プロテインにマイクロプラスチックは入っているのか — 何が測られ、何が測られていないか
プロテインパウダーを直接測定した査読研究は1件のみで、日本国内で流通する製品を測定したデータは確認できない。世間で引用される検出値の多くが別の食品を対象にした調査であり、その実態を測定対象別に整理して示す。
「プロテインにマイクロプラスチックが含まれる」という話は、検索するとすぐに見つかる。だが出所をたどると、プロテインパウダー自体を測った研究はほとんど存在しない。この記事は、何が実際に測定され、何が別の食品の話なのかを対象別に切り分ける。
プロテインパウダーそのものを測った研究はあるのか
プロテインパウダーを直接測定した査読研究は、確認できる限り1件しかない。日本で流通する製品を測定したデータは確認できなかった。
その1件は、中国市場で販売されるスポーツプロテインサプリメント30製品を対象にした調査である(Chen M, Dong R, Lai W. Heavy metal and Microplastic exposure from sports protein Supplements. Environmental Research, 295, 123988, doi:10.1016/j.envres.2026.123988)。乳由来・植物由来の両方を含む30製品全てからマイクロプラスチックが検出され、1食(30g)あたり2〜19粒子、平均8±5粒子だった(Chen et al., 2026, Environmental Research)。検出された形状は繊維状が40〜50%、破片状が約30%を占め、サイズは100〜500μm、検出ポリマーはポリエチレン・ポリプロピレン・ポリエチレンテレフタレートだった。
この研究には限界がある。掲載はEnvironmental Researchの2026年3月号(Vol.295)で、オンラインでの先行公開は同年2月。本記事の公開時点で刊行から約半年しか経っておらず、第三者による追試や再現研究はまだない。対象は中国市場の30製品に限られる。中国の製品30個で見つかった数字を、日本の店頭に並ぶ別の製品にそのまま当てはめることはできない。
検出そのものは起きている。調べた30製品が30製品とも検出された、という結果は軽くない。分かっていないのは、その傾向が日本で流通する製品にも当てはまるのか、当てはまるとしてどの程度の量なのか、という2点である。手元の製品について「どれだけ含まれるか」を答えられる材料は、現時点では存在しない。
「プロテインで検出された」と語られるデータは何を測っているのか
一般に「プロテインで検出された」として拡散するデータの多くは、食肉・魚介・代替肉、食物繊維サプリメント、ボトル入り飲料水、食塩を測ったものであり、プロテインパウダーの測定ではない。
とくに誤解を生みやすいのが Milne et al.(2024, Environmental Pollution)である。米国で流通する16種類のタンパク質「食品」(鶏むね肉・トップサーロイン・豚ロース・パン粉付きエビ・すり身フィッシュスティック・植物性ナゲット・豆腐など)を対象にした調査で、粉末サプリメントは含まれない。88%のサンプルからマイクロプラスチックが検出され、1食あたり平均74±220粒子だった。鶏むね肉が2±2粒子だったのに対し、パン粉付きエビは370±580粒子と幅が大きく、加工度が高い食品ほど有意に多かった(p=0.0049)。
原題の “proteins” は食品としてのタンパク質源を指しており、プロテインパウダーではない。この英語表現の広さが誤解の発生源になっている。この研究を紹介する一般向け記事でも見出しに「プロテイン製品」という言葉が使われる例があり、本文を読まなければ対象が食肉・魚介であることに気づきにくい。
以下の表は、「プロテインのマイクロプラスチック」という文脈で引用されがちな研究の対象を整理したものである。研究蓄積の少ない順、すなわちプロテインパウダーを先頭に並べている。
| 測定対象 | 査読研究 | 主な報告値 | 測定手法 | 対象国・地域 | 日本のデータ |
|---|---|---|---|---|---|
| プロテインパウダー(スポーツサプリ) | Chen 2026(1件のみ) | 1食30gあたり2〜19粒子(平均8±5) | μFTIR・μRaman | 中国(30製品) | 確認できず |
| 食物繊維サプリメント | Panneerselvan 2024 | 1日あたり推定5.89±2.89粒子 | μ-FTIR | オーストラリア(9製品) | 確認できず |
| 食肉・魚介・代替肉 | Milne 2024 | 1食あたり平均74±220粒子(鶏むね肉2±2〜パン粉付きエビ370±580) | μ-FTIR | 米国(16製品) | 確認できず |
| ボトル入り飲料水 | Mason 2018 | 100μm超の粒子で平均10.4粒子/L | Nile Red染色+FTIR | 9カ国19地点(11ブランド) | 確認できず |
