登山の行動食にタンパク質は要るのか — 行動中の糖質と下山後の回復を分けて考える

行動中のエネルギー供給で優先されるのは糖質で、運動中にタンパク質を足す効果は研究間で結果が分かれる。一方で下り歩行は伸張性収縮による筋損傷を伴う。携行単位あたりのエネルギーとたんぱく質量で8カテゴリの行動食を比較し、時間帯ごとの役割を整理する。

行動中のエネルギー供給で優先されるのは糖質であり、運動中にタンパク質を併用する効果は研究間で結果が分かれている。一方で下り歩行は伸張性収縮(eccentric contraction)を伴い、上り歩行より翌日の筋肉痛・血中CK値の上昇が大きいことが報告されている。タンパク質の役割は行動中よりも、下山後から翌日にかけての回復側にある。

行動中に優先されるのは何か

行動中のエネルギー補給で優先されるのは糖質(carbohydrate)であり、タンパク質ではない。Jeukendrup (2014)はSports Medicine誌で持久運動時の糖質摂取戦略を整理し、2〜3時間の運動では単一糖質源で最大約60g/時、複数種の糖質(グルコース+フルクトース等)を併用するウルトラエンデュランス条件では約90g/時までの摂取が目安になるとしている。単一輸送体の糖質だけでは腸管での吸収に上限があり、複数輸送体を使う設計のほうが酸化速度が20〜50%向上する。

行動中に糖質とタンパク質を一緒に摂ると何が起きるのか。この問いへの答えは研究によって割れている。

Saunders et al. (2004)はMedicine & Science in Sports & Exercise誌で、訓練された男性サイクリストを対象に、糖質単独飲料(7.3%)と糖質+タンパク質飲料(7.3%+1.8%)を比較した。結果、糖質+タンパク質群は糖質単独群より疲労困憊までの時間が有意に延長し、運動後の筋損傷マーカーも低下したと報告されている。ただしこの設計はタンパク質を糖質に上乗せしたもので、2つの飲料は総エネルギー量が異なる。差がタンパク質そのものによるのか、摂取エネルギーの多さによるのかは、この試験だけでは切り分けられない。対象も訓練された男性サイクリストに限られる。

一方でWitard, Hearris, Morgan(2025, Sports Medicine)のナラティブレビューは、糖質が充足している条件下では運動前・運動中のタンパク質併用にパフォーマンスや回復面での追加効果は確認されていないとまとめている。両者の違いは糖質量が足りているかどうかにあり、「行動中にタンパク質を足せば必ず有利になる」とは言い切れない。行動中の主役は糖質で、タンパク質は条件つきの補助という位置づけになる。

行動食は何をどれだけ持てばよいか

行動食を比較するときの基準は「100gあたり」ではなく「1回に携行して食べる現実的な単位」で揃える。粉末プロテインは水150〜200mLに溶かして初めて口にできる形になるのに対し、ようかんやナッツは袋から出してそのまま食べられる。100gという同じ数字で並べても、実際に持ち歩く量も摂り方も違うものを比較していることになる。

比較表の数値は「100gあたりの値 × 携行単位(g) ÷ 100」で換算した。エネルギーの高い順に並べ、値に幅がある品目は下限値で順位を決めている。たんぱく質量はソートの基準ではなく列として置いている。行動食にまず求められるのはエネルギー確保であり、この並びは「行動中の主役は糖質」という結論とも整合する。

カテゴリ携行単位の目安エネルギーたんぱく質水・容器主な役割の時間帯
プロテインバー(アサヒ 1本満足バー ギガプロテイン)1本 65g332kcal27g不要行動中・休憩時
くるみ(いり)小分け1袋 25g178kcal3.7g不要行動中・休憩時
ようかん1本 60g173kcal2.2g不要行動中
アーモンド(乾)小分け1袋 25g152kcal4.9g不要行動中・休憩時
エナジージェル(マグオン)1本 41g120kcal0g前後(未公表)不要行動中
粉末プロテイン(BAZOOKA WPC)1食 30g115kcal22g必要(水150〜200mL・容器)下山後
魚肉ソーセージ1本 70g111kcal8.1g不要休憩時・下山後
ビーフジャーキー1袋 30g91〜115kcal10.5〜16.4g不要休憩時・下山後

収載基準は「登山の行動食として一般に携行される、常温保存が可能な食品カテゴリ」である。数値の確認状況は3種類に分かれる。くるみ・ようかん・アーモンド・魚肉ソーセージは日本食品標準成分表(八訂)の値(食品番号順に05014・15038・05001・10388)を基点に換算した。プロテインバー(アサヒ 1本満足バー ギガプロテイン)・エナジージェル(マグオン)・粉末プロテイン(BAZOOKA WPC)の3カテゴリは、いずれも携行単位あたりの公式表示をそのまま表に載せ、100gあたりの値のほうを逆算した。この3つは同じ手順で、ブランドを問わず製品名と確認日を開示している(いずれも2026年9月10日確認)。各製品の数値は表のとおりである。エナジージェルのたんぱく質量が未公表なのは、糖質での即時のエネルギー補給を目的とした製品でたんぱく質量を表示しない設計が一般的なためである。ビーフジャーキーは成分表に収載がなく、市販品の代表値レンジ(304〜383kcal・34.9〜54.8g/100g)を携行単位30gに換算した幅として示した。なお、ようかんは井村屋「えいようかん」の公式表示(171kcal・1.9g/60g)が成分表からの換算値(173kcal・2.2g)とわずかに異なり、両方を明記しておく。

