IGF-1とは — タンパク質摂取で変動する成長因子と骨・身長・がん研究での読み方
IGF-1は成長ホルモンの作用を仲介する因子で、血中濃度はタンパク質や乳製品の摂取量と関連する。UK Biobank、ホエイ補給の試験、がんの観察研究とメンデルランダム化の結果を、単位と対象を添えて整理する。
本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。
IGF-1(インスリン様成長因子1、insulin-like growth factor 1)は、成長ホルモンの作用を仲介する因子で、主に肝臓で作られる。UK Biobank の11,815人の横断解析では、総タンパク質の摂取がエネルギー比で2.5%多いほど血中IGF-1が0.56 nmol/L高かった(Watling et al., 2021, Clinical Nutrition)。 血中IGF-1とがんリスクの関連は別の研究の結果である。プロテインの摂取がIGF-1を介してがんリスクを変えるかを直接調べた研究はなく、この問いは未解決である。
IGF-1とは何をする物質なのか
IGF-1は成長ホルモン(growth hormone, GH)の作用を体内で仲介する因子で、米国国立医学図書館の MedlinePlus(2024年9月更新)は、IGF-1とGHが骨や組織の正常な成長を促すと説明している。同じ解説によれば、血中では主にIGF結合タンパク質3(IGFBP-3)に結合した形で運ばれる。
Ohlsson et al.(2009, Endocrine Reviews)のレビューは、マウスの研究をもとに血中IGF-1の由来を整理している。肝臓でIGF-1を作れないようにしたマウスでは血清IGF-1が約75%低下しており、血中IGF-1の大半は肝臓由来と考えられている。正常なマウスでは、循環するIGF-1の70〜80%がIGF-1・IGFBP-3・酸不安定サブユニット(ALS)の三者複合体として存在し、その半減期は10〜16時間とされる。
血中IGF-1は摂取したタンパク質の量だけで決まる値ではない。Watling et al.(2021)は、食物繊維(5g/日あたり+0.46 nmol/L)や全粒穀物のデンプンでも正の関連を、アルコール40g/日超では負の関連(−1.36 nmol/L)を報告している。
タンパク質や乳製品を摂ると血中IGF-1はどれだけ変わるのか
観察研究では、タンパク質・乳製品の摂取が多い人ほど血中IGF-1が高い傾向が示されている。ただし効果量は小さい。本記事で取り上げるホエイ補給の介入試験2件はいずれも高齢者が対象で、ほかの年齢層にそのまま当てはめることはできない。
UK Biobank の11,815人を対象にした横断解析(Watling et al., 2021)では、タンパク源によって関連が分かれた。因果関係を示す設計ではない。
| タンパク源 | 血中IGF-1との関連(95%CI) | 単位 |
|---|---|---|
| 総タンパク質 | +0.56(0.47〜0.66) | nmol/L(エネルギー比2.5%増あたり) |
| 牛乳タンパク | +1.20(0.90〜1.51) | nmol/L(エネルギー比2.5%増あたり) |
| ヨーグルトタンパク | +1.33(0.79〜1.86) | nmol/L(エネルギー比2.5%増あたり) |
| チーズタンパク | −0.07(−0.40〜0.25)、関連なし | nmol/L(エネルギー比2.5%増あたり) |
どの行も、そのタンパク源からの摂取がエネルギー比で2.5%増えたときの差を示す。牛乳タンパクだけでエネルギー比2.5%を増やすのが現実的な摂取量かどうかは、この表からは読み取れない。
牛乳とヨーグルトでは関連が見られ、チーズでは見られなかった。牛乳摂取に関するメタ分析では、牛乳摂取が1SD増えるごとにIGF-1が0.10SD、IGFBP-3が0.05SD高く、著者らは「中程度のエビデンス」で効果量は小さいと評価している(Harrison et al., 2017, Cancer Causes & Control。牛乳とIGFの関連は31研究)。
介入試験は2本ある。いずれも高齢者が対象である。
- Zhu et al.(2011, Journal of Bone and Mineral Research): 70〜80歳の閉経後女性219人にホエイ30g/日を2年間補給した。IGF-1は+7.3〜8.0%高く、群間差は有意だった(p<.05)。両群ともカルシウム600mg/日を併用している。
- Ceglia et al.(2026, The American Journal of Clinical Nutrition): 65歳以上の健康な高齢者128人にホエイ1.5g/kg/日を24週間補給した(ホエイと重炭酸カリウムの2×2要因試験)。IGF-1は+14.2 ng/mL(95%CI 7.5〜21.0、P<0.01)だった。1.5g/kg/日は体重60kgで1日90gにあたり、試験として設定された量である。
幼児の観察研究もある。デンマークの健康な2.5歳児90人を対象にした Hoppe et al.(2004, The American Journal of Clinical Nutrition)は、牛乳摂取量の200 mL/日と600 mL/日の差が、血清IGF-1の約30%の差に相当すると報告した。食事記録と血清値の関連を見た観察研究であり、摂取量を割り付けた試験ではない。
IGF-1が上がると骨や筋肉はどうなるのか
IGF-1の上昇が骨や筋肉の指標の変化として確認されたわけではない。上記2本のホエイ補給試験では、IGF-1は上がったが骨・筋の評価項目に群間差は出なかった。
Zhu et al.(2011)では、股関節の骨密度は両群で低下し、群間差はなかった。著者の結論は、タンパク質が充足している女性では、追加のタンパク質でIGF-1は上がるが、骨量・骨強度への有益な作用も有害な作用も認められなかった、というものである。
