プロテインを加熱すると栄養価は変わるのか — ホットプロテイン・プロテイン料理の変性の科学

ホエイプロテインを料理やベーキングに使っても栄養価はほぼ変わらない。加熱で立体構造は変化するがペプチド結合は維持される。一般的な家庭調理の条件ではアミノ酸損失の問題条件を大きく下回ることを論文データで解説する。

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ホエイプロテインパウダーを料理やベーキングに使っても、タンパク質の栄養価はほぼ変わらない(本記事ではWPC・WPI・WPHを対象とする。カゼインや植物性プロテインは熱変性特性が異なる可能性がある)。加熱によってタンパク質の立体構造(変性)は変化するが、アミノ酸をつなぐペプチド結合は維持される。Wijayanti et al.(2014, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety)のレビューによれば、熱処理はホエイプロテインのアミノ酸組成を実質的に変化させない。アミノ酸損失が確認されているのは121℃×5,000秒(約83分)という工業的な滅菌処理条件であり、家庭でのパンケーキやオーブン料理はこの条件を大きく下回る。

プロテインを加熱するとタンパク質は壊れるのか

タンパク質の「変性(denaturation)」とは、熱や酸・アルカリの作用によって立体構造(三次・四次構造)が崩れることを指す。変性はペプチド結合の切断ではないため、アミノ酸の種類と量は保たれる。消化の観点では、変性によってタンパク質の表面積が広がり、消化酵素がアクセスしやすくなる場合がある。van Lieshout et al.(2020, Critical Reviews in Food Science and Nutrition)が102件の研究をシステマティックレビューした結果、適度な加熱はβ-ラクトグロブリン(β-Lg)の胃内加水分解を促進することが報告されている。

変性そのものが消化率を下げるわけではない。Accardo et al.(2022, Food Chemistry)が30〜90℃×複数pHの条件でホエイプロテインの消化率を比較したところ、中性・酸性条件(pH 2〜7)では温度上昇に伴い消化率が向上した。消化率が最大50%低下したのはアルカリ性高温条件(90℃+pH 9〜13)に限定される。プロテインドリンクや一般的な料理は中性〜弱酸性pH(6〜7程度)であるため、このアルカリ性条件の消化率低下は通常の調理では生じない。

ホットプロテインの温度は何度が限界か

ホエイプロテインの熱変性は成分によって開始温度が異なる。α-ラクトアルブミン(α-La)は約62〜65℃で変性が始まり、β-ラクトグロブリン(β-Lg)は約70〜75℃から変性が進行する(Wijayanti et al., 2014)。Qian et al.(2017, Korean Journal of Food Science of Animal Resources)の実験では、65℃時点でのβ-Lgの変性率は約28%と報告されている。70〜100℃では変性率が顕著に増加するが、前述のとおりアミノ酸組成への実質的な影響は認められていない。

問題となるのは、メイラード反応(Maillard reaction)によるリジン(lysine)の利用率低下である。Desrosiers et al.(1991, Journal of Dairy Research)が水活性・温度・時間を系統的に変えて評価した結果、リジンやシスチン(cystine)の利用率が著しく低下したのは最大条件(121℃×5,000秒≒83分)であった。この条件は工業的な高圧滅菌処理(オートクレーブ)に相当し、家庭での調理では通常達しない。60〜80℃×数分という日常的な調製条件は、この問題条件を大きく下回る。

以下に温度帯別のホエイタンパク質変性挙動をまとめる。変性開始温度の低い順に示す。

温度帯主な現象β-Lg変性率の目安アミノ酸への影響実用例
~60℃変性ほぼなし数%以下実質なしぬるめのホットドリンク
60〜65℃α-La変性開始α-La一部変性実質なしホットミルク(低温)
65〜75℃β-Lg変性開始約28%(65℃時点)実質なしホットミルク・スープ
75〜90℃変性が顕著に進行顕著に増加実質なし(中性pHなら消化率維持)パンケーキ生地内部・蒸しパン
90〜121℃高度変性・凝集ほぼ完全変性実質なし(極端条件除く)オーブン調理
121℃×83分以上メイラード反応進行完全変性リジン・システイン損失あり工業的滅菌処理(家庭調理では通常起こらない)

データ出典: Wijayanti et al., 2014; Qian et al., 2017; Accardo et al., 2022; Desrosiers et al., 1991

プロテインを料理に使うとアミノ酸組成は変わるのか

パンケーキやオーブン料理にプロテインパウダーを加える場合、重要なのはフライパンやオーブンの設定温度ではなく、生地の内部温度である。フライパン表面温度は160〜200℃に達するが、生地内部には水分が多く含まれるため、水の沸点(100℃)を超えることがないという物理的制約がある。蒸発による気化熱が内部温度の上昇を抑え、生地内部温度は70〜95℃程度にとどまるのが一般的である。この区別を理解していないと、「オーブンは200℃だからタンパク質が破壊される」という誤解につながる。

