フルマラソンのレース前後にタンパク質はどれだけ要るのか — 前日・当日・ゴール後の目安

フルマラソン前日から翌日までの時間軸で、タンパク質と糖質の目安量を整理する。ゴール後は体重1kgあたり約0.3g(1回20〜40g程度)を糖質と一緒にとり、3〜5時間おきに続ける。前日と当日朝は糖質を優先する。研究の規模と限界もあわせて示す。

フルマラソンのゴール後は、なるべく早い段階で体重1kgあたり約0.3gのタンパク質を糖質と一緒にとるのが、スポーツ栄養の合同ポジションスタンドに沿った目安である(Thomas et al., 2016, Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics)。絶対量では1回20〜40g程度が目安とされる(Kerksick et al., 2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition)。レース前日と当日朝は糖質の確保が優先され、当日朝は脂質・タンパク質・食物繊維の多い食品を控えるよう示されている。ゴール後もタンパク質は糖質と並行してとるもので、補給の中心は糖質と水分にある。

マラソン後はいつ・どれだけタンパク質をとればよいのか

ゴール直後の栄養補給は、糖質を主軸にタンパク質を組み合わせるのが基本形になる。AND・DC・ACSMの合同ポジションスタンドは、次の高強度の運動まで8時間未満しかない場合の急速な補給として、糖質を最初の4時間は1時間あたり体重1kg当たり1.0〜1.2gとし、タンパク質は運動後と3〜5時間おきに体重1kgあたり約0.3gを目安として示している(Thomas et al., 2016, Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics, 116(3), 501-528)。ISSNの栄養タイミングに関するポジションスタンドは1回20〜40g程度を目安とし、摂取タイミングそのものより1日の総タンパク質量を確保することを優先している(Kerksick et al., 2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14(1), 33)。

体重60kgのランナーなら、0.3g/kgは約18gになる。20〜40gという絶対量の目安と体重換算の値には幅があり、どちらか一方を厳密に守る必要はない。どちらの目安も、ゴール後に早めに摂取を始めることを前提にしている(Kerksick et al., 2017)。

競技終了直後は食欲が落ちていることも多く、固形物が難しければ飲料や軽食から入ってもよい。何をどれだけ食べるかより先に、いつ食べ始めるかを決めておくと動きやすい。日常のトレーニング期における1回あたりの目安量は有酸素運動後のプロテインは必要かで詳しく扱っている。

レース前日と当日朝はタンパク質を控えるべきか

レース前日から当日朝にかけては、タンパク質より糖質の確保が優先される。Thomas et al.(2016)はレース前36〜48時間のカーボローディングとして体重1kgあたり10〜12g/日の糖質摂取を挙げており、同声明は、この期間に食物繊維や脂質の多い食品を減らすことで胃腸の不調を避けやすくなるとしている。

当日のスタート1〜4時間前の食事について、Thomas et al.(2016)は体重1kgあたり1〜4gの糖質を目安とし、胃腸症状を避けるため脂質・タンパク質・食物繊維の多い食品は控えるよう示している。この時間帯にあえてタンパク質量を増やす理由は乏しい。乳製品を含む飲料は人によって当日の胃腸症状の引き金になりうるため、レース当日に初めて試すのは避け、事前のトレーニングで身体に合うかを確認しておくのが無難だろう。

前日のタンパク質量そのものを減らすよう求める指針は見当たらず、前日は普段どおりの量で、糖質を増やす分だけ食事に占める割合が下がる形になる。この時期の1日あたりの推奨量そのものは持久系アスリートのタンパク質必要量で扱っている内容と共通する。

レース中にタンパク質は要るのか

42.195kmのレース中に優先されるのは糖質と水分で、レース中のタンパク質摂取を支持する研究は少ない。マラソン走行中に糖質+タンパク質(CP)群と糖質のみ(CHO)群を比較した小規模研究では、CP群は炭水化物118±29g・タンパク質29±7gを摂取したのに対しCHO群は炭水化物123±36g・タンパク質0gで、24時間後の回復指標に両群間で有意差は見られなかった(Saunders et al., 2018, Nutrients, 10(3), 333、n=16)。

