プロテインの味はどう設計されているのか — 香料・甘味料・原料グレードの役割
プロテインのフレーバーは甘味料・香料・原料グレードの3要素で設計される。WPHの苦味の88%は4種の疎水性ペプチドに起因し、甘味料の選択と組み合わせがマスキング効果を決定する。主要ブランドのフレーバー別添加物構成を比較する。
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プロテインの「味」は、甘味料・香料・原料グレードの3要素が組み合わさって設計される。甘味料はスクラロース(砂糖の約600倍甘味)やステビア(200〜300倍)など少量で糖質ゼロを実現し、香料はトップノートとベースノートを分けて立体感を与え、原料グレード(WPC/WPI/WPH)の風味特性の違いが全体の設計難易度を左右する。なかでもWPH(ホエイタンパク質加水分解物)は苦味の88%が4種の疎水性低分子ペプチドに起因し(Liu et al., 2014, Journal of Agricultural and Food Chemistry)、苦味マスキングがフレーバー設計の最大の課題となる。
プロテインの「味」は何で決まるのか — フレーバー設計の3要素
プロテインのフレーバーは、甘味料・香料・原料グレードの3要素で構成される。これらは互いに干渉し合い、どれか1つを変えると全体の味のバランスが変わる。
甘味料は糖質ゼロを維持しながら「甘さ」を担う。スクラロースは砂糖比約600倍の甘味倍率を持ち、砂糖と比べて甘味の立ち上がりがやや遅く、後味として長く残る。ステビア(rebaudioside-A)は200〜300倍で、Tan et al.(2019, Food Research International, Vol.121, pp.39-47)による16種甘味料の時間的プロファイル比較(n=20)では、単体・高濃度での評価において苦味・金属味・化学的な副次風味が砂糖より有意に多く報告された。ただし Parker et al.(2018, Journal of Dairy Science, Vol.101(10), pp.8875-8889)では、ステビア25%+羅漢果75%のブレンドがスクロース(砂糖)の時間的甘味プロファイルに最も近い結果を示しており、配合比率や濃度によって結果は大きく変わる。
香料はトップノート(最初の印象)とベースノート(余韻)を分けて設計される。業界では揮発性の高い成分でトップノートを立て、低揮発性成分でボディと余韻を補完するという設計が一般的に行われている。原料グレードはそれ自体が持つ固有の風味特性を通じて、香料や甘味料の必要量に影響する。
香料はどのように使われているのか — 天然香料と合成香料の違い
香料は食品の香気を補完・強化するために使われる。プロテイン製品の香料はチョコレート・バニラ・ストロベリーなど各フレーバーに対応した混合香料として配合される。
日本での表示規制として重要な点がある。2020年の食品表示基準改正により、日本では消費者向けの食品ラベルに「天然香料」「合成香料」の区別を記載することが廃止され、「香料」と一括表示されている。このため、成分表示だけでは使用している香料の種類(天然由来か化学合成由来か)を判別できない。「香料不使用」と記載された製品のみが、香料を一切含まないことを確認できる製品となる。
一般的な食品化学の知見として、天然香料はハーブ・果実・スパイスなどの植物性または動物性原料から抽出・濃縮したものを指す。一方、合成香料は化学合成で作られた香気成分で、天然の香料と同一の分子構造を持つものも多い。FDA・EFSAなど各国の規制機関は両者を個別に安全性評価しており、使用許可を受けた香料成分はいずれも認可された範囲内で使用される。
乳化剤(主に大豆レシチン)は香料や甘味料の分散を助け、水への溶解性とクリーミーな口あたりを補完する役割を果たす。Wang et al.(2024, Frontiers in Nutrition, Vol.11)のレビューでは、CMC(カルボキシメチルセルロース)やポリソルベート80などの合成乳化剤が腸内細菌叢の組成を変化させる可能性があると報告されている。Myproteinは「大豆レシチン」と具体的に記載しており、他のブランドの多くは「乳化剤」と一括表示している(2026年4月時点)。
甘味料の選択は味にどう影響するのか — スクラロース・ステビア・羅漢果の設計意図
甘味料の種類は「甘さの感じ方の時間的プロファイル」と「後味の質」を大きく左右する。Tan et al.(2019)の比較では、砂糖は飲用後10秒以内にピーク甘味に達し急速に減衰する。これに対し、スクラロース・ステビア・羅漢果(モグロシドV)はいずれも甘味の立ち上がりが遅く、後味として長く残る特性を持つ。
スクラロースは甘味倍率が約600倍と最も高く、後味の持続時間が長い。ステビアと羅漢果(モグロシドV、甘味倍率約250〜425倍)は天然由来であるが、Tan et al.(2019)の単体・高濃度評価では苦味・金属味が報告された。Parker et al.(2018)のバニラ味RTMホエイプロテイン飲料(25g protein/360mL水)での実験では、ステビア25%+羅漢果75%ブレンドがスクロース(砂糖)の時間的甘味プロファイルに最も近い結果を示した。この研究では消費者150名を対象に盲目テストと表示ラベルへの評価を比較し、ラベル上は天然甘味料を好む層でも実際の官能評価ではスクラロース製品を好む傾向も見られた。
