プロテインに残留農薬は含まれているのか — 原料別の曝露経路と、評価が機関で分かれる理由

プロテインの残留農薬は原料タイプで曝露経路が異なる。植物性は原料そのものが農産物、ホエイは飼料経由の間接経路をたどる。日本のポジティブリスト制度、グリホサートの機関別評価の違い、有機JASが保証する範囲を整理する。

大豆・えんどうなど植物由来のプロテインは原料そのものが農産物であり、栽培時の農薬が原料段階で直接付着・吸収されうる。ホエイ・カゼインなど乳由来のプロテインは、乳牛の飼料に由来する農薬が消化管を経て乳汁に移行する間接経路をたどる。日本国内で流通する食品には食品衛生法のポジティブリスト制度が適用され、個別の残留基準が設定されていない農薬は一律基準0.01ppm(食品1kgあたり0.01mg)を超えて検出されてはならない。ただし、原料タイプ別に実際の検出量を比較した国内の実測データは確認できていない。 本記事が示せるのは経路と制度の構造であって、どの原料が検出量として多いかではない。

プロテインの原料に農薬はどう関わるのか

原料タイプによって農薬の曝露経路は異なる。大豆・えんどう・玄米は原料そのものが農産物であるため、栽培中に散布された農薬が原料段階で直接付着・吸収されうる「直接経路」をたどる。一方ホエイ・カゼインは乳牛が摂取した飼料(穀物・牧草)に由来する農薬が、動物の消化管を経て乳汁中に移行する「間接経路」を想定する必要がある。

この構造の違いを整理すると、次の表のようになる。

原料タイプ曝露経路精製工程での挙動日本での規制枠組み
ホエイ(乳由来)飼料経由(間接)直接測定した査読研究は確認できていない残留農薬は食品衛生法のポジティブリスト制度(原料の生乳を含む)
カゼイン(乳由来)飼料経由(間接)同上同上
大豆原料が直接農産物化合物の物性により残る画分が変わりうる(別作物での知見からの類推・下記参照)食品衛生法ポジティブリスト制度(一律基準0.01ppm含む)
えんどう原料が直接農産物同上(大豆同様、直接測定した研究は未確認)同上
玄米原料が直接農産物未確認同上

本記事の収載は「主要なプロテイン原料タイプ」を対象とし、ソート順は動物性から植物性の順とする。曝露経路の説明順序に合わせた並びであり、優劣を示すものではない。データ取得時点は2026年9月。

表の「精製工程での挙動」を「未確認」または「類推」に留めているのは、大豆やえんどうのタンパク質単離工程で農薬がどう挙動するかを直接測定した査読研究が見当たらないためである。2026年9月2日に “pesticide residue soy protein isolate” “glyphosate protein isolate processing” 等の語で英語文献を探索した範囲での結果であり、網羅的な調査ではない。精製すれば農薬が減る、という図式を裏づけるデータは確認できなかった。

参考になるのは別の作物での知見だ。Kadžienėら(2023, Plants)は、なたね・小麦・大麦を対象にグリホサートの残留分布を調べ、搾油後の冷搾油からは検出されず、油分を除いた残渣であるミールに0.237〜0.517mg/kgが検出されたと報告している。小麦でも精白粉ではなくふすま側に濃縮された。グリホサートのように水に溶けやすい農薬は油へ移行せず、タンパク質や繊維が濃縮される固形分の側に残るという分配の原理を示す結果である。

ただしこの研究の対象はなたね・小麦・大麦であり、大豆は含まれていない。なたねはアブラナ科、小麦・大麦はイネ科で、マメ科の大豆とは植物として近縁ではない。ここで援用しているのは作物の近さではなく、化合物の親水性という物理化学的な性質が分配先を決めるという一般的な原理のほうである。大豆で同じ挙動が確認されたわけではない。

植物性原料の農薬検出パターンは、生産国・農法によって大きく異なる。例えばブルキナファソ産大豆2品種を分析した研究では、殺虫剤・殺菌剤を中心に複数の農薬が検出され、品種によっては残留基準値を超える例も報告されている(Ouédraogo et al., 2022, Molecules)。原著が照合した基準の種別は本記事の確認範囲では特定できなかったため、日本の残留基準との直接比較はできない。この結果はブルキナファソ産大豆に限定されたものであり、日本国内に流通する輸入大豆(主に米国・カナダ産)にそのまま当てはめることはできない。検出された農薬も殺虫剤・殺菌剤が中心で、後述するグリホサート(除草剤)とは別のカテゴリになる。