乾式加熱(水分が少ない条件)では、高温かつ長時間の処理でリジン損失が生じるリスクが高まる。ただし、水分を含む生地内部は乾式加熱より条件が穏やかであり、一般的なパンケーキや蒸しパンの短時間焼成(片面2〜4分)ではこのリスクは小さいと考えられる。van Lieshout et al.(2020)のシステマティックレビューが引用する複数の研究では、グリケーション(glycation、糖化反応)によるリジンの利用率低下が確認されているのは高温・長時間・高水活性の複合条件であり、短時間の加熱調理では問題は小さいと整理されている。

なお、WPHはすでに酵素加水分解により低分子ペプチド化されているため、立体構造変性は起こりにくい。ただし、WPHのペプチドもリジン残基を含むためメイラード反応は起こりうる。WPHが全条件でリジン損失を免れるわけではない点に注意が必要である。

WPC・WPI・WPHで加熱耐性は違うのか

WPC・WPI・WPHの加熱耐性は、製法に起因する分子構造の違いによって異なる。Jeewanthi et al.(2015, Korean Journal for Food Science of Animal Resources)のレビューが引用する複数の研究によれば、WPHは酵素加水分解によって二次構造が実質的に消失しているため、pH 6〜10の広い範囲で高い溶解性を維持し、熱安定性が優れる。WPCはpH 4〜6.5での加熱で溶解性が低下するのに対し、WPHは加水分解度が高いほど熱安定性に優れる。

種別製法の特徴熱変性感受性ホット調理適性溶解性(加熱時)
WPC限外濾過(UF)。立体構造が保持された状態高い(β-Lg 70〜75℃で変性開始)60〜70℃以下が目安pH 4〜6.5の加熱で低下
WPIイオン交換・CFMで高度精製。立体構造は保持WPCと同等(β-Lg変性温度は同じ)WPCと同等WPCより高純度だが変性温度は変わらない
WPH酵素加水分解で低分子ペプチド化。二次構造が実質的に消失低い(変性する立体構造がない)90℃でも熱安定性を示すpH 6〜10で高い溶解性を維持

データ出典: Jeewanthi et al., 2015

市販製品の例として、WPCを使用するものにBig Man Nutrition WPC、alpron WPCなどがある。WPHを使用するものにBAZOOKA NUTRITION WPH、DNS ZONE ホエイプロテイン100(WPH)などがある。WPHは加熱調理に対してより安定した溶解性を示すが、アミノ酸損失の有無という観点では、短時間の家庭調理であればWPC・WPI・WPHの差は小さい。

よくある質問

Q. プロテインをお湯で溶かすと効果は落ちるのか

A. 落ちない。お湯でタンパク質の立体構造(変性)は変化するが、アミノ酸の種類と量は保たれる。消化の観点では、適度な加熱がβ-ラクトグロブリンの胃内加水分解を促進するとのレビュー報告(van Lieshout et al., 2020)もある。60〜80℃のお湯で溶かす範囲では栄養価の実質的な低下は生じない。

Q. プロテインパンケーキの栄養価は粉末と同じか

A. ほぼ同じと考えられる。フライパン表面温度は160〜200℃に達するが、生地内部温度は水分蒸発の冷却効果により70〜90℃程度に抑えられる。アミノ酸損失が報告されている問題条件(121℃×83分以上、または130℃×20分以上の乾式加熱)とは条件が大きく異なる。短時間の焼成(片面2〜4分)では、アミノ酸組成への実質的な影響は小さい。

Q. ホットミルクにプロテインを入れてよいか

A. 問題ない。ホットミルクの温度は通常60〜80℃程度であり、この範囲ではα-Laやβ-Lgの変性が進行するものの、アミノ酸の種類と量は維持される。Accardo et al.(2022)の実験では、中性pHでの60〜90℃加熱において消化率の低下は確認されていない。ただし、沸騰直後の100℃に近い状態での混合は溶解性の低下や泡立ちが生じる場合があるため、65〜70℃程度まで冷ましてから溶かすことが実用上は扱いやすい。

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参考文献

  • Wijayanti HB et al., 2014, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 13(6):1235–1251. DOI: 10.1111/1541-4337.12105
  • Accardo F et al., 2022, Food Chemistry, 387:132884. DOI: 10.1016/j.foodchem.2022.132884
  • Desrosiers T et al., 1991, Journal of Dairy Research, 58(4):431–441. DOI: 10.1017/s002202990003003x
  • van Lieshout GA et al., 2020, Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 60(14):2422–2445. DOI: 10.1080/10408398.2019.1646703
  • Jeewanthi RKC et al., 2015, Korean Journal for Food Science of Animal Resources, 35(3):350–359. DOI: 10.5851/kosfa.2015.35.3.350
  • Qian F et al., 2017, Korean Journal of Food Science of Animal Resources, 37(1):44–51