プロテインの「タンパク質◯g」は何を測った数字か — 窒素定量換算法とアミノ酸スパイキング

パッケージのタンパク質量は、多くの場合ケルダール法等で測った窒素量に換算係数を掛けた値である。消費者庁の食品群別換算係数表と3つの分析法の違いから、表示値の成り立ちとアミノ酸スパイキングが成立する構造を整理する。

パッケージに書かれた「タンパク質◯g」は、多くの場合アミノ酸そのものを直接測った値ではない。日本の食品表示制度で認められているたんぱく質の定量法は「窒素定量換算法」のみで、試料中の窒素量に食品群ごとの換算係数を掛けて算出する。窒素を含む物質であれば、タンパク質でなくても表示値に乗る余地が原理的には生まれる。ただし制度の側にも手当てはあり、通知は一部の含窒素化合物について換算係数を0として扱うよう定めている。日本国内で行政処分や確定判決に至った事例は、本記事の調査範囲では見つからなかった。

パッケージの「タンパク質◯g」は何を測った数字か

消費者庁の通知が定めるたんぱく質の定量法は窒素定量換算法1種類だけであり、下位手法としてケルダール法と燃焼法(デュマ法)の2つが併記されている。どちらもアミノ酸ではなく窒素という元素を測る方法である。

法的根拠は消費者庁「食品表示基準について(別添 栄養成分等の分析方法等)」(2015)にある。食品表示基準〈平成27年内閣府令第10号〉別表第9に基づく通知である。ケルダール法は試料を濃硫酸で分解して窒素をアンモニアに変換し、水蒸気蒸留でホウ酸溶液に捕集したのち硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求める。燃焼法は試料を870℃以上の高温・純酸素中で燃焼させ、発生した窒素酸化物を窒素に還元して熱伝導度検出器で定量する方法だ。

いずれの方法でも、求まるのは「窒素の量」であって「タンパク質の量」ではない。窒素量をタンパク質量に変換するために掛ける数字が、窒素-たんぱく質換算係数である。この係数は食品群によって異なり、一律ではない。

プロテインパウダーの読者に関係する範囲を消費者庁の通知から抜き出すと、次のようになる。

食品群換算係数
乳及び乳製品、バター類、マーガリン類6.38
だいず、だいず製品(豆腐竹輪を除く)、えだまめ、だいずもやし、しょうゆ類、みそ類5.71
こめ、こめ製品(赤飯を除く)5.95
小麦粉、フランスパン、うどん・そうめん類等5.70
ふかひれ、ゼラチン、腱(うし)、豚足、軟骨5.55
上記の表に挙がっていない食品6.25

並び順は通知の掲載順ではなく、プロテインの主原料として一般的な乳→大豆→穀類→ゼラチン→その他の順にした(2026年9月時点)。最終行の6.25は「通知の表に個別の係数が挙がっていない食品」に適用される値であり、上に並べた4群以外がすべて6.25になるという意味ではない。たとえばゼラチンや軟骨に由来する原料には5.55が挙げられている。コラーゲンペプチドのような加工品にどの食品群の係数が当たるかは原料や加工形態によるため、この表から一律に決めることはできない。ホエイプロテインの主原料である乳製品は6.38、大豆プロテインは5.71が適用される。解説記事でよく見る「6.25」は、どの食品にも使える定数ではない。

窒素を測ることで何が起きるのか

窒素定量換算法で得られる値は「粗タンパク質(crude protein)」と呼ばれる。窒素を含む物質であればタンパク質かどうかを問わず一律に換算係数を掛けて計上されるため、非タンパク質由来の窒素まで含んだ粗い値になるからだ。

これに対し、全窒素量から非タンパク質態窒素(NPN: 遊離アミノ酸・アミド・クレアチン類等)を差し引いた値、あるいはアミノ酸を個別に定量して合算した値は「真のタンパク質(true protein)」と呼ばれる。粗タンパク質と真のタンパク質はどちらも分析化学の一般的な用語であり、特定の研究者に帰属する定義ではない。

