ラクトフェリンとは — ホエイ由来の抗菌タンパク質と免疫機能への関与

ラクトフェリンは牛乳・ホエイに含まれる約80 kDaの糖タンパク質で、鉄結合・抗菌・免疫調節の3機能を持つ。製法(WPC/WPI/WPH)によって残存量が大きく異なり、WPHでは加水分解により原型が消失することを数値と論文で整理する。

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ラクトフェリン(lactoferrin)は牛乳のホエイ画分に含まれる約80 kDaの鉄結合性糖タンパク質である。1食分のプロテインパウダー(20〜30 g)に含まれるラクトフェリン量は製法によって大きく異なり、WPHでは酵素加水分解によって原型タンパク質が失われるため、機能的なラクトフェリンとしての含有量は期待できない(Nguyen et al., 2016, Journal of Dairy Science)。ラクトフェリン補給の研究実績は1日200〜600 mgという量で積まれており、一般的なWPC製品の1食分よりも高い水準である。

ラクトフェリンはどのようなタンパク質か — 構造・鉄結合能・初乳との関係

ラクトフェリンは約80 kDaの単鎖糖タンパク質で、2つのドメイン(N-lobe・C-lobe)に各1つの鉄結合部位を持つ(Baker and Baker, 2005, Cellular and Molecular Life Sciences)。ヒト初乳では約10,000 mg/L、牛初乳では1,500〜5,000 mg/L、成熟牛乳では20〜350 mg/Lと、初乳に特に高濃度で含まれる(Superti, 2020, Nutrients)。

ラクトフェリンは約80 kDaの単鎖糖タンパク質で、N末端ローブ(N-lobe)とC末端ローブ(C-lobe)の2ドメインから構成される。各ドメインに鉄(Fe³⁺)結合部位が1つずつあり、計2個の鉄イオンを高い親和性で結合できる。鉄の配位はAsp・Tyr(×2)・Hisの4残基が担い、結合・放出に伴ってドメイン間の開閉運動が生じる(Baker and Baker, 2005, Cellular and Molecular Life Sciences; PMID: 16261257)。

ラクトフェリン濃度は初乳に特に高い。ヒト初乳では約10,000 mg/L(10 mg/mL)に達するのに対し、牛初乳は1,500〜5,000 mg/L、成熟牛乳は20〜350 mg/Lと低下する(Superti, 2020, Nutrients)。市販のプロテインサプリや食品グレードのラクトフェリンは牛乳由来であり、ヒト初乳のデータをそのまま製品評価に用いることはできない。「コロストラム(初乳)サプリ」はラクトフェリン以外に免疫グロブリン・成長因子も含む複合製品であり、ラクトフェリン単体サプリとは別カテゴリである。

ラクトフェリンにはどのような生理活性が報告されているのか — 抗菌・免疫調節・鉄吸収

ラクトフェリンの抗菌活性は鉄キレートによる静菌作用とLPS直接結合による殺菌作用の2機序で発揮される(Orsi, 2004, BioMetals)。免疫調節ではNK細胞・マクロファージ・T/B細胞への作用が報告されているが、25研究のメタ分析(Berthon et al., 2022, Advances in Nutrition)では成人への補給で呼吸器感染に有意差はなかった(OR 1.00)。

ラクトフェリンの抗菌活性には2つの機序がある。一つは鉄キレートによる静菌作用で、遊離鉄を奪取することで細菌の増殖に必要な鉄を枯渇させる広域スペクトルの機序である。もう一つはグラム陰性菌のリポ多糖(LPS、Lipid A)への直接結合であり、外膜の透過性を亢進させて殺菌的に機能する(Orsi, 2004, BioMetals)。

ペプシン消化によってラクトフェリンのN末端ループが切り出されると、ラクトフェリシンB(lactoferricin B)と呼ばれる抗菌ペプチドが生成する。Bellamy et al.(1992, Journal of Applied Bacteriology)は、このラクトフェリシンBが大腸菌・Salmonella・Klebsiella・Staphylococcus・Listeriaなど多種の細菌に対して広域殺菌活性を示すことを報告している(MIC: 0.3〜150 μg/mL)。