Ceglia et al.(2026)でも、筋パワーの群間差は4.7 W(95%CI −21.1〜30.5、P=0.72)で、筋量と身体機能にも差は出ていない。対象はベースラインのタンパク質摂取が0.85±0.30 g/kg/日の高齢者(平均74±6歳、女性47.7%)である。
IGF-1の上昇そのものを良し悪しで評価する根拠は、これらの試験からは得られない。タンパク質摂取と骨の関係はタンパク質摂取と骨密度の関係で別に扱っている。タンパク質摂取がIGF-1を介して骨に関わる可能性を論じたレビューとして Bonjour et al.(1997, Osteoporosis International)があるが、介入試験の結果とは区別して読む必要がある。
身長やニキビの研究ではIGF-1はどう扱われているのか
本記事で紹介したIGF-1の研究は、いずれも摂取量と血中IGF-1の関連を見たもので、摂取によって身長が伸びる、ニキビが増えると示した結果ではない。
身長については、前述の Hoppe et al.(2004)が乳製品の摂取と血清IGF-1の関連を示した幼児の観察研究にあたる。IGF-1と身長の伸びの関係は、MedlinePlus が説明するGHとIGF-1の成長促進作用が背景にある。プロテインの摂取量を操作して身長の変化を調べた試験の整理は子どものプロテインと身長の関係にまとめている。
ニキビについても、ホエイ補給とニキビの試験はプロテインとニキビ・肌荒れの関係で個別に取り上げている。ニキビの話題でIGF-1が挙がる場合も、IGF-1の濃度とニキビの症状を同じ試験で測ったとは限らない。
血中IGF-1とがんリスクの関連はどう読めばよいのか
血中IGF-1が高い人でがんの発生がやや多いという関連は、UK Biobank などのデータを用いた観察研究とメンデルランダム化(MR、遺伝的変異を使った因果推論の手法)で報告されている。いずれも相対リスクの小さな上昇で、部位によって強さが異なり、単位も揃っていない。「摂取でIGF-1が上がる」研究と「IGF-1が高いとがんが多い」研究は別個のものであり、つないで因果として読むことはできない。
下表は部位名の五十音順で、5 nmol/L あたりと 1SD あたりの値は同じ尺度ではない。
| 部位 | 研究デザイン | 指標 | 値(95%CI) | 単位 | 研究 |
|---|---|---|---|---|---|
| 甲状腺 | 観察(コホート) | HR | 1.18(1.01〜1.37) | 5 nmol/L あたり | Knuppel et al., 2020 |
| 前立腺 | 観察(コホート) | HR | 1.09(1.05〜1.12) | 5 nmol/L あたり | Watts et al., 2021 |
| 前立腺 | 観察(コホート・死亡) | HR | 1.15(1.02〜1.29) | 5 nmol/L あたり | Watts et al., 2021 |
| 前立腺 | MR(cis-MR) | OR | 1.34(1.07〜1.68) | 遺伝的予測値 5 nmol/L あたり | Watts et al., 2021 |
| 前立腺 | メタ分析(51研究) | OR | 1.09(1.03〜1.16) | 1SD あたり | Harrison et al., 2017 |
| 大腸 | 観察(コホート) | HR | 1.11(1.05〜1.17) | 1SD あたり | Murphy et al., 2020 Gastroenterology |
| 大腸 | MR | OR | 1.08(1.03〜1.12) | 1SD あたり | Murphy et al., 2020 Gastroenterology |
| 乳 | 観察(コホート) | HR | 1.11(1.07〜1.16) | 5 nmol/L あたり | Murphy et al., 2020 Annals of Oncology |
| 乳 | MR | OR | 1.05(1.01〜1.10) | 遺伝的予測値 5 nmol/L あたり | Murphy et al., 2020 Annals of Oncology |
前立腺の観察研究は男性199,698人・平均6.9年の追跡、大腸は397,380人、乳は206,263人が対象で、30部位を網羅した解析(Knuppel et al., 2020、394,388人)でも大腸1.08(1.03〜1.13)、乳1.11(1.07〜1.15)、前立腺1.08(1.05〜1.12)、甲状腺1.18(1.01〜1.37)(いずれも5 nmol/L あたり)と近い値が出ている。同じ解析では、卵巣と肝臓でリスクが低い方向の関連も報告されている。乳がんのMRでは、ER陽性で同様の関連が見られ、ER陰性では関連がなかった。
観察研究のHRとMRの結果は、証拠としての性質が異なる。MRでも同じ方向の関連が出ている部位があり、一括して「因果は示されていない」とは言えない。ただしMRが使うのは遺伝的に決まる生涯のIGF-1の差で、成人が食事で変えるIGF-1の変化と同じものではない。一方で、Knuppel et al.(2020)の著者は逆因果(がんの存在がIGF-1に影響する可能性)を除外できないと明記しており、Murphy et al.(2020, Gastroenterology)は、この経路が大腸がんの発生にどう関わるかについて追加研究が必要としている。
公的機関の見解は、部位によって方向が異なる。世界がん研究基金(WCRF)の前立腺がんのページ(2026年10月5日閲覧)は、乳製品が前立腺がんのリスクを高める可能性がある(may increase)としている。一方、WCRF/AICR の大腸がんに関する2017年報告は、乳製品の摂取が大腸がんを防ぐ可能性が高い(probably protects)と判定し、400g/日あたりのRRは0.87(0.83〜0.90)だった。同じ乳製品でも、部位によって方向が逆になる。