ホエイの間接経路について、農薬そのものを対象にした乳の分画研究は現時点で見当たらない。近縁の知見としては、強化・低温殺菌した牛乳を脂肪・脱脂乳・カード・ホエイ等に分画した研究があるが、対象は動物用医薬品・環境汚染物質12種であり農薬そのものではない。この研究では、化合物のカード-ホエイ間の分配割合が親油性の指標(logP)と相関する(r2=0.63)ことが示された(Shelver et al., 2018, ACS Omega)。つまり物質の物性次第で分配先が変わるという原理は成り立つが、これをもって「ホエイに農薬は残らない」とは言えない。

食品安全委員会が実施した国内の畜産物残留試験は、乳への移行を実測した数少ない材料になる。グリホサートを1日あたり体重1kgあたり7.5または15mg投与した条件下で、ウシの乳汁中濃度は0.02µg/g未満だった。この値は通常の農薬使用条件をはるかに超える投与量での結果であり、日常的な飼料由来の曝露レベルをそのまま示すものではない。

日本ではどんな規制がかかっているのか

食品衛生法のポジティブリスト制度により、2006年5月29日の施行以降、原則すべての農薬が残留基準の対象になっている。個別に基準値が定められている農薬はその値が適用され、個別基準のない農薬には一律基準0.01ppm(食品1kgあたり0.01mg)が適用される。すべての農薬に個別の基準値があるという意味ではない。

この制度は2003年の食品衛生法改正に基づき整備された(厚生労働省・農林水産省(2006))。制度が導入される前は、残留基準が設定されていない農薬が検出されても、販売禁止等の措置を取ることができなかった。ポジティブリスト制度によって基準の網羅性が担保され、基準超過が確認された食品には流通を止める仕組みが整った。厚生労働省は輸入食品に対するモニタリング検査も実施しており、基準超過が確認された食品は流通が止められる枠組みが存在する。個別の違反件数については公表統計を直接確認できておらず、本記事では件数の記載を見送る。

グリホサートの評価はなぜ機関で分かれて見えるのか

以下ではグリホサートを取り上げる。この農薬を選んだのは、プロテイン原料から最も多く検出されるからではなく、国際機関と各国の評価が分かれて見えるために読者が最も混乱しやすい対象だからである。前述のブルキナファソ産大豆の研究で検出されたのは主に殺虫剤・殺菌剤であり、グリホサートではない。

グリホサートをめぐる評価の違いは、機関ごとに答えている問いが異なることに起因する。国際がん研究機関(IARC)はハザード評価(その物質が理論上発がん性を持ちうるかを、摂取量を考慮せずに分類する枠組み)を行い、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)・欧州食品安全機関(EFSA)・食品安全委員会はリスク評価(ハザードの強さと実際の曝露量を掛け合わせて健康影響の確率を評価する枠組み)を行っている。IARCが「発がん性なし」と結論づけたわけではない。評価の対象としている問い自体が違う。

機関別の評価を年代順に並べると次のようになる。

機関発行年評価の枠組み結論
IARC2015ハザード評価グループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」
JMPR(FAO/WHO)2016リスク評価食事を通じた曝露では発がんリスクをもたらす可能性は低い
食品安全委員会2016(案)リスク評価発がん性・遺伝毒性は認められない。ADI 1mg/kg体重/日
EFSA2023リスク評価発がん物質としての分類は必要ないと結論

ソート順は発行年の昇順。食品安全委員会の評価書について本記事が確認したのは2016年4月に公表された「(案)」段階の文書で、最終確定版でADIの数値が同一かどうかまでは確認できていない。なお2018年の農薬取締法改正で導入された再評価制度のもと、グリホサートは2022年以降あらためて再評価の手続きに入っており、2026年9月2日に確認した時点で新しい評価書は公表されていない。日本の評価が2016年で止まっているわけではなく、次の評価が進行中の状態にある。

IARC(2015)の分類は、非ホジキンリンパ腫との関連について「ヒトで限定的なエビデンス」、実験動物試験で「発がん性に関して十分なエビデンス」があるという評価に基づく(IARC Monographs Volume 112)。一方EFSA(2023)の再評価では、マウスの発がん性試験において雄で体重1kgあたり1日988mg、雌で1,081mgまでの用量で発がん影響は認められなかったとし、発がん物質としての分類は必要ないと結論づけている(EFSA Journal 21(7))。JMPR(2016)は、食事を通じた曝露ではヒトに発がんリスクをもたらす可能性は低いと結論している。

