クレアチンは持久系スポーツにも効果があるのか — ランニング・サイクリング・水泳での研究
クレアチンの持久系スポーツへの効果を種目別に整理する。2023年のメタ分析では定常ペースへの有意効果はないが、高強度スパートや乳酸閾値改善の知見もある。ランニング・サイクリング・水泳・ローイングの研究結果を比較する。
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クレアチンが持久系スポーツのパフォーマンスに与える影響は、種目・測定指標・運動強度によって結論が大きく異なる。2023年に発表されたメタ分析(Fernandez-Landa et al.)とナラティブレビュー(Forbes et al.)は、一方が「有意な効果なし(SMD=-0.07)」、もう一方が「高強度スパートには有用」という、一見逆方向の結論を提示した。この差は測定変数の違い—定常ペースの持久力か、レース終盤の高強度スパートか—に起因する。水泳では17のRCTを統合したメタ分析(Huang et al., 2024)が全アウトカムで有意差なしと報告しており、種目によって実態は異なる。
クレアチンは持久系パフォーマンスに影響するのか
クレアチン(creatine)は体内でリン酸と結合してホスホクレアチン(phosphocreatine)を形成し、ATPの急速な再合成を支援する含窒素化合物(nitrogenous compound)である。このエネルギー系(ATP-PCr系)が主に機能するのは最大出力を要する10秒前後の爆発的運動であり、有酸素系エネルギー代謝が支配する持久系運動とは異なる機序で働く。
Fernandez-Landa et al.(2023, Sports Medicine, 53(5): 1017-1027)は、訓練された集団を対象とした13のRCTを統合したメタ分析を発表した。クレアチンモノハイドレートが持久系パフォーマンス全般に与える効果はSMD=-0.07(95% CI: -0.32〜0.18、p=0.47)であり、統計的に無意味な範囲に収まる。SMD=-0.07は「わずかなマイナス効果」ではなく、効果量がゼロに近く実質的な影響がないことを示す数値である。
一方、Forbes et al.(2023, Journal of the International Society of Sports Nutrition, 20(1): 2204071)は、サイクリング・ボート・クロスカントリースキー・トライアスロン・カヤックなど高強度インターバルが組み込まれる競技において、クレアチンがラストスパートや高強度スパートで有益であると報告している。両メタ分析の結論は「測定する結果変数が何か」によって異なり、矛盾ではなくフォーカスの違いである。
サイクリング・ボートでの研究はどうなっているか
非体重負荷運動(non-weight-bearing exercise)であるサイクリングとローイングは、クレアチンによる体重増加がパフォーマンスへのマイナス影響を引き起こしにくい種目として注目されている。重力に抗する必要が小さいため、筋肉内の水分貯留(1〜2kg程度の増加)がエネルギーコストに直結しない。
Tomcik et al.(2018, Medicine & Science in Sports & Exercise, 50(1): 141-150)は、訓練されたサイクリスト18名を対象に120kmタイムトライアルでクレアチン+炭水化物ローディングの複合介入を検証した。クレアチン+炭水化物ローディング群では体重増加(+1.54%)が見られたにもかかわらず、最終スプリント(4km)のパワー出力が有意に改善し、筋グリコーゲン貯蔵量も有意に高値を示した。ただしグリコーゲン増加は炭水化物ローディングとの複合効果であり、クレアチン単独の寄与は分離できない点に留意が必要である。この結果は、体重増加があっても非体重負荷運動では最後の高強度区間でクレアチンが機能する可能性を示している。
Chwalbinska-Moneta J(2003, International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, PMID: 12945828)はエリートローイング選手16名でクレアチン20g/日×5日間投与後の効果を測定した。個人乳酸閾値(lactate threshold)が314.3±5.0Wから335.6±7.1Wへ有意に上昇し(p<0.01)、全力漕ぎの継続時間も12.1±4.5秒延長した(p<0.01)。有酸素系パフォーマンスの指標である乳酸閾値の改善が示された稀少な研究であり、ローイングのような複合強度競技での有用性を示す知見として位置づけられる。
ランニングでクレアチンは有効か
体重負荷運動(weight-bearing exercise)であるランニングは、クレアチンによる体重増加の影響を最も受けやすい種目である。ランニングでは各歩ごとに重力に抗する動作が発生するため、体重1kgの増加が酸素消費量(VO2)を増大させ、ランニングエコノミーを悪化させる可能性がある。
