WPHとは — ホエイペプチドの製造方法・分子量・吸収速度を整理する
WPH(加水分解ホエイプロテイン)は酵素でタンパク質をジ・トリペプチドまで分解した製品。WPCやWPIとの製法の違い・吸収メカニズム(PepT1輸送体)・乳糖低減の仕組み・価格帯の差を論文データとスペックで整理する。
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- プロテイン種類
- 吸収速度
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WPH(Whey Protein Hydrolysate、加水分解ホエイプロテイン)は、ホエイタンパク質を食品グレードの酵素で加水分解し、ジペプチド(アミノ酸2個)・トリペプチド(アミノ酸3個)を主体とするペプチド混合物に変換した製品である。WPCやWPIがろ過・精製によってタンパク質を濃縮するのに対し、WPHはタンパク質のペプチド結合を酵素で切断する追加工程を経る点で製造方法が根本的に異なる。分子量200〜3,000 Da(製品のDH値による)のペプチドは、腸管上皮のペプチドトランスポーター1(PepT1)を介してほぼそのまま吸収される。
WPHはWPCやWPIとどう違うのか
ホエイプロテインは製造方法によってWPC・WPI・WPHの3種に大別される。すべてチーズ製造の副産物であるホエイ(乳清)を原料とするが、精製・分解の工程が異なり、それぞれ分子量・乳糖量・価格帯が異なる(Manninen(2009), Nutrition & Metabolism)。
WPC(Whey Protein Concentrate、濃縮ホエイ)は限外ろ過(UF)や精密ろ過(MF)によってタンパク質を70〜80%に濃縮する。乳糖を3〜8g/100g程度含み、タンパク質はインタクト(未分解)のまま保たれる。製造コストが低いため価格帯も抑えられる。
WPI(Whey Protein Isolate、分離ホエイ)はイオン交換法やクロスフロー精密ろ過(CFM)でさらに精製し、タンパク質含有率を90%以上に引き上げながら乳糖をほぼ除去する。タンパク質の分子構造はWPCと同様にインタクトであり、分子量はWPCとほぼ同等(10,000〜25,000 Da)である。
WPHは上記のいずれかを原料として、エンドペプチダーゼやプロリン特異的エンドプロテアーゼ等の酵素で処理しペプチド結合を切断する。加水分解度(DH値、Degree of Hydrolysis)が高いほど平均ペプチド長が短くなり、分子量は200〜3,000 Daの範囲に分布する。Manninen(2009, Nutrition & Metabolism)のレビューは、ジペプチド・トリペプチドを主体とするWPHがインタクトホエイより速く血漿アミノ酸濃度を上昇させるメカニズムを整理している。食品用途の商業製品はほぼすべて酵素加水分解を採用しており、塩酸等による酸加水分解は栄養価の損失や残留酸の問題から一般的でない。
| 種別 | 主な製造方法 | タンパク質含有率 | 分子量目安 | 乳糖(g/100g) | 参考価格帯(/kg) |
|---|---|---|---|---|---|
| WPH | 酵素加水分解 | 80〜95% | 200〜3,000 Da | 極微量 | 7,000〜17,000円 |
| WPI | イオン交換・CFM | 90%以上 | 10,000〜25,000 Da | <1 | 5,000〜9,000円 |
| WPC | 限外ろ過・精密ろ過 | 70〜80% | 10,000〜25,000 Da | 3〜8 | 3,000〜6,000円 |
(分子量昇順。数値は業界標準値であり、製品のDH値・配合成分によって変動する。2026年4月時点)
WPIとWPCは分子量がほぼ同等である。吸収速度を左右するのは純度(WPC対WPI)ではなく、加水分解による分解度(インタクト対ペプチド)である。
なぜWPHは吸収が速いのか — PepT1輸送体の仕組み
WPHの吸収速度の核心はペプチドトランスポーター1(PepT1)にある。腸管上皮細胞の刷子縁膜に発現するPepT1はジペプチドおよびトリペプチドを基質として認識し、追加の酵素処理なしに細胞内へ輸送する。4個以上のアミノ酸からなるペプチドは刷子縁酵素による追加分解を必要とし、輸送経路が異なる(Manninen AHが2009年にNutrition & Metabolismでレビューした研究による)。