IARCは摂取量を評価の枠外に置いたうえでハザードを分類し、グループ2Aという「ヒトに対しておそらく発がん性がある」判断を示している。これは弱い結論ではなく、一定の条件下での発がん性について相応の重みを持つ分類である。他の3機関は摂取量を組み込んだ評価で、食事経由の曝露ではリスクは低いとしている。二つは対立する結論ではなく、異なる問いへの回答であり、どちらか一方だけを引いて「安全が確定した」とも「危険が確定した」とも読めない。

検出されたら危険なのか — ADIという物差し

検出の有無だけでは危険性を判断できない。食品安全委員会(2016)が設定したグリホサートのADI(一日摂取許容量)は1mg/kg体重/日であり、体重60kgの成人であれば1日60mgに相当する。判断の軸は「検出されたかどうか」ではなく、「検出量がADIに対してどの程度の割合か」になる。

このオーダー感を示すために、あくまで仮定の数値で計算してみる。もし1食(約30g)あたりに30ppb(0.03mg/kg相当)のグリホサートが含まれていたと仮定すると、その摂取量は約0.0009mgとなり、ADI(60mg/日)の0.0015%程度にとどまる計算になる。この計算は「もしこの水準で検出されたら」という仮定に基づくもので、実際の測定値ではない。

さらに、ADIは本来その日に食べた食品全体からの総摂取量で評価するものである。 プロテイン1食分だけを取り出してADIと比べた数字は、他の食品や飲料水からの摂取を含んでいない。体重が軽い子どもでは同じ摂取量でも体重あたりの値は大きくなる。この計算は「桁の感覚をつかむ」以上の意味を持たせられない。

非査読の民間検査レポートでは、プロテイン製品から農薬が検出されたとする報告が出ることがある。ただしこうしたレポートは検査機関の方法論が非公開で、査読も経ていない。本記事も個別の検出値を出典付きでは確認できていない。測定条件・ロットも不明な二次情報が多く、特定ブランドの検出値をそのまま危険性の根拠として扱うことはできない。「検出されたから危険」でも「だから気にしなくてよい」でもなく、検出量とADIを比較する枠組みで捉えるのが妥当である。

オーガニック表示は何を保証しているのか

有機JAS認証は、農薬や化学肥料に頼らず自然界の力で生産された食品であることを、生産方法(生産行程)の側から規定する国家規格である。以下の整理は農林水産省「有機食品の検査認証制度」の公表内容(2026)に基づく。原則2年以上の転換期間や使用可能資材の制限など、認証が管理しているのは栽培・生産の工程であり、収穫後の製品をロットごとに検査して残留農薬ゼロを保証する制度ではない。

「オーガニックを選べば残留農薬はゼロ」という理解は、この制度の趣旨とはずれている。有機JASマークは生産工程が規格に沿って管理されたことの証明であって、最終製品の検査結果の保証書ではない。表示を確認する際は、この違いを踏まえたうえで判断材料の一つとして扱うのが妥当である。

よくある質問

毎日飲んでいると農薬が体に蓄積するのか ADIは「生涯にわたって毎日摂取し続けても健康影響がないと考えられる1日あたりの量」として設定されている。ここで注意が要るのは、ADIは毎日の摂取量の目安であって、体内にどれだけ残るかの上限ではないという点である。体内蓄積が起きるかどうかは物質ごとの代謝・排泄の性質によるもので、摂取量とADIの比較だけからは評価できない。グリホサートの体内動態について、本記事は評価できるだけの材料を持っていない。

植物性プロテインは動物性より農薬リスクが高いのか 曝露経路が異なるのは事実だが、経路の違いがそのまま検出量の大小を意味するわけではない。植物性は原料が直接農産物である分、生産国・農法によって検出パターンが大きく変わる。日本国内で流通する製品を横断的に比較した実測データは確認できておらず、経路の違いを根拠に一律の優劣をつけることはできない。

有機JASのプロテインを選べば農薬は入っていないのか 有機JASは生産工程を規定する規格であり、最終製品の残留農薬がゼロであることを検査して保証する制度ではない。表示を選ぶ際は、この制度が何を管理しているかを踏まえたうえで判断材料の一つとして扱うのが妥当である。

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参考文献