プロテインの値上げはなぜ続くのか — ホエイ原料高騰の構造と「真のコスパ」

2025〜2026年にかけてプロテインの値上げが相次いでいる。ホエイ原料(WPC80)の国際価格は2021年比で10倍以上に高騰した。各社の値上げ幅を比較しつつ、1杯の価格ではなく吸収効率を加味した「真のコスパ」で製品を評価する視点を提示する。

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2025〜2026年にかけて、プロテインの値上げが業界全体で加速している。ホエイプロテインの主要原料であるWPC80(ホエイプロテインコンセントレート80%)の国際価格は、2021年の約1,000〜1,400ユーロ/MTから2025年2月には16,500ユーロ/MTへと10倍以上に高騰した(Vesper Tool Price Index, EU EXW基準)。国内ではグロングが+31.7%、VALXが+11.2%の値上げを実施し、マイプロテインの定価はコロナ前の約2倍に達している。一方で日本のプロテイン市場は拡大を続けており、「値上げしても販売量は増加」(日本ネット経済新聞, 2026年)という状況にある。

なぜホエイプロテインは値上がりし続けているのか

ホエイプロテイン原料の価格高騰には、複数の構造的要因が重なっている。短期的な需給バランスの問題ではなく、中長期的に解消が難しい構造的問題である点が重要である。

WPC80の欧州取引価格は2023年6月の5,100ユーロ/MTからわずか4ヶ月で7,800ユーロ/MTへ42%急騰し、2024年には10,000〜11,000ユーロ/MT、2025年2月には16,500ユーロ/MTに到達した。2026年第1四半期の見通しは13,000〜14,320ユーロ/MTで、ピークからはやや下がったものの、2021年水準の10倍以上が続いている。

高騰の主要因は以下の4つであり、いずれも短期的には解消が見込めない構造的問題である。

第一に、供給制約がある。WPI・WPC80を大量かつ安定的に生産できるメーカーは世界的に限られており、設備増強が稼働するのは早くても2026年末〜2027年と見られている。需要に対して供給が追いつかない構造が価格を押し上げている。

第二に、中国の需要回復がある。2021年にアフリカ豚熱から回復した中国が豚飼料用の乾燥ホエイを大量に買い付け、米国からの乾燥ホエイ輸出は前年同期比+39.8%増加した(米国農畜産業振興機構, 2021年)。

第三に、GLP-1受容体作動薬(Ozempic・Wegovy等)の普及が新たな需要増加要因として台頭している。米国では人口の約12%がGLP-1薬を使用しており(RAND, 2025年)、体重減少に伴うタンパク質摂取の重要性が医学的に注目されている。今後ジェネリック医薬品の参入により利用者がさらに増加する見通しがある。

第四に、為替・物流コストがある。円安により日本の輸入コストはさらに上乗せされている。

各社はどれくらい値上げしたのか — 2025〜2026年の価格改定一覧

以下に主要ブランドの値上げ推移を値上げ幅の大きい順にまとめる。本表の価格は各メーカー公式サイトおよびプレスリリースに基づく(2026年3月時点)。

ブランド製法値上げ前値上げ後値上げ幅時期
マイプロテイン Impact WheyWPC¥3,990/kg(2020年)¥7,975/kg(2026年)+約100%2020〜2026年段階的
エクスプロージョン WPCWPC¥6,980/3kg(2025年)¥9,980/3kg(2026年)+43.0%2025〜2026年段階的
グロング WPCWPC¥3,780/kg¥4,980/kg+31.7%2026年3月
VALX WPCWPC¥4,480/kg¥4,980/kg+11.2%2026年1月

マイプロテインの定価はコロナ前の2020年と比較して約2倍になっている。グロングの運営元であるUltimate Lifeは「WPI原料は2026年からさらに急騰しており、現行価格の維持が困難」と説明し、年内の追加値上げの可能性にも言及している。なかやまきんに君のブランドもWPI原料の急騰を理由に価格改定と一部製品の終売を実施した。