アセスルファムK(甘味倍率約200倍)は甘味の立ち上がりが速いが、単体では金属味・苦味が出やすいとされる。そのため複数の甘味料をブレンドして互いの欠点を補完する設計が市販製品では広く採用されている。甘味料の選択は安全性規制(FDA・食品安全委員会の許可甘味料)の範囲内で行われており、使用量は各機関が設定するADI(一日摂取許容量)を大きく下回る水準に設計されるのが一般的である。
原料グレード(WPC/WPI/WPH)で味はどう変わるのか
原料グレードによって固有の風味特性が異なり、フレーバー設計の難易度と方向性が変わる。
WPC(ホエイプロテインコンセントレート) はタンパク含有率70〜80%で、濾過工程で脂質と乳糖が一部残存する。この脂質・乳糖がクリーミーな風味とわずかな甘みを生み出すため、甘味料の必要量が比較的少なく、乳らしいベース風味が香料を補完しやすい。
WPI(ホエイプロテインアイソレート) はタンパク含有率90%以上で、脂質と乳糖がほぼ除去される。ベースとなる自然な甘みや乳風味が消えるため、甘味料・香料の設計上の役割が大きくなる。味が淡白・クリーンになる分、目指すフレーバーの完成度は甘味料と香料の精度に依存する。
WPH(ホエイタンパク質加水分解物) は酵素加水分解によってタンパク質を低分子ペプチドに分解する製法である。加水分解由来の苦味・渋みが3グレード中で最も強く、フレーバー設計の難易度が高い。Liu et al.(2014, Journal of Agricultural and Food Chemistry, Vol.62(25), pp.5719-5725)は官能誘導型分画技術を用いて、WPH苦味の88%が4種の疎水性低分子ペプチド(YGLF・IPAVF・LLF・YPFPGPIPN)に起因することを特定した。これらはα-ラクトアルブミン・β-ラクトグロブリン・血清アルブミン・β-カゼイン由来である。Leksrisompong et al.(2012, Journal of Food Science, Vol.77(8), pp.S282-287)は24種の阻害剤を用いた実験で、スクラロース・フルクトース・ショ糖などの甘味料がこの苦味をマスキングする機能を持つ一方、苦味を低減する塩類・ヌクレオチドはバニラ・チョコレート風味を逆に弱めるというトレードオフを報告した。WPHの苦味マスキングにはこのトレードオフへの対応が設計上の核心となる。
なぜ同一ブランドでもフレーバーごとに添加物が異なるのか
同一ブランドの製品でも、フレーバーによって使用する甘味料・香料・着色料が異なるケースが多い。これはフレーバー特性と甘味料の時間的プロファイル(Tan et al., 2019)の相性が組み合わせによって変わるためである。
例えば一部のブランドでは、プレーン(無香料)は羅漢果のみで甘みを付け、フルーツ系フレーバーには甘味プロファイルの異なるステビアを採用している。あるブランドの公式サイトによれば「羅漢果の植物由来の苦味がフルーツ系フレーバーとマッチしなかった」という設計判断に基づくケースがある。このように、甘味料の後味特性と香料の余韻が干渉し合う場合に甘味料の変更が行われることがある。
着色料の使用もフレーバー別に異なる。プレーン・チョコレート系では着色料不使用が多いが、ストロベリーなどのフルーツ系ではビートレッドなどの天然着色料を使用するケースがある(例:一部製品のストロベリーフレーバーはビートレッドを使用しているが、同製品の他フレーバーは着色料不使用)。成分表示を確認する際はフレーバーごとに原材料を確認することが正確な把握につながる。
チョコレートフレーバーにはコアコパウダー(カカオパウダー)が使われる場合があり、その場合は脂質がやや増加する一方で、カカオ由来の色と風味を添加物なしで付加できる。
主要ブランドの添加物構成はフレーバー間でどう違うのか
甘味料の選択(Tan et al., 2019; Parker et al., 2018)と着色料の有無はフレーバーごとに異なり、同一ブランド内でも添加物の構成が変わる。各製品の代表フレーバーを原材料数昇順で比較する(2026年4月時点)。原材料数はフロントに記載された全成分をカウントしたもの。フレーバーによって構成が変わるため、同一ブランドでも異なるフレーバーは別行で示す。各製品のスペックは各メーカー公式サイトの原材料表示に基づく(2026年4月時点)。
| ブランド・製品 | フレーバー | 甘味料 | 着色料 | 香料 | 乳化剤 | 原材料数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| GronG スタンダード | ナチュラル | なし | なし | なし | あり | 約4 |
| be LEGEND WPC | GENMATSU | なし | なし | なし | なし | 約1(単一) |
| BAZOOKA WPC | プレーン | 羅漢果(天然) | なし | なし | あり | 約6 |
| BAZOOKA WPH | サワーレモン | 羅漢果(天然) | なし | あり | あり | 約21※ |
