GLP-1とは — グルカゴン様ペプチド-1のメカニズム

GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)は小腸下部のL細胞から食事摂取後に分泌されるインクレチンホルモンの1つで、インスリン分泌促進・グルカゴン抑制・胃排出遅延・食欲中枢作用の4機能を持つ。内因性GLP-1の血中半減期は2分未満で、DPP-4酵素で急速に分解される。

  • GLP-1
  • インクレチン
  • ホルモン
  • 血糖調節
  • 食欲調節
  • DPP-4

本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。


GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1、グルカゴン様ペプチド-1)は、小腸下部のL細胞から食事摂取後に分泌されるインクレチンホルモンの1つである。インスリン分泌促進・グルカゴン分泌抑制・胃排出遅延・食欲中枢への作用の4機能を持ち、食後血糖の調節と満腹感の形成に関与する(Holst JJ, 2007, Physiol Rev)。内因性GLP-1の血中半減期は2分未満と非常に短く、DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)酵素によって急速に不活化される。

GLP-1はどんなホルモンか

GLP-1は食後に分泌される30アミノ酸のペプチドホルモンで、インクレチン作用(食後のインスリン分泌増強)・グルカゴン抑制・胃排出遅延・視床下部への食欲調節シグナルの4機能を持つ。これら4つの作用が組み合わさって、食後の血糖上昇を緩やかに保つ生理的しくみを形成している(Holst 2007, Physiol Rev; Drucker 2018, Cell Metab)。

GLP-1はプログルカゴン(proglucagon)というタンパク質が小腸L細胞内で差次的にプロセシング(切り出し)されることで生成される。活性型はGLP-1(7-36)amide(30アミノ酸)であり、「29アミノ酸」と表記されることがあるが、Holst(2007)の報告では「30-amino acid peptide」として定義されている。

4つの生理機能

機能作用部位メカニズム
インスリン分泌促進(インクレチン効果)膵β細胞GLP-1受容体に結合し、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進
グルカゴン分泌抑制膵α細胞血糖依存的にグルカゴン分泌を調節し、肝臓での糖放出に影響
胃排出遅延胃・迷走神経平滑筋運動と迷走神経反射を介して胃排出速度を遅らせる
食欲調節視床下部・迷走神経弓状核のGLP-1受容体および迷走神経求心路を介して満腹シグナルを増強

インクレチンとは、食後に消化管から分泌されてインスリン分泌を促進するホルモンの総称であり、GLP-1のほかにGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)を含む2種類が知られている。GLP-1はインクレチンの「1種」であり、「インクレチン=GLP-1」ではない点に注意が必要である。

GLP-1はどこから分泌され、なぜすぐ分解されるのか

内因性GLP-1は主に小腸下部(回腸)から大腸の粘膜内分泌細胞(L細胞)から食後に分泌される。血中に放出されたGLP-1の大部分はDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)によってN末端ジペプチドが切断され、分泌後わずか1.5〜2分で不活化型(GLP-1(9-36)amide)に変換される(Holst JJ, 2007, Physiol Rev)。食後に分泌されたGLP-1の約10〜15%のみが実際の循環血流に到達すると報告されている。

L細胞の分布と分泌刺激

L細胞は小腸下部(回腸)および大腸の粘膜上皮に密に分布しているが、小腸の広大な表面積のために近位小腸(十二指腸・空腸)にも一定数存在する(Holst 2007)。Reimann et al.(2008, Cell Metab)がトランスジェニックマウスを用いた電気生理学的研究で示したとおり、L細胞はグルコース・脂質・アミノ酸などの栄養素を感知する受容体を持ち、特にSGLT1(ナトリウムグルコース共輸送体1)を介したグルコース流入がGLP-1放出を促進する。

DPP-4によるGLP-1の分解

DPP-4(CD26とも呼ばれる)はGLP-1活性型のN末端にあるHis-Ala配列の2番目のアラニン(Ala)側を切断し、GLP-1(9-36)amideという不活化型を生成する。Deacon et al.(1995, JCEM)はin vitro血漿実験でこの切断反応を実証し、血漿中でのGLP-1の半減期を20.4±1.4分(37℃)と報告した。ただしこれはin vitroの値であり、体内循環(in vivo)でのGLP-1の半減期は1.5〜2分未満と著しく短い(Holst 2007, Physiol Rev)。腸管粘膜・門脈・肝臓のDPP-4が分泌直後のGLP-1を急速に分解するため、実際に全身循環に到達する量は限られている。

DPP-4はGLP-1以外にもGIP・NPY等を同様の機構で不活化する基質特異性の広い酵素である(Mentlein R, 1999, Regul Pept)。DPP-4阻害薬(グリプチン系:シタグリプチン等)は2型糖尿病の治療に用いられる医薬品のカテゴリであり、DPP-4を阻害することで内因性GLP-1の分解を遅らせてその作用を延長させる機序を持つ。これは内因性GLP-1の「産生量を増やす」作用ではなく、「分解速度を低下させる」作用に基づく。

内因性GLP-1と医薬品(GLP-1受容体作動薬)はどう違うのか

GLP-1受容体作動薬は、内因性GLP-1を増やす薬ではなく、GLP-1受容体に直接結合する合成ペプチドである。構造修飾によりDPP-4分解耐性を獲得しており、セマグルチドでは半減期が約7日に延長されている(Lau J et al., 2015, J Med Chem)。このため薬理的濃度での受容体刺激が可能となり、内因性GLP-1の生理的作用とは異なるスケールの効果がみられる。