国内の代表的なWPC製品の2026年3月時点の価格を比較すると、ビーレジェンドが1kgあたり3,980円、グロングとVALXが4,980円、BAZOOKA WPCが4,800円(900g、単品価格)、DNSプロテインホエイ100が5,799円(1,050g)、SAVASホエイプロテイン100が4,980〜5,280円(980g、流通価格)、MADPROTEINが約3,400円/kgとなっている。

プロテインの「真のコスパ」とは何か — 1杯の価格と吸収効率

プロテインのコスパは一般に「1食あたり何円か」で語られることが多い。しかし、製法によってタンパク質含有率や吸収効率が異なるため、「1杯の価格」だけでは本当のコストパフォーマンスは見えない。

より合理的な指標は「タンパク質1gあたりのコスト」、さらに踏み込めば「体内で実際に利用されるタンパク質1gあたりのコスト」である。タンパク質の消化吸収率を示す指標としてDIAAS(Digestible Indispensable Amino Acid Score:消化性必須アミノ酸スコア)がある。Mathai et al.(2017, British Journal of Nutrition)によると、3歳以上の基準でWPCのDIAASは133、WPIは125、大豆タンパク質分離物(SPI)は98である。いずれもDIAAS 100以上で「優秀(Excellent)」に分類されるが、数値の差は「どの必須アミノ酸がどれだけ利用可能か」に影響する。

また、標準化回腸消化率(SID)ではWPIが101%、WPCが98%と、WPIがわずかに高い(Mathai et al., 2017, British Journal of Nutrition)。この3ポイントの差は統計的に有意ではあるが、実用上は大きな差とは言えない。

以下に製法別の1食あたりコストとタンパク質1gあたりコストを比較する。表はタンパク質1gあたりコストの昇順でソートしている。

製品製法価格1食量1食タンパク質1食コストタンパク質1gコスト
MADPROTEIN WPCWPC約¥3,400/kg30g約21g¥102¥4.9
ビーレジェンド WPCWPC¥3,980/kg29g約20g¥115¥5.8
グロング WPCWPC¥4,980/kg30g約21g¥149¥7.1
VALX WPCWPC¥4,980/kg30g22.1g¥149¥6.7
BAZOOKA WPCWPC¥4,800/900g30g22g¥160¥7.3
DNS ホエイ100WPC¥5,799/1,050g35g24.2g¥193¥8.0
SAVAS ホエイ100WPC約¥5,130/980g28g19.5g¥147¥7.5
GronG WPIWPI¥7,480/kg29g24.8g¥217¥8.8
BAZOOKA WPHWPH¥9,936/600g30g20.1〜20.5g¥497¥24.5

本表は各製品の単品・税込価格を基準とする(2026年3月時点)。定期購入やセール価格は含まない。BAZOOKA WPHはフレーバーによりタンパク質量が20.1〜20.5gの範囲で異なる。

WPCの価格帯が3,000〜6,000円/kgであるのに対し、WPHは8,000〜16,000円/kg以上と2〜5倍の開きがある。単純な「タンパク質1gあたりコスト」ではWPCが圧倒的に有利である。

WPC・WPI・WPHで吸収効率はどう変わるのか

価格差だけを見ればWPCが最もコスパが良いように見える。しかし、製法の違いは吸収速度と筋タンパク質合成(MPS: Muscle Protein Synthesis)のタイミングに影響する。

WPH(ホエイプロテインハイドロリゼート)は酵素で加水分解されたペプチドを主体とする製法であり、血中アミノ酸のピーク到達時間が短い。Oikawa et al.(2016, SpringerPlus)によると、WPH全体のアミノ酸出現速度定数(k₁)はカゼインの約2.9倍であり、摂取後20〜60分の時点で血中アミノ酸濃度が有意に高い状態を維持する。一方、加水分解度(DH)の高低(23%〜48%)ではWPH同士の吸収速度に有意差は認められなかった。

Tang et al.(2009, Journal of Applied Physiology)は、WPHがカゼインおよび大豆タンパク質よりも筋タンパク質合成を大きく促進することを報告している。ただし、WPHとWPC(未加水分解ホエイ)を直接比較した研究では、Hamarsland et al.(2020, Journal of Nutrition)が安静時ベースラインと比較した筋タンパク質合成率(FSR)でWPH +67%、ホエイ +57%と報告したが、両群間の差は統計的に有意とは明示されていない。一方、WPH群ではmTORC1の下流シグナルであるrpS6リン酸化が後半時点でも上昇する傾向が観察されており、持続的な合成シグナルの可能性が示唆されている。