| 食塩 | Kim 2018 | 海塩0〜1674粒子/kg(外れ値13,629粒子/kg除く) | FTIR | 全体は21カ国39ブランド。左の値は海塩16カ国28ブランドの範囲 | 韓国産は含まれるが日本産は対象外 |
Panneerselvan et al.(2024, Environmental Pollution)はオーストラリアで販売される食物繊維サプリメント9製品を測定した研究で、粉末・グミの両方を含む。全9製品からマイクロプラスチックが検出され、1日あたりの推定摂取量は5.89±2.89粒子、粉末製品はグミ製品より含有量が高い傾向だった。「粉末サプリメント」という括りではプロテインパウダーに近く見えるが、対象はイヌリンなどの食物繊維であり、ホエイやソイのプロテインパウダーではない。
各研究の数値は、必ず対象食品とセットで読む必要がある。数字だけを切り離して「プロテインの値」として引用すると、この記事が最も警戒する誤りになる。
プロテインを飲むとき、どこから入りうるのか
想定できる曝露経路は、粉末そのもの・溶かす容器・溶かす水の3つに分けられる。プロテインを溶かした1杯について、この3つの寄与を分けて測った研究は確認できなかった。 経路ごとに参照できるデータの性質も揃っていない。
容器由来については、プラスチック製の食品容器やボトルキャップが摩耗・加熱・繰り返し使用によって粒子を出しうるという指摘がある。ただし本記事では、この傾向を裏づける個別の査読研究を特定できていない。プロテインシェイカーに特化して「N回使用でX粒子」という定量データも確認できなかった。この経路については、可能性が指摘されているという以上のことは書けない。
水由来については、プロテインを溶かす水そのものを対象にした研究はない。参考になるのはボトル入り飲料水を測ったMason et al.(2018, Frontiers in Chemistry)で、9カ国19地点で販売される11ブランドを対象に、259本中93%からマイクロプラスチックを検出し、100μm超の粒子で平均10.4粒子/Lだった。水道水については、WHO(2019)が「0〜10,000粒子/L」という研究間で大きくばらつく範囲を挙げているにとどまり、確定した値ではない。
シェイカーの洗浄・素材選びに関心がある場合はプロテインシェイカーの衛生管理で扱っている。ここでは容器由来の曝露量そのものではなく、細菌汚染の観点からの手入れ方法を整理している。
健康影響はどこまで分かっているのか
各機関とも、マイクロプラスチックの健康リスクを評価するにはデータが不足している、という段階にとどまっている。健康影響が確立した知見として存在するわけではない。
WHO(2019)は報告書『Microplastics in Drinking-Water』(飲料水限定の評価)で、次のように述べている。「プラスチック粒子、特にナノサイズ粒子の毒性について確定的な結論を出すには情報が不十分だが、懸念を示す信頼できる情報はない」。さらに「飲料水中のマイクロプラスチックの定期モニタリングは、現時点で人の健康への懸念を示す証拠がないため推奨しない」とも述べる。この評価の対象は飲料水に限られており、食品全般やプロテインに一般化できるものではない。
EFSAがこのテーマで公表した評価としては、CONTAMパネルの2016年の声明が直近のものになる。ただしこれは魚介類を中心とした限定的な評価であり、食品・水・大気を通じた健康リスク全般についての結論ではない。声明は「発生データが限られている」としたうえで「魚介類中のマイクロプラスチックが、添加物・汚染物質への曝露全体に与える影響は小さいと推定される」とした。ここで小さいとされているのは、マイクロプラスチックが添加物や汚染物質の運び手として寄与する分であり、マイクロプラスチックそのものの曝露量全体を評価したものではない。2025年12月、EFSAは欧州議会から食品・水・大気を通じたマイクロプラスチックの健康リスクに関する包括的な科学的評価の付託を受けており、結果は2027年末までに公表予定である。ただし2026年9月時点で、この包括評価の結果はまだ出ていない。2016年の声明と2027年末公表予定の評価は、別の時点のものとして扱う必要がある。
日本では、環境省・食品安全委員会・厚生労働省の各サイトを「マイクロプラスチック」「食品」の語で2026年9月2日に検索した範囲で、独自の定量評価・リスク評価文書は見つからなかった。網羅的な調査ではないため、存在しないと断定するものではない。食品安全委員会のサイトには、米国FDA(2024年7月公表)の情報を紹介するページがあるが、これは日本独自の評価ではなく、FDAの発表を翻訳・要約したものである。
現時点で読者に言えることは何か
検出されたという報告(Chen et al., 2026)はあるが、その量が健康にどう影響するかを判断する材料はまだない。「危険だから避ける」も「問題ないから気にしない」も、現在のデータからは導けない。