グリシン(C2H5NO2、分子量75.07)を例に取ると、窒素含有率は約18.7%になる。仮に一律の係数をそのまま掛けたとすると、6.25で1gあたり約1.17g、乳製品用の6.38で約1.19gが「タンパク質」として計上される計算になる。ただしこれは制度が想定している計算ではない。後述するとおり、通知はこうした化合物について分子式から個別の係数を算出するか0を用いるよう定めており、上の数字は「一律係数を当てた場合にどれだけ差が出るか」を示すための仮定計算である。実際にはグリシンはタンパク質を構成するアミノ酸の一つだが、遊離した単体として大量に添加された場合、それが本来の意味でのタンパク質量を増やすわけではない。表示から見分ける具体的な手順やクレアチン等の他の物質の数値例は、プロテインの成分表示の読み方にまとめてある。

窒素を測る方法の弱点は査読文献でも指摘されている。da Costaら(2021)によるプロテインサプリメント全般の品質問題を扱ったナラティブレビューは、ラベル表示と実含有量の乖離や外来物質混入と並んで、窒素充填によるケルダール法の悪用をスポーツサプリメント市場の品質問題の一つとして挙げている。このテーマ自体を検証した査読済みの一次研究は、確認できた範囲では見当たらなかった。公的な分析法規定と後述する訴訟記録が、現状での主な根拠になる。

制度は本来どう計算することを求めているのか

消費者庁通知には、係数表の注記としてもう一つの規定がある。「アミノ酸サプリメントや食品添加物等で、製品に含まれる含窒素化合物の分子式が明確な場合は、たんぱく質として利用されるアミノ酸については分子式から窒素・たんぱく質換算係数を算出し使用しても良い。それ以外の含窒素化合物については、窒素・たんぱく質換算係数を0とする」という一文である。

この注記も同じ消費者庁通知(2015)に置かれている。つまり制度上は、遊離アミノ酸のように分子式が明確な非タンパク質由来の窒素化合物を一律6.25(または6.38)で計算することは、本来の想定ではない。分子式から個別の係数を算出するか、係数を0として扱うのが通知上の扱いになる。この規定が実務でどこまで個別計算に反映されているかを示す公開データは、確認できなかった。

配合そのものと表示値の算出方法は別の話でもある。クレアチンやアミノ酸を目的をもって配合した製品は珍しくなく、配合自体が違法になるわけではない。問題が生じ得るのは、その配合物由来の窒素を一律の係数でタンパク質量に計上してしまう算出プロセスの側だ。

アミノ酸を直接測る方法はあるのか

窒素ではなくアミノ酸そのものを測る方法として、アミノ酸分析(HPLC等)がある。試料を酸加水分解してアミノ酸まで分解し、誘導体化したうえで個々のアミノ酸を分離・定量する手法だ。窒素という元素ではなくアミノ酸という分子を数えるため、クレアチンやタウリンのようにタンパク質を構成しない含窒素化合物は、この方法では計上されない。

ただし万能ではない。酸加水分解を経た分析では、もともとタンパク質に結合していたアミノ酸と、遊離した状態で添加されたアミノ酸が同じ測定対象になる。 グリシンのようにタンパク質を構成するアミノ酸を遊離のまま加えた場合、加水分解後の分析だけでは元の状態を区別できない。区別するには、加水分解をかけずに遊離アミノ酸を別途定量する分析を組み合わせる必要がある。

分析法何を直接測るか非タンパク態窒素の区別日本の食品表示制度での位置づけコスト・所要時間の相対水準
ケルダール法窒素できない消費者庁通知に規定・使用可中(湿式分解に数時間)
燃焼法(デュマ法)窒素できない消費者庁通知に規定・使用可低〜中(1試料数分)
アミノ酸分析(HPLC等)アミノ酸残基非アミノ酸の含窒素化合物は除外できるが、遊離アミノ酸と結合アミノ酸は加水分解後には区別できない表示制度では義務化されていない高(酸加水分解等の前処理が必要)