IGF-1を測った研究ではないが、日本では乳製品と前立腺がんの観察研究がある。45〜74歳の日本人男性約4.3万人を2004年まで追跡したJPHC研究(Kurahashi et al., 2008, Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention)について、国立がん研究センターの解説ページは、摂取量が最も少ないグループと比べた最も多いグループの前立腺がんリスクを、乳製品約1.6倍・牛乳約1.5倍・ヨーグルト約1.5倍と紹介している。同ページは、乳製品には骨粗鬆症・高血圧・大腸がんの予防面の利点もあるとして、「乳製品の摂取を控えた方がいいかについては、総合的な判断が必要であり、現時点では結論を出すことはできません」としている。
よくある質問
プロテインを飲むと血中IGF-1は上がるのか
高齢者を対象にしたホエイ補給の試験では上がったが、骨や筋の指標には群間差が出なかった。70〜80歳の女性にホエイ30g/日を2年間補給した試験で+7.3〜8.0%(Zhu et al., 2011)、65歳以上にホエイ1.5g/kg/日を24週間補給した試験で+14.2 ng/mL(Ceglia et al., 2026)である。いずれも高齢者の試験で、ほかの年齢層には当てはめられない。ホエイ(乳清)を含めた乳タンパク質全般の観察研究では、牛乳とヨーグルトでIGF-1との関連が報告され、チーズでは関連がなかった。
IGF-1が高いとがんになりやすいのか
UK Biobank の観察研究では、血中IGF-1が高い人で前立腺・大腸・乳・甲状腺のがんの罹患が多いという関連が報告されており、前立腺・大腸・乳ではMRでも同じ方向の結果が出ている。いずれも相対リスクの小さな上昇で、部位ごとに単位と効果量が異なり、逆因果の可能性は除外されていない。プロテインの摂取とがんの関係を直接調べた結果ではない。がんの既往や家族歴がある場合の判断は、主治医が個別に行う領域である。
子どもがプロテインを飲むと身長は伸びるのか
幼児で牛乳摂取量と血清IGF-1の関連を示した観察研究(Hoppe et al., 2004)はあるが、摂取量を変えて身長の伸びを比較した結果ではない。研究の整理は子どものプロテインと身長の関係にある。成長期の食事全体の考え方は、1日のタンパク質摂取量の目安も参照できる。
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参考文献
- Harrison S, Lennon R, Holly J, et al. (2017). Does milk intake promote prostate cancer initiation or progression via effects on insulin-like growth factors (IGFs)? A systematic review and meta-analysis. Cancer Causes & Control, 28(6), 497-528. https://doi.org/10.1007/s10552-017-0883-1
- Watling CZ, Kelly RK, Tong TYN, et al. (2021). Associations of circulating insulin-like growth factor-I with intake of dietary proteins and other macronutrients. Clinical Nutrition, 40(7), 4685-4693. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2021.04.021
- Zhu K, Meng X, Kerr DA, et al. (2011). The effects of a two-year randomized, controlled trial of whey protein supplementation on bone structure, IGF-1, and urinary calcium excretion in older postmenopausal women. Journal of Bone and Mineral Research, 26(9), 2298-2306. https://doi.org/10.1002/jbmr.429
- Ceglia L, Konieczynski E, Danico E, et al. (2026). Independent effects of whey protein and alkali supplementation on muscle health in healthy older adults: factorial randomized controlled trial. The American Journal of Clinical Nutrition, 123(5), 101257. https://doi.org/10.1016/j.ajcnut.2026.101257
- Watts EL, Fensom GK, Smith Byrne K, et al. (2021). Circulating insulin-like growth factor-I, total and free testosterone concentrations and prostate cancer risk in 200 000 men in UK Biobank. International Journal of Cancer, 148(9), 2274-2288. https://doi.org/10.1002/ijc.33416
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