判断材料が増えるとすれば、日本で流通する製品の直接測定、Chen 2026の追試・再現研究、そして摂取量と健康影響を結びつける用量反応関係のデータが揃った時点になる。いずれも現時点では存在しない。今の情報量では、プロテインパウダーのマイクロプラスチック含有量について確定的な判断を下すこと自体が難しい。
よくある質問
プロテインを飲むのをやめたほうがよいのか
現時点のデータでは、その判断を下すための材料がない。直接測定した査読研究はChen et al.(2026)の1件のみで、対象は中国市場の30製品に限られ、追試も再現研究もまだない。この限られた情報だけで摂取をやめるべきかどうかを結論づけることはできない。
プラスチックのシェイカーより金属のほうが安全か
食品接触材料からの移行は、摩耗や加熱といった条件によって増える傾向が複数の研究で報告されている。ただし、プロテインシェイカーを対象にした定量データは確認できておらず、素材の違いによる曝露量の差を数値で示すことはできない。
国産のプロテインなら大丈夫か
日本で流通する製品を測定したデータは確認できなかった。産地とマイクロプラスチックの検出量を結びつける根拠となる研究も見当たらず、「国産だから少ない」と判断する材料は今のところない。
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参考文献
- Chen M, Dong R, Lai W. (2026). Heavy metal and Microplastic exposure from sports protein Supplements: Integrated health risk modeling and scenario analysis. Environmental Research, 295, 123988. https://doi.org/10.1016/j.envres.2026.123988
- Milne MH, De Frond H, Rochman CM, Mallos NJ, Leonard GH, Baechler BR. (2024). Exposure of U.S. adults to microplastics from commonly-consumed proteins. Environmental Pollution, 343, 123233. https://doi.org/10.1016/j.envpol.2023.123233
- Panneerselvan L, Raghuraman Rengarajan HJ, Kandaiah R, Bhagwat-Russell G, Palanisami T. (2024). Fibrous foes: First report on insidious microplastic contamination in dietary fiber supplements. Environmental Pollution, 363, 125248. https://doi.org/10.1016/j.envpol.2024.125248
- Mason SA, Welch VG, Neratko J. (2018). Synthetic Polymer Contamination in Bottled Water. Frontiers in Chemistry, 6, 407. https://doi.org/10.3389/fchem.2018.00407
- Kim JS, Lee HJ, Kim SK, Kim HJ. (2018). Global Pattern of Microplastics (MPs) in Commercial Food-Grade Salts: Sea Salt as an Indicator of Seawater MP Pollution. Environmental Science & Technology, 52(21), 12819-12828. https://doi.org/10.1021/acs.est.8b04180
- World Health Organization. (2019). Microplastics in Drinking-Water. Geneva: WHO. https://cdn.who.int/media/docs/default-source/wash-documents/microplastics-in-dw-information-sheet190822.pdf
- EFSA Panel on Contaminants in the Food Chain (CONTAM). (2016). Presence of microplastics and nanoplastics in food, with particular focus on seafood. EFSA Journal, 14(6), 4501. https://doi.org/10.2903/j.efsa.2016.4501