この研究はレース中の給水・給食のうち一部を置き換える形の介入で、被験者数が16名と小さい。レース中の栄養戦略としてタンパク質を積極的に組み込むべきという結論を導くには材料が乏しく、現時点では従来どおり糖質と水分の確保を軸に考えるのが妥当である。

水分については別の注意点がある。2002年のボストンマラソン参加者488名を対象にした研究では、13%(62名)が血中ナトリウム濃度135mmol/L以下の低ナトリウム血症を示し、体重増加や完走時間の長さがリスク因子として報告されている(Almond et al., 2005, New England Journal of Medicine, 352(15), 1550-1556)。飲めば飲むほど安全というわけではなく、レース中の水分・電解質摂取は「多いほど良い」ものではない。この研究は米国の単一大会・市民ランナーが対象であり、日本の大会や気候条件にそのまま当てはめられるものではない点も留意しておきたい。

タンパク質をとると筋肉痛や筋損傷は軽くなるのか

マラソン後のタンパク質摂取と筋肉痛・筋損傷の関係は、現時点の研究では一貫した結果が出ていない。先述のSaunders et al.(2018)にはもう一つの下位研究(Study B、n=8)があり、ゴール後2時間以内にタンパク質28±9g・炭水化物57±9gを摂取した群と、タンパク質5±2g・炭水化物111±31gを摂取した群を比較したところ、24時間時点では筋損傷マーカーや自覚的な指標に差は出なかった。72時間という長めの観察期間になって初めて、一部の指標に改善傾向が見られたと報告されている。

n=8というサンプルサイズは統計的に小さく、この結果を一般化するには慎重さが要る。15kmロードレースを終えた市民ランナー323名を対象にした別の研究では、牛乳タンパク質を摂取した群と糖質のみの群のあいだで、CKやLDHなどの筋損傷マーカーに有意差はなかった(ten Haaf et al., 2021, Nutrients, 13(3), 858)。この研究は15kmでフルマラソンの距離ではなく、対象者のもともとのタンパク質摂取量が既に十分だった可能性も結論で触れられている。

小規模な研究では改善傾向が報告される一方、規模の大きい研究では差が確認されていない。タンパク質の摂取で筋肉痛が軽くなるかは確立していない。これらの研究で測られているのは、筋損傷マーカーや筋力の回復、筋肉痛の自己評価といった指標である。

翌日以降の1日量はどれくらいか

レース翌日以降は、通常のトレーニング期と同じ1日あたりの推奨量に戻して考えればよい。AND・DC・ACSMの合同声明は、アスリートの1日タンパク質摂取量の目安を体重1kgあたり1.2〜2.0gとしている(Thomas et al., 2016)。指標アミノ酸酸化法を用いた研究では、20kmのトレッドミル走後の必要量が1.65g/kg/日、推奨摂取量が1.83g/kg/日と、持久系で従来示されてきた1.2〜1.4g/kg/日より高い可能性が示されているが、対象は持久系トレーニングを積んだ男性6名で、タンパク質はアミノ酸混合物として与えられている(Kato et al., 2016, PLOS ONE, 11(6), e0157406)。

運動後に糖質とタンパク質を一緒にとると筋グリコーゲンの再合成が速まったとする小規模研究もある(Ivy et al., 2002, Journal of Applied Physiology, 93(4), 1337-1344、n=7)。一方でThomas et al.(2016)は、回復期に糖質だけをとった場合と比べて、糖質とタンパク質を一緒にとっても筋グリコーゲンの合成速度に差はなかったとエビデンスを総括している。翌日以降の日常的な1日量の考え方は持久系アスリートのタンパク質必要量を参照してほしい。

前日から翌日までの目安は時間帯ごとにどう変わるのか

前日・当日朝・レース中・ゴール後・翌日以降で、タンパク質と糖質の優先度は入れ替わる。Thomas et al.(2016)とKerksick et al.(2017)のポジションスタンドに基づく目安を時系列でまとめると次のようになる。