Balsom et al.(1993, Acta Physiologica Scandinavica, 149: 521-523)は、クレアチン補給が持久系運動パフォーマンスを向上させないことを示した初期の研究である。Forbes et al.(2023)のレビューでは、この研究がクレアチンによる体重増加が重力に抗する活動でパフォーマンスを下げる可能性を示した知見として参照されている。クレアチンローディング直後の急性期に体重増加が最大になるタイミングでの測定であることも条件として留意が必要である。
一般的なコンセンサスとして、マラソン・長距離ランニングのような長時間の定常ペース有酸素運動では、クレアチンのATP-PCr系への作用が直接的に寄与しにくい。ただし、インターバルトレーニングや坂道ダッシュなど高強度区間を含むトレーニングセッション、あるいはレース終盤の追い込みについては、クレアチンが関与する可能性は排除できないとするのがISSN(国際スポーツ栄養学会)の見解である(Kreider et al., 2017, Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14:18)。
水泳でのクレアチン研究の知見は何か
水泳も非体重負荷運動に分類されるが、クレアチン補給の効果については他の種目と異なる研究結果が示されている。プールという限定環境での測定の難しさや、スタート・ターンのような爆発的局面が含まれる種目特性が研究結果に影響する可能性が指摘されている。
Huang et al.(2024, Sports Med Open, 10(1): 115)は水泳選手を対象とした17のRCT(計361名)のメタ分析を発表した。単発スプリント(SMD=-0.05、p=0.61)、繰り返しインターバル(SMD=-0.11、p=0.56)、生理応答(SMD=0.04、p=0.71)、体組成(SMD=0.18、p=0.12)のいずれのアウトカムにおいても有意な改善は認められなかった。17のRCT・361名というサンプルサイズでの全アウトカム非有意という結果は、水泳競技におけるクレアチン補給の効果に対してネガティブな証拠を提供するものである。
水泳でクレアチンの効果が示されにくい背景として、浮力により体重増加の影響が小さい一方で、泳法の技術的特性や水の抵抗との関係が複雑であることが考えられる。この点については現時点でコンセンサスのある説明がなく、今後の研究が必要な領域である。
体重増加は持久系パフォーマンスにマイナスにならないか
クレアチン補給による体重増加(通常1〜2kg、主に筋内水分貯留)は、種目特性によってパフォーマンスへの影響が異なる。体重負荷の有無が重要な分類軸となる。
| 運動特性 | 代表種目 | 体重増加の影響 |
|---|---|---|
| 非体重負荷・高強度スパートあり | サイクリング、ローイング | 限定的。最終スパートで恩恵を受ける可能性あり |
| 非体重負荷・一定ペース | 水泳(長距離) | 研究結果は全般的に非有意 |
| 体重負荷・一定ペース | マラソン、長距離ランニング | 体重増加がランニングエコノミーを悪化させる可能性 |
| 体重負荷・高強度インターバル含む | クロスカントリースキー、トライアスロン | 高強度区間では有益な可能性あり |
Tomcik et al.(2018)のサイクリング研究では体重増加があっても最終スプリントのパワーが改善した。一方、Balsom et al.(1993)は持久系運動でクレアチンの効果がないことを示しており、体重増加が重力に抗する種目でマイナスに働く可能性を示唆する。非体重負荷運動では体重増加のコストが小さく、ATP-PCr系の補強による恩恵が相対的に大きくなる可能性がある。
ローディングプロトコル(20g/日×5〜7日)を避け、低用量継続(3〜5g/日×28日以上)を選択することで体重増加の幅を抑えることができる。この点についてはISSNのポジションスタンド(Kreider et al., 2017)も選択肢として示している。
種目別のクレアチン研究結果はどう整理されるか
| 発表年 | 著者 | 種目 | デザイン | 主要アウトカム | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1993 | Balsom et al. | 持久系運動 | RCT | 運動パフォーマンス | 持久系パフォーマンス向上なし(体重増加によるマイナス影響示唆) |
| 2003 | Chwalbinska-Moneta | ローイング | RCT、16名 | 乳酸閾値 | 改善(314→336W、p<0.01) |
| 2018 | Tomcik et al. | サイクリング(120km TT) | RCT、18名 | 最終4kmスプリントパワー | 改善(有意) |
| 2023 | Fernandez-Landa et al. | 持久系全般(13RCT) | メタ分析 | 持久系パフォーマンス全般 | 非有意(SMD=-0.07、p=0.47) |
| 2023 | Forbes et al. | 持久系全般(レビュー) | ナラティブレビュー | 高強度スパート | 有益な可能性あり |