セマグルチドの構造修飾を例に取ると、天然型GLP-1からの主な変更点は2箇所のアミノ酸置換(位置8: AlaをAib=α-アミノイソ酪酸に置換してDPP-4耐性を付与、位置34: LysをArgに置換)と、位置26 LysへのC18脂肪二酸(fatty diacid、γ-Glu-2×OEGスペーサーを介してアシル化)の付加(アルブミン結合による半減期延長)である。この組み合わせにより、天然型の半減期2分未満が週1回投与に対応した約7日(165〜184時間、約5000倍)へと延長されている(Lau et al. 2015, J Med Chem; FDA Ozempic prescribing information)。

内因性GLP-1 vs GLP-1受容体作動薬の比較

項目内因性GLP-1リラグルチド(ビクトーザ等)セマグルチド(オゼンピック等)チルゼパチド(マンジャロ等)※
由来小腸L細胞(食後分泌)合成ペプチド(製剤)合成ペプチド(製剤)合成ペプチド(製剤)
分子構造GLP-1(7-36)amide(天然型)構造修飾型(C16脂肪酸付加)構造修飾型(Aib8置換+C18脂肪二酸付加)GLP-1/GIP二重アゴニスト構造
半減期1.5〜2分未満約13時間約7日(注射)/経口剤は別製品約5日
投与経路体内で自律分泌(食事が刺激)皮下注射(1日1回)皮下注射(週1回)/経口(1日1回)皮下注射(週1回)
受容体標的GLP-1受容体GLP-1受容体GLP-1受容体GLP-1受容体+GIP受容体
効果の規模生理的(食後血糖調節の補助)薬理的薬理的薬理的

※チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)はGLP-1受容体に加えてGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)受容体にも結合するGLP-1/GIP二重受容体作動薬(デュアルアゴニスト)であり、GLP-1単独の作動薬とは区別される。

(データ出典: 各製品添付文書、StatPearls NBK572151、Lau et al. 2015、Holst 2007。2026年5月時点)

Drucker(2018, Cell Metab)は、GLP-1受容体作動薬の臨床試験において体重・血糖指標の変化が観察されていることを総説でまとめている。医薬品としての使用可否・適応は医師の診断・処方に基づく判断が必要な事項であり、本記事ではこれ以上の言及は行わない。

よくある質問

Q. GLP-1受容体作動薬と食事から分泌されるGLP-1は同じ効果が得られるか

A. 同一のGLP-1受容体に作用するが、効果の規模は大きく異なる。内因性GLP-1の血中半減期は1.5〜2分で生理的濃度で作用するのに対し、GLP-1受容体作動薬はDPP-4耐性を持つ構造修飾により数時間〜数日の半減期を持ち、薬理的濃度での受容体刺激が持続する。GLP-1受容体作動薬は「食事により分泌される内因性GLP-1を増やす薬」ではなく、「受容体に直接結合する合成ペプチド製剤」である。

Q. タンパク質摂取でGLP-1の分泌は増えるか

A. タンパク質(アミノ酸)摂取はL細胞を刺激してGLP-1分泌を促進することが複数の研究で報告されている。Jakubowicz et al.(2014, Diabetologia)は2型糖尿病患者(n=15)が食前にホエイプロテイン50gを摂取した試験でintact GLP-1が約298%増加したことを観察した。ただしこれは2型糖尿病患者における急性期のデータであり、健康成人での長期的な効果については別途の研究を要する。

Q. インクレチンとGLP-1は同じ意味か

A. インクレチンはGLP-1とGIPの2種類を含む上位概念であり、「インクレチン=GLP-1」ではない。GIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)は十二指腸・空腸のK細胞から分泌され、GLP-1とともにインスリン分泌を促進するインクレチンホルモンである。GLP-1はインクレチンの1種として位置づけられる。

関連記事

参考文献

  • Holst JJ. The physiology of glucagon-like peptide 1. Physiol Rev. 2007;87(4):1409-1439. DOI: 10.1152/physrev.00034.2006
  • Drucker DJ. Mechanisms of Action and Therapeutic Application of Glucagon-like Peptide-1. Cell Metab. 2018;27(4):740-756. DOI: 10.1016/j.cmet.2018.03.001
  • Reimann F et al. (2008) Glucose sensing in L cells: a primary cell study. Cell Metab. 2008;8(6):532-539. DOI: 10.1016/j.cmet.2008.11.002
  • Deacon CF et al. (1995) Degradation of glucagon-like peptide-1 by human plasma in vitro yields an N-terminally truncated peptide that is a major endogenous metabolite in vivo. J Clin Endocrinol Metab. 1995;80(3):952-957. DOI: 10.1210/jcem.80.3.7883856
  • Mentlein R. (1999) Dipeptidyl-peptidase IV (CD26)—role in the inactivation of regulatory peptides. Regul Pept. 1999;85(1):9-24. DOI: 10.1016/s0167-0115(99)00089-0
  • Lau J et al. (2015) Discovery of the Once-Weekly Glucagon-Like Peptide-1 (GLP-1) Analogue Semaglutide. J Med Chem. 2015;58(18):7370-7380. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.5b00726
  • Jakubowicz D et al. (2014) Incretin, insulinotropic and glucose-lowering effects of whey protein pre-load in type 2 diabetes: a randomised clinical trial. Diabetologia. 2014;57(9):1807-1811. DOI: 10.1007/s00125-014-3305-x