時間帯タンパク質の目安糖質の目安注意点出典
前日まで(36〜48時間前)普段どおり10〜12g/kg/日食物繊維・脂質の多い食事は避けるThomas 2016
当日朝(1〜4時間前)控えめ1〜4g/kg脂質・食物繊維の多い食品を避けるThomas 2016
レース中積極的な摂取の根拠は乏しい2.5時間超の競技で最大90g/h程度水分・電解質の過剰摂取に注意Thomas 2016、Saunders 2018(n=16)、Almond 2005
ゴール後0〜4時間約0.3g/kg(20〜40g程度)次の高強度運動まで8時間未満なら1.0〜1.2g/kg/h食欲がなければ飲料からThomas 2016、Kerksick 2017
24時間以内3〜5時間おきに同量を継続糖質補給を継続24時間時点では筋損傷指標に差が出にくいThomas 2016、Saunders 2018
翌日〜1週間1.2〜2.0g/kg/日通常の食事に戻す個人差が大きいThomas 2016、Kato 2016(n=6)

表の並びはレース当日を基準にした時系列で、優先度や推奨の強さを表すものではない。レース中の糖質量は、2.5時間を超える競技で1時間あたり最大90g程度とされ、この量をとるには複数の種類の糖質を組み合わせる必要がある(Thomas et al., 2016)。

よくある質問

Q. 当日朝にプロテインを飲んでもよいか A. 当日朝の優先度は低い。Thomas et al.(2016)は競技前の食事で、胃腸症状を避けるため脂質・タンパク質・食物繊維の多い食品を控えるよう示している。普段の練習前に試して問題がなかった量と内容にとどめるのが一つの目安になる。

Q. ゴール後すぐに食べられないときはどうするか A. 固形物が難しい場合は、糖質とタンパク質を含む飲料から始めてよい。目安量(体重1kgあたり約0.3g、または20〜40g程度)を一度に摂れなくても、なるべく早く摂取を始め、その後3〜5時間おきに続けることのほうが重視されている。

Q. サプリメントは必要か A. 食事で目安量を満たせるなら必須ではない。固形物の摂取が難しいレース直後の状況では、プロテイン飲料を選択肢の一つとして使う人もいるが、日常的な栄養バランスの代わりにはならない。

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参考文献

  • Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. (2016). Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance. Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics, 116(3), 501-528. (https://doi.org/10.1016/j.jand.2015.12.006)
  • Kerksick CM, Arent S, Schoenfeld BJ, et al. (2017). International society of sports nutrition position stand: nutrient timing. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14, 33. (https://doi.org/10.1186/s12970-017-0189-4)
  • Kato H, Suzuki K, Bannai M, Moore DR. (2016). Protein Requirements Are Elevated in Endurance Athletes after Exercise as Determined by the Indicator Amino Acid Oxidation Method. PLOS ONE, 11(6), e0157406. (https://doi.org/10.1371/journal.pone.0157406)
  • Almond CS, Shin AY, Fortescue EB, et al. (2005). Hyponatremia among Runners in the Boston Marathon. New England Journal of Medicine, 352(15), 1550-1556. (https://doi.org/10.1056/NEJMoa043901)
  • Saunders MJ, Luden ND, DeWitt CR, Gross MC, Dillon Rios A. (2018). Protein Supplementation During or Following a Marathon Run Influences Post-Exercise Recovery. Nutrients, 10(3), 333. (https://doi.org/10.3390/nu10030333)
  • ten Haaf DSM, Flipsen MA, Horstman AMH, et al. (2021). The Effect of Protein Supplementation versus Carbohydrate Supplementation on Muscle Damage Markers and Soreness Following a 15-km Road Race: A Double-Blind Randomized Controlled Trial. Nutrients, 13(3), 858. (https://doi.org/10.3390/nu13030858)
  • Ivy JL, Goforth HW, Damon BM, McCauley TR, Parsons EC, Price TB. (2002). Early postexercise muscle glycogen recovery is enhanced with a carbohydrate-protein supplement. Journal of Applied Physiology, 93(4), 1337-1344. (https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00394.2002)