| 2024 | Huang et al. | 水泳(17RCT、361名) | メタ分析 | スプリント・インターバル・体組成 | 全アウトカム非有意 |
※発表年昇順。Fernandez-Landa et al. 2023 と Forbes et al. 2023 の見解の差は、測定する結果変数(定常ペース持久力 vs 高強度スパート)の違いに起因する。
よくある質問
持久系アスリートはクレアチンを摂取しても意味がないのか
定常ペースの有酸素パフォーマンス改善を目的とする場合、現時点の研究では効果は限定的である。一方、サイクリングやローイングなど高強度インターバルが含まれる競技のラストスパートや、インターバルトレーニングセッションのパフォーマンス向上を目的とする場合には、一部の研究が有益な可能性を示している。種目と目的に応じて判断が分かれる。
クレアチンモノハイドレートとその他の形態では持久系への効果に差があるのか
Fernandez-Landa et al.(2023)のメタ分析はクレアチンモノハイドレートを対象とした研究を中心に統合したものである。クレアチンHClやバッファード型など他の形態について持久系パフォーマンスを直接比較した高品質のエビデンスは現時点では乏しく、形態間の差を断言できる根拠は整備されていない。
ローディングとメンテナンス用量で持久系への影響は変わるのか
ローディング(20g/日×5〜7日)は筋中クレアチン飽和を1〜2週間早めるが、28日以上の低用量継続(3〜5g/日)でも同様の飽和状態に達するとされている(Kreider et al., 2017)。持久系アスリートにとっては体重増加のピークを抑えやすい低用量継続が実用上選択されやすい。ただし、両プロトコルの持久系パフォーマンスへの効果差を直接比較した研究は限られる。
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参考文献
- Fernandez-Landa J et al. (2023). Effects of Creatine Monohydrate Supplementation on Endurance Performance in a Trained Population: A Meta-Analysis. Sports Medicine, 53(5): 1017-1027. DOI: 10.1007/s40279-023-01823-2
- Forbes SC et al. (2023). Creatine supplementation and endurance performance: surges and sprints to win the race. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 20(1): 2204071. DOI: 10.1080/15502783.2023.2204071
- Huang D et al. (2024). Effects of creatine supplementation on swimming performance and body composition: a systematic review and meta-analysis. Sports Med Open, 10(1): 115. DOI: 10.1186/s40798-024-00784-8
- Tomcik KA et al. (2018). Effects of Creatine and Carbohydrate Loading on Cycling Time Trial Performance. Medicine & Science in Sports & Exercise, 50(1): 141-150. DOI: 10.1249/MSS.0000000000001401
- Chwalbinska-Moneta J (2003). Effect of creatine supplementation on aerobic performance and anaerobic capacity in elite rowers in the course of endurance training. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 13(2): 173-183. PMID: 12945828
- Kreider RB et al. (2017). International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14:18. DOI: 10.1186/s12970-017-0173-z
- Balsom PD et al. (1993). Creatine supplementation per se does not enhance endurance exercise performance. Acta Physiologica Scandinavica, 149(4): 521-523. PMID: 8128901