表示制度での使用頻度が高い順に並べた(2026年9月時点)。日本の栄養成分表示でアミノ酸分析の使用は義務ではない。なお通知が定めているのは分析を行う場合の方法であり、個別の商品が表示値をどう定めたか(メーカー内での分析か、外部機関への委託分析か、原料規格値からの計算か)は表示だけからは分からない。

文部科学省の日本食品標準成分表2020年版(八訂)(2020)には、従来の「窒素定量換算法によるたんぱく質」に加えて「アミノ酸組成によるたんぱく質」という別の算出値が新設・併記されている。こちらはアミノ酸分析によってアミノ酸残基の総量を求めた値で、同じ食品でも従来法より低く算出される傾向が報告されている。どの程度低くなるかは食品によって幅があり、本記事では一次資料で確認できる数値を示せなかったため、具体的な差の大きさは記載しない。

ここで注意したいのは、この日本食品標準成分表は文部科学省が管理する研究・行政用データベースであり、商品パッケージの表示根拠になる消費者庁の食品表示基準とは別の制度だという点だ。パッケージの「タンパク質◯g」を算出する法的根拠は前述の消費者庁通知(窒素定量換算法)であり、成分表の「アミノ酸組成によるたんぱく質」がそのまま表示値になるわけではない。

本記事は製品ごとの比較表を掲載しない。個々の製品がどの分析法・どの係数で測ったかは公開されていないことが多く、比較の前提が揃わないためである。比較対象にしているのは製品ではなく、測定方法と制度そのものになる。

実際に問題が表面化した事例はあるのか

米国では2015年前後、複数のプロテインブランドを対象に集団訴訟が相次いで提起された。そのうちの一つが、Iovate Health Sciences(当時MuscleTech等のブランドを展開)を相手取った消費者集団訴訟である。クレアチンやアミノ酸などの非タンパク質窒素化合物を添加し、窒素ベースの分析法で見かけ上のタンパク質量を水増ししていた、という主張だった。2015年11月に約250万ドルでの和解が連邦地裁で承認されたとLaw360が報じている(2015)。本記事が確認できたのは報道であり、事件番号・和解合意書といった裁判所の一次記録までは参照できていない。対象は当時の一部製品についての主張であり、同ブランドの製品全般や現在の製品を指すものではない。

同時期に他の複数ブランドも提訴された事実は業界メディアで報じられているが、判決や和解が確定したことを示す情報は本記事の調査範囲では確認できなかった。網羅的に調べた結果ではないため、確定事例が他にない、とまでは言えない。なお米国の集団訴訟では、被告が主張内容を認めないまま和解に至る形が一般的であり、Iovateが主張を認めたとする情報も確認できていない。日本国内で同種の行政処分や確定判決があったかどうかも、確認できなかった。米国の事例をそのまま日本市場に当てはめて考えることはできない。

よくある質問

Q. 表示のタンパク質量は信用できないということか。

いいえ。パッケージの表示値は消費者庁の食品表示基準に沿った、認められた分析法で測られた数字である。ただし測っているのは窒素であり、タンパク質そのものを直接数えた値ではないという性質は理解しておく価値がある。表示値が誤りだと示唆するものではない。

Q. 安いプロテインほど非タンパク質由来の窒素が多く含まれている可能性が高いのか。

価格の高低と表示値の算出方法を結びつける根拠は確認できなかった。価格差の内訳についてはプロテインの価格差の内訳で別途整理している。

Q. 原材料表示にアミノ酸の名前が書いてあったら避けるべきか。

原材料は使用量の多い順に記載する義務があるため、遊離アミノ酸がホエイ等の主原料に近い位置にあれば添加量が相対的に多いことは示唆される。ただしそれが風味やクレアチン摂取など別の目的による配合なのか、表示上の値を底上げする意図によるものなのかは、記載順だけからは判別できない。判断材料としてはアミノ酸組成の公開や第三者分析証明書(COA)の有無があるが、これらが公開されていることは「安心」の証明ではなく「検証可能である」という意味にとどまる。確認手順の詳細はプロテインの成分表示の読み方にまとめてある。

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参考文献