理体制によってリスクプロファイルは異なり、また妊娠個別の状況も異なるため、摂取を検討する場合は医師・管理栄養士への相談が望まれる。

Q. ソイプロテインとホエイプロテイン、妊娠中はどちらを選ぶか?

A. 内閣府食品安全委員会は大豆イソフラボン(isoflavone)サプリメントについて妊婦への摂取を推奨しない旨を公表している。イソフラボンの胎児への影響に関する研究は現在も進行中であり、ホルモン様作用を持つ化合物として妊婦が注意対象とされる。通常の食品(豆腐・豆乳等)に含まれる量は対象外とされているが、プロテインパウダーとしての濃縮摂取は含まれうる。ホエイプロテインはイソフラボンを含まないため、この点での懸念はない。

Q. 羅漢果(モグロシド)を甘味料に使ったプロテインは妊娠中に適しているか?

A. 羅漢果(モグロシド)はスクラロース・アセスルファムKのように胎盤通過がヒトで実証された甘味料には該当しない。BAZOOKA WPH等の羅漢果使用製品はこの点で選択肢の一つとなる。ただし羅漢果のヒト妊娠安全性データは現時点で限られており、「現時点でリスク報告なし」は「安全と確定」と同義ではない。無甘味料製品(各社プレーン)やステビア使用製品も含め、複数の選択肢を比較検討することが合理的である。妊娠中の判断は医療専門家との相談のうえで行うことが求められる。

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参考文献

  • Elango R, Ball RO. 2016. Protein and amino acid requirements during pregnancy. Advances in Nutrition, 7(4), 839S–844S. DOI: 10.3945/an.115.011817
  • Ali SA, Attallah EMI, El-Abd MMM. 2024. Effect of whey protein supplementation on fetal growth restriction. Hellenic Journal of Obstetrics and Gynecology, 23(4), 267–275. DOI: 10.33574/hjog.0575
  • Aguayo-Guerrero JA, Méndez-García LA, Manjarrez-Reyna AN et al. 2023. High sucralose consumption during pregnancy is associated with increased birth weight and neonatal insulin levels. Biomedicines, 11(3), 650. DOI: 10.3390/biomedicines11030650
  • Leth-Møller M et al. 2023. Transplacental Transport of Artificial Sweeteners. Nutrients, 15(9), 2063. DOI: 10.3390/nu15092063
  • Azad MB, Sharma AK, de Souza RJ et al. 2016. Association between artificially sweetened beverage consumption during pregnancy and infant body mass index. JAMA Pediatrics, 170(7), 662–670. DOI: 10.1001/jamapediatrics.2016.0301
  • Li G, Wang R, Zhang C et al. 2022. Effects of non-nutritive sweetener consumption in pregnancy on infant weight: a systematic review and meta-analysis. Nutrients, 14(23), 5098. DOI: 10.3390/nu14235098
  • Pope E, Koren G, Bozzo P. 2014. Sugar substitutes during pregnancy. Canadian Family Physician, 60(11), 1003–1005. PMID: 25392440
  • Bandara SB, Towle KM, Monnot AD. 2020. A human health risk assessment of heavy metal ingestion among consumers of protein powder supplements. Toxicology Reports, 7, 1255–1262. DOI: 10.1016/j.toxrep.2020.08.001
  • EFSA FAF Panel. 2024. Re-evaluation of steviol glycosides as a food additive. EFSA Journal. DOI: 10.2903/j.efsa.2024.9045
  • 厚生労働省. 2024. 日本人の食事摂取基準(2025年版). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html