免疫調節については、NK細胞・好中球・マクロファージ・T細胞・B細胞などの免疫細胞表面のプロテオグリカンや受容体を介したシグナル伝達が確認されている。Legrand(2016, Journal of Pediatrics)のレビューによれば、マクロファージでのTNF-α・IL-6・IL-1βといった炎症性サイトカインの産生調節への関与が報告されている。マウスへのラクトフェリン経口投与では末梢血・脾臓のNK細胞数が用量依存的に増加し、IFN-γ産生の亢進が確認されているが(Kuhara et al., 2006, Journal of Interferon and Cytokine Research)、この結果は動物実験(マウス)によるものであり、ヒトへの直接外挿には留保が必要である。

ラクトフェリン補給と呼吸器感染症の関連については、25研究を対象としたメタアナリシス(Berthon et al., 2022, Advances in Nutrition)がある。小児では呼吸器感染症の発症リスク低減(OR 0.78; 95% CI 0.61〜0.98)が確認された一方、成人では有意な効果は示されなかった(OR 1.00; 95% CI 0.76〜1.32)。対象集団の年齢によって結果が異なることに注意が必要である。詳細なエビデンスの評価は、関連記事(プロテインと免疫機能)を参照されたい。

プロテインにラクトフェリンは含まれているのか — 製法による残存量の違い

HTST殺菌(72℃・15秒)でラクトフェリンの40〜50%が変性し、UHT処理(135℃)では完全変性する(Nguyen et al., 2016, Journal of Dairy Science)。WPH(加水分解ホエイ)では酵素処理によりラクトフェリンの原型タンパク質がペプチドへ分解されるため、機能的なラクトフェリンは期待できない。

ホエイ加工品のラクトフェリン含有量は、製造工程の加熱処理と加水分解の程度によって40〜100%の範囲で変動する。Nguyen et al.(2016, Journal of Dairy Science)によれば、HTST殺菌(72℃・15秒)後にラクトフェリンの40〜50%が変性し、UHT処理(135℃・4秒)では完全変性する。低温処理(マイクロフィルトレーション等)で製造されたWPCは、標準的なHTST処理品よりもラクトフェリン含有量が高い。

WPC製品1食(約20 g)に含まれるラクトフェリン量の推定値は、複数の業界資料で200〜400 mgと示されているが、これは加熱前の原乳ベースの計算値(乾燥重量の1〜2%換算)であり、加熱処理後の実測値ではない点に注意が必要である。実際の含有量は製品ごとに異なり、ラベルへの記載もほとんどない。

WPH(ホエイプロテインハイドロリゼート)では複数の酵素による加水分解を経るため、ラクトフェリンの原型タンパク質(約80 kDa)はペプチドへと分解され、鉄結合能を持つ原型としての残存は期待できない。ただし、本記事の抗菌セクションで述べたように、ペプシン消化によってラクトフェリシンBなどの生理活性ペプチドが生成されることから、加水分解産物中にラクトフェリン由来の抗菌活性ペプチドが含まれる可能性は否定できない。原型タンパク質の機能(鉄結合・免疫調節)と由来ペプチドの機能(抗菌活性)は区別して評価する必要がある。加水分解の目的はアミノ酸・ペプチドの吸収速度向上であり、ラクトフェリンのような機能性タンパク質の原型保持とはトレードオフの関係にある(WPHの製法詳細はホエイペプチドとはを参照)。

限外ろ過(クロスフロー法)を活用すれば、ホエイからラクトフェリンを選択的に回収できる。Ostertag and Hinrichs(2023, Foods)は、酸性ホエイからのラクトフェリン回収率97%・30倍濃縮(0.17 g/L から 5.1 g/L)を達成したと報告している。この技術を用いてラクトフェリンを濃縮した専用サプリが市販されている。

ラクトフェリンサプリとプロテインはどう違うのか — 含有量・コスト・用途の比較

ラクトフェリン補給の研究では1日200〜600 mgが用いられている(Oda et al., 2021, Journal of Microbiology, Immunology and Infection)。WPC製品1食分の推定含有量(加熱変性後100〜240 mg)ではこの水準に届きにくく、ラクトフェリン補給を目的とする場合は含有量が明記されたサプリ専用製品が適している。

ラクトフェリンサプリは限外ろ過等で精製・濃縮したラクトフェリンを主成分とする製品であり、1日あたりの含有量が明示されている。一方、一般的なプロテインパウダーはタンパク質総量を主目的としており、ラクトフェリン含有量は製品ラベルに表示されない。