Nakayama et al.(2018, Nutrients)は、健康若年男性11名(12時間絶食後)においてWPH 5.0g摂取後20〜120分の血漿必須アミノ酸(EAA)およびロイシン濃度のAUCが、EAAフリーアミノ酸混合物(EAA 2.5g相当、つまりWPHの半量)より有意に高いことを示した(p<0.05)。なお両群はタンパク質投与量が異なる(WPH 5.0g vs EAA 2.5g相当)ため、この結果はペプチド形態の吸収効率と投与量差の両方を反映している。使用したWPHの平均ペプチド長は3.50アミノ酸(遊離アミノ酸<1%)であり、ジ・トリペプチドを主体とするWPHがPepT1経路を介して効率的に吸収されることを示している。
Farup et al.(2016, SpringerPlus)の研究(n=5、クロスオーバー)では、加水分解度(DH値)が23〜48%と異なる3種のWPH間で血漿アミノ酸出現速度に有意差はなかった。ただしWPH群全体ではカゼインと比較して約2.9倍速い出現速度を示した(p<0.001)。DH値が高いほど吸収が速いという単純な比例関係は成立しない可能性が示唆されており、消化管の内因性酵素が加水分解度の差を緩衝しているという仮説がある。ただしn=5と小規模な研究であり、この結論を確定するためにはより大規模な試験が必要である。
WPHの分子量はどれくらいか — 製品差と加水分解度
WPHの分子量は製品のDH値(加水分解度)と使用する酵素の種類によって大きく異なる。Farup et al.(2016, SpringerPlus)の研究では、DH値23〜48%の3種のWPHを使用しており、この範囲でも血漿アミノ酸出現速度に有意差がなかったことを報告している。ジペプチドは200〜300 Da、トリペプチドは300〜600 Da程度に相当し、高度加水分解品では400 Da以下を謳う製品も存在する。一方、DH値が低い製品では分子量が2,000〜3,000 Daのオリゴペプチドが主体となり、消化管での追加分解が必要になる場合がある。
| 製品 | 種別 | タンパク質含有率 | 分子量目安 | 甘味料 | 認証 | 参考価格(/kg) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| LIMITEST ホエイペプチド | WPH(WPI+WPH混合) | 93.2%(無水物換算) | 400 Da以下 | なし | なし | 約7,000円(3kg換算) |
| BAZOOKA WPH | WPH | 約67%(30g中、ビタミン配合含む) | 350 Da | 羅漢果(天然) | Informed Choice | ¥16,560(単品/kg換算) |
| GronG ホエイプロテイン100 | WPC | 75%以上/100g | 10,000〜25,000 Da | スクラロース系 | —(未確認) | 約4,980円(1kg) |
| BAZOOKA WPC | WPC | 70%以上 | 10,000〜25,000 Da | 羅漢果・ステビア | Informed Choice | ¥5,333(900g換算) |
(価格は2026年4月時点の公式サイト定常価格。セール価格を除く)
BAZOOKA WPHのタンパク質含有率が67%程度と低く見えるのは、13種のマルチビタミン・ミネラル等が配合されており、WPH原料以外の成分が重量を占めるためである。WPH原料単体の含有率とは別に解釈する必要がある。
分子量の国内WPH製品比較の詳細は「ダルトン(Da)とは」を参照されたい。
どんな場面でWPHが向いているのか
Moro et al.(2019, The Journal of Nutrition)の研究(健康若年男性10名、クロスオーバーRCT)では、WPHとインタクトホエイの筋タンパク質合成(MPS)応答はともに約43%増加で有意差がなかった。一方、筋肉内へのロイシン輸送速度は摂取後1時間・3時間の両時点でWPH群が有意に高く(p<0.05)、インタクトホエイ群でロイシン輸送が3時間後に低下したのに対してWPH群では維持された。なお、この研究の投与量は0.08g/kg体重(体重70kgの場合約5.6g)と少量であり、通常の1食分(20〜30g)での結果ではない点に留意する。