粉末プロテインは水150〜200mLとシェイカーまたは容器が要る。溶かした後は傷みやすく、行動中に携行して飲む用途には向かない。水が冷たいと溶けにくい。

下山後にタンパク質が要るのはなぜか

下り歩行は上り歩行より筋損傷が大きく、この差が「回復期にタンパク質が必要」という位置づけの根拠になる。Nakayama et al. (2019)はThe Journal of Physiological Sciences誌で、健康な若年男女10名を対象に、トレッドミルで傾斜+5%の上り歩行と-5%の下り歩行(いずれも6km/h・30分間)を行わせて翌日の筋肉痛を比較した。下り群の筋肉痛は上り群より有意に大きく(P<0.01)、糖質酸化率は血中CK値・筋肉痛の程度と負の相関を示した(r=-0.41, r=-0.47)。

下り歩行は伸張性収縮を伴う動作であり、筋線維に微細な損傷が生じやすい。この研究はn=10とサンプルサイズが小さく、トレッドミルでの30分間という条件は不整地を長時間歩く実際の下山とは負荷が異なる点に留意する必要がある。それでも、下山後から翌日にかけて筋の回復が課題になること自体は、この結果と整合する。

回復期のタンパク質摂取が筋力回復に関わる可能性を示す研究もある。運動によって筋肉痛が生じた後のタンパク質摂取と回復の関係は、プロテインは筋肉痛(DOMS)に効くのかで扱っている。

連日行動では1日にどれだけ必要か

1日あたりのタンパク質必要量は、出典によって示す値が異なる。単一のレンジで断定できる状況ではなく、根拠ごとに対象集団と条件が違う。

Jäger, Kerksick, Campbell ら(2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition)のISSNポジションスタンドは、運動する個人一般に対して1.4〜2.0g/kg/日を示している。持久系に限定した推奨ではなく、運動習慣がある成人全般への値である。

Thomas et al. (2016)によるACSM・栄養士会(Academy of Nutrition and Dietetics)・カナダ栄養士会(Dietitians of Canada)の合同見解は、アスリート全般で1.2〜2.0g/kg/日とし、強化トレーニング期や減量期にはさらに高い値が必要になるとしている。

Witard et al. (2025)は持久系アスリートに絞ったナラティブレビューで、推奨値を約1.8g/kg/日とする一方、実際の習慣的摂取量は約1.5g/kg/日にとどまっていると報告している。体重65kgであれば、この推奨値に沿うと1日あたり約117g、習慣的な実態に沿うと約98gという計算になる。

登山は座位中心の生活よりも活動量が高く、連日の縦走や山小屋泊が続く場面では、これらの範囲の上寄りを目安にする根拠になる。ただし登山特有の条件(高所・不整地・長時間の連日行動)で必要量を直接検証した研究は確認されておらず、示した数値はいずれも一般的な運動・持久系アスリートを対象にした値である点は踏まえておきたい。

体重別の摂取量については持久系アスリートにプロテインは必要かで目安を示している。行動中の水分・電解質補給との兼ね合いはプロテインとスポーツドリンクは一緒に飲んでよいのかを参照してほしい。

よくある質問

Q. 行動中に粉末プロテインを飲むのは向いているか

向いていない場面が多い。水150〜200mLと容器が必要で、溶かした後は傷みやすいため行動中の携行には不向きである。行動中に優先されるのは糖質であり、タンパク質を併用する効果も糖質量の充足度で結果が分かれる。粉末プロテインは下山後、水場や山小屋で摂る使い方のほうが制約に合う。

Q. プロテインバーは行動食として使えるか

携行単位あたりのエネルギーは比較した8カテゴリの中で最も高く、たんぱく質量も多い。水も容器も不要で、行動中にそのまま食べられる。一方でチョコレートコーティングされた製品は夏季に溶融しやすく、冬季は硬化して食べにくくなる製品もある。季節と保管方法によって選ぶ製品を変える必要がある。

Q. 山小屋泊の連泊では1日の摂取量を増やすべきか

出典によって示される推奨値の幅は1.2〜2.0g/kg/日程度で分かれており、単一の答えはない。座位中心の生活より活動量が高い連日行動では、この範囲の上寄りを目安にする根拠にはなるが、登山特有の条件を直接検証した研究は確認されていない。体重や行動強度に応じて幅の中で調整するのが現実的である。

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参考文献

  • Jeukendrup A (2014). A Step Towards Personalized Sports Nutrition: Carbohydrate Intake During Exercise. Sports Medicine, 44(Suppl 1), 25-33. DOI: 10.1007/s40279-014-0148-z
  • Saunders MJ, Kane MD, Todd MK (2004). Effects of a Carbohydrate-Protein Beverage on Cycling Endurance and Muscle Damage. Medicine & Science in Sports & Exercise, 36(7), 1233-1238. DOI: 10.1249/01.mss.0000132377.66177.9f
  • Nakayama A, Aoi W, Takami M, Hirano N, Ogaya Y, Wada S, Higashi A (2019). Effect of downhill walking on next-day muscle damage and glucose metabolism in healthy young subjects. The Journal of Physiological Sciences, 69(1), 31-38. DOI: 10.1007/s12576-018-0614-8
  • Jäger R, Kerksick CM, Campbell BI, et al. (2017). International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14, 20. DOI: 10.1186/s12970-017-0177-8
  • Thomas DT, Erdman KA, Burke LM (2016). Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance. Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics, 116(3), 501-528. DOI: 10.1016/j.jand.2015.12.006
  • Witard OC, Hearris M, Morgan PT (2025). Protein Nutrition for Endurance Athletes: A Metabolic Focus on Promoting Recovery and Training Adaptation. Sports Medicine, 55(6), 1361-1376. DOI: 10.1007/s40279-025-02203-8