つまり、WPHの優位性は「WPCと比べて圧倒的に速い・強い」という単純な図式ではなく、「血中アミノ酸の立ち上がりが速く、カゼインや大豆に対する優位性が大きい。WPCに対しても方向性としてはMPSが高い傾向にある」と整理するのが現時点のエビデンスに沿った評価である。

WPHの価格プレミアムを正当化する要素としては、吸収速度の速さに加え、乳糖含有量が1%未満(WPIベースの場合)であること、消化酵素の負担が少ないことが挙げられる。日本人成人の約89%に乳糖吸収不良(lactose malabsorption)が確認されたとする報告があり(Nose et al., 1979, Archives of Disease in Childhood)、実際に消化器症状が出る乳糖不耐症の割合は個人差が大きいものの、、WPCの乳糖4〜7%は消化器症状の原因となり得る。この点はコスパ計算に含まれない「隠れたコスト」である。

よくある質問

WPHはWPCと比べてコスパで選ぶ理由があるのか

WPH製品はタンパク質1gあたり約15〜25円であり、WPC製品の5〜8円と比較すると約2〜5倍である。単純な価格比較ではコスパは良くない。しかし、WPH製品は分子量350〜500Daのジペプチド・トリペプチド主体であり、血中アミノ酸の立ち上がりが速い。認証取得やNZ産グラスフェッド原料等の付加価値を持つ製品もある。価格の高さを「吸収効率と付加価値のプレミアム」と見るか「単に高い」と見るかは、目的と予算次第である。

ソイプロテインに乗り換えればコスパは良くなるか

ソイプロテインはホエイより安価な製品が多く、乳糖の問題もない。ただし、DIAASではホエイ(WPC 133)が大豆(SPI 98)を上回り、ロイシン含有量もホエイの約13.6g/100gに対して大豆は約8.0g/100gと少ない(van Vliet et al., 2015, The Journal of Nutrition)。筋タンパク質合成の効率を重視する場合、ソイへの完全な乗り換えはタンパク質の質の面でトレードオフが生じる。ホエイとソイの併用や、食事全体のタンパク質バランスで判断するのが合理的である。

プロテインの値上げはいつ落ち着くのか

短期的な価格下落は見込みにくい。GLP-1治療薬の普及拡大、供給設備の増強が2026年末〜2027年になる見通し、円安の継続といった構造的要因が重なっている。グロングは「年内に追加値上げの可能性がある」と予告しており、2026年後半にさらなる価格改定に直面するブランドが出る可能性がある。

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参考文献

  • Mathai JK, Liu Y, Stein HH (2017) “Values for digestible indispensable amino acid scores (DIAAS) for some dairy and plant proteins may better describe protein quality than values calculated using the concept for protein digestibility-corrected amino acid scores (PDCAAS)” British Journal of Nutrition, 117: 490-499
  • Tang JE et al. (2009) “Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men” Journal of Applied Physiology, 107(3): 987-992
  • Oikawa SY et al. (2016) “Effect of degree of hydrolysis of whey protein on in vivo plasma amino acid appearance in humans” SpringerPlus, PMC4814394
  • Hamarsland H et al. (2020) “Whey Protein Hydrolysate Increases Amino Acid Uptake, mTORC1 Signaling, and Protein Synthesis in Skeletal Muscle” Journal of Nutrition, PMC7443767
  • van Vliet S et al. (2015) “The Skeletal Muscle Anabolic Response to Plant- versus Animal-Based Protein Consumption” The Journal of Nutrition, 145(9): 1981-1991
  • Nose O et al. (1979) “Breath hydrogen test for detecting lactose malabsorption in infants and children” Archives of Disease in Childhood, 54(6): 436-440
  • Vesper Tool Price Index — WPC80 EU/US EXW基準(2021〜2026年)
  • 日本ネット経済新聞 (2026) 「値上げ続くプロテイン市場 — 価格高騰も販売量は増加」
  • 米国農畜産業振興機構 (2021) 乾燥ホエイの中国向け輸出統計