| BAZOOKA WPH | ビターチョコ | 羅漢果(天然) | なし | あり | あり | 約21※ |
| BAZOOKA WPC | チョコレート | ステビア(天然) | なし | あり | あり | 約8 |
| Myprotein Impact WPC | チョコブラウニー | スクラロース(人工) | なし | あり | 大豆レシチン | 約8 |
| SAVAS ホエイ100 | リッチショコラ | アスパルテーム+スクラロース(人工2種) | なし | あり | あり | 約9 |
| BAZOOKA WPC | ストロベリー | ステビア(天然) | アカビート(天然) | あり | あり | 約9 |
| Myprotein Impact WPC | ストロベリー | スクラロース(人工) | ビートレッド(天然) | あり | 大豆レシチン | 約9 |
| VALX WPC | チョコレート | アスパルテーム+スクラロース+アセスルファムK(人工3種) | フラボノイド色素(天然系) | あり | あり | 約10 |
| be LEGEND WPC | 激うまチョコ | スクラロース+ステビア(複合) | 未確認 | あり | あり | 約10 |
| GronG スタンダード | ストロベリー | スクラロース(人工) | 未確認 | あり | あり | 約8 |
※GronGストロベリーの着色料は公式サイトの表示形式(画像ベース)のため未確認(2026年4月時点)。 ※be LEGEND 激うまチョコの着色料は公式サイトで未確認(2026年4月時点)。 ※原材料数はフレーバーや製品仕様の変更により変動する場合がある。最新情報は各メーカー公式サイトを確認のこと。 ※比較はプロテインパウダー製品の代表フレーバーを対象とし、フレーバー違いは別行で示した。 ※WPH製品はマルチビタミン13種を配合しており、ビタミン類が原材料数を大幅に押し上げている。
よくある質問
Q. 香料の「天然」「合成」で安全性に違いはあるのか
日本の食品表示では2020年改正以降「香料」と一括表示されており、ラベルからは天然・合成の区別が判別できない。安全性の観点では、いずれも食品安全委員会・FDAなど各国規制機関が個別に審査・許可した成分のみが使用可能である。天然由来であることが自動的に安全性が高いとはいえず、また合成であることが安全性を下げるとも言えない。成分ごとに規制機関の評価内容と許可条件を確認することが正確な判断につながる。
Q. プロテインの甘さは砂糖何g分に相当するのか
スクラロースを例に計算すると、甘味倍率が砂糖比約600倍であるため、0.05gのスクラロースが約30gの砂糖と同等の甘みを生む計算になる。ただし甘さの「感じ方の時間的プロファイル」が砂糖と異なり、立ち上がりが遅く後味が長く残るため、単純な「砂糖換算量」で味の印象は一致しない。実際の製品では甘味料の使用量はメーカーが非公開とするケースが多く、成分表示に「甘味料(スクラロース)」と記載があっても具体的な含有量は通常開示されていない。
関連記事
参考文献
- Tan VWK et al. (2019). Temporal sweetness and side tastes profiles of 16 sweeteners using temporal check-all-that-apply (TCATA). Food Research International, 121, 39–47. DOI: 10.1016/j.foodres.2019.03.019
- Parker MN, Lopetcharat K, Drake MA. (2018). Consumer acceptance of natural sweeteners in protein beverages. Journal of Dairy Science, 101(10), 8875–8889. DOI: 10.3168/jds.2018-14707
- Liu X, Jiang D, Peterson DG. (2014). Identification of Bitter Peptides in Whey Protein Hydrolysate. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 62(25), 5719–5725. DOI: 10.1021/jf4019728
- Leksrisompong P, Gerard P, Lopetcharat K, Drake MA. (2012). Bitter taste inhibiting agents for whey protein hydrolysate and whey protein hydrolysate beverages. Journal of Food Science, 77(8), S282–287. DOI: 10.1111/j.1750-3841.2012.02800.x
- Wang H et al. (2024). The key to intestinal health: a review and perspective on food additives. Frontiers in Nutrition, 11. DOI: 10.3389/fnut.2024.1420358