グラスフェッドとは — 牧草飼育とプロテイン原料の科学

グラスフェッド(grass-fed)は家畜の主飼料が牧草である飼育方式。USDA AMS は2007年に定義し2016年に議会授権不在の行政的理由で撤回し、現在は民間認証に分散する。CLA・オメガ3・βカロテンへの影響と5認証制度の要件を整理する。

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グラスフェッド(grass-fed / 牧草飼育)とは、家畜(主に牛)の主な飼料が牧草(生草・乾草・サイレージ)であることを示す飼育方式の用語である。Benbrook et al.(2018, Food Science & Nutrition)が米国全土の1,163乳サンプルを分析したデータによると、100%牧草飼育牛のミルクは通常(穀物飼育)と比較して総オメガ3が+147%、CLA(共役リノール酸