Oda et al.(2021, Journal of Microbiology, Immunology and Infection)の二重盲検RCTでは、1日200〜600 mgのラクトフェリン補給で感染症罹患期間の短縮が報告されている。この量を一般的なWPC製品で補おうとすると、加熱変性の影響を考慮すると現実的ではない。

以下の表は、主な原料・製品形態別のラクトフェリン含有量を含有量の多い順に整理したものである。

原料・製品形態ラクトフェリン含有量(目安)備考
ヒト初乳約10,000 mg/Lヒト由来。市販製品の原料ではない
牛初乳(第1搾乳後数日以内)1,500〜5,000 mg/Lコロストラムサプリの原料。ラクトフェリン以外の成分も多い
ラクトフェリンサプリ(精製品)300〜600 mg/日(製品ラベルに明示)限外ろ過等で濃縮。含有量が明確
成熟牛乳20〜350 mg/LWPC/WPIの原料となる
WPC(低温処理品)推定200〜400 mg/食(非査読業界推計値)実測値ではなく原乳ベースの計算値。製品差が大きい
WPC(標準HTST処理品)推定100〜240 mg/食(推計値)HTST後40〜50%変性を考慮した概算
WPI(イオン交換法)含有量は処理条件に依存限外ろ過回収率は最大97%だが製品含量は不確定
WPH原型ラクトフェリンの残存はほぼ期待できない酵素加水分解により原型タンパク質が消失。由来ペプチドの一部は抗菌活性を保持する可能性あり

出典: Superti(2020, Nutrients)、Nguyen et al.(2016, Journal of Dairy Science)、Ostertag and Hinrichs(2023, Foods)。WPC含有量の推計は業界資料(非査読)を参照。2026年4月時点の情報。

ラクトフェリン補給を目的とする場合、含有量が明記されたサプリ専用製品が目的に適している。プロテインパウダーはタンパク質補給を主目的とした製品であり、ラクトフェリン補給の代替としては設計されていない。

よくある質問

Q. ラクトフェリンは加熱で壊れるのか

A. 加熱に弱く、HTST殺菌(72℃・15秒)で40〜50%が変性し、UHT処理(135℃・4秒)では全て変性する(Nguyen et al., 2016, Journal of Dairy Science)。牛乳を沸騰させた場合も同様に顕著な変性が見込まれる。加熱を避けた低温処理でのみ機能的なラクトフェリンが保持されやすいため、製法の表示(低温処理・マイクロフィルトレーション等)を確認することが参考になる。

Q. ラクトフェリン入りプロテインは存在するか

A. WPCの製造工程でラクトフェリンが部分的に残存する製品は存在するが、含有量がラベルに明記されている製品は少ない。一部の「コロストラム(初乳)添加プロテイン」はラクトフェリン含有量を強調することがあるが、含有量・活性の維持については製品ごとに異なる。ラクトフェリン含有量を重視する場合は、専用サプリを選択するか、製品の第三者分析証明書(CoA)で実測値を確認することが推奨される。

関連記事

参考文献

  • Baker EN and Baker HM, 2005, Cellular and Molecular Life Sciences, Vol.62, pp.2531-2539. DOI: 10.1007/s00018-005-5368-9
  • Bellamy W et al., 1992, Journal of Applied Bacteriology, Vol.73(6), pp.472-479. DOI: 10.1111/j.1365-2672.1992.tb05007.x
  • Orsi N, 2004, BioMetals, Vol.17(3), pp.189-196. DOI: 10.1023/B:BIOM.0000027691.86757.e2
  • Legrand D, 2016, Journal of Pediatrics, Vol.173 Suppl, S10-S15. DOI: 10.1016/j.jpeds.2016.02.071
  • Kuhara T et al., 2006, Journal of Interferon and Cytokine Research, Vol.26(7), pp.489-499. PMID: 16800788
  • Superti F, 2020, Nutrients, Vol.12(9), 2562. DOI: 10.3390/nu12092562
  • Nguyen DN et al., 2016, Journal of Dairy Science, Vol.99(2), pp.959-969. DOI: 10.3168/jds.2015-9965
  • Ostertag F and Hinrichs J, 2023, Foods, Vol.12(11), 2163. DOI: 10.3390/foods12112163
  • Berthon BS et al., 2022, Advances in Nutrition, Vol.13(5), pp.1799-1819. PMID: 35481594
  • Oda H et al., 2021, Journal of Microbiology, Immunology and Infection, Vol.54(4), pp.566-574. DOI: 10.1016/j.jmii.2020.02.010