WPHが選ばれやすい場面は以下のとおりである。
素早いアミノ酸供給を意図する場合: トレーニング直後など摂取からのアミノ酸出現速度を優先する場合。ただし「吸収速度の差がMPSを決定する」という直接的なエビデンスは現時点で限定的であり、1日の総タンパク質摂取量の確保が基本となる。
乳糖量の低減: WPIを原料とするWPH製品では、原料の段階で乳糖がほぼ除去されているため、乳糖量が少ない傾向がある。ただし加水分解処理自体が乳糖を分解するわけではなく、「乳糖ゼロ」と断言できるかは製品の実測値を確認する必要がある。
アンチドーピング対応: Informed Choice等の第三者認証を取得した製品を選ぶ場合。認証の有無は製品スペック表で確認できる。
WPHの主なデメリットはコストである。同じタンパク質量を摂取する際の1食あたりコストはWPCと比較して1.5〜3倍以上になる場合がある。製造工程の追加(酵素処理・精製・品質管理)が価格に反映される。
よくある質問
Q. WPHとホエイペプチドは同じものか
ほぼ同義で使われる。WPH(Whey Protein Hydrolysate)が製品カテゴリとしての呼称であるのに対し、「ホエイペプチド」はその製品に含まれる主成分(ペプチド構造のホエイタンパク質)の名称である。「ホエイプロテイン(WPH)」「ホエイペプチドプロテイン」等の表記はほぼ同一の製品区分を指す。
Q. WPC・WPI・WPHはどの基準で選べばいいか
コスト重視であればWPC、乳糖を抑えながら価格を抑えるならWPI、アミノ酸出現速度を優先しコストを許容するならWPHという選択になる。ただし同量のタンパク質を摂取した際のMPS応答は種別間で大きく異なるわけではなく、1日の総タンパク質摂取量と摂取頻度の確保が基本となる。第三者認証(Informed Choice等)の有無はアンチドーピング対応の判断基準になる。
Q. WPHを摂取しても乳糖不耐症の症状は出るか
酵素加水分解はタンパク質のペプチド結合を切断するものであり、乳糖(二糖類)を直接分解するわけではない。ただし製造工程でWPIを原料として使用する製品や、精製工程で乳糖を除去した製品では乳糖量が大幅に低減されている。乳糖不耐症の程度には個人差があり、症状が出るかどうかは製品の実測乳糖量と個人の閾値による。
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参考文献
- Manninen AH. Protein hydrolysates in sports nutrition. Nutrition & Metabolism. 2009;6:38. DOI: 10.1186/1743-7075-6-38
- Nakayama K, Sanbongi C, Ikegami S. Effects of whey protein hydrolysate ingestion on postprandial aminoacidemia compared with a free amino acid mixture in young men. Nutrients. 2018;10(4):507. DOI: 10.3390/nu10040507
- Farup J, Rahbek SK, Vendelbo MH, et al. Whey protein hydrolysate augments tendon and muscle hypertrophy independent of resistance exercise contraction mode. SpringerPlus. 2016;5:382. DOI: 10.1186/s40064-016-1995-x
- Moro T, et al. Whey Protein Hydrolysate Increases Amino Acid Uptake, mTORC1 Signaling, and Protein Synthesis in Skeletal Muscle of Healthy Young Men in a Randomized Crossover Trial. The Journal of Nutrition. 2019;149(7):1149-1158. DOI: 10.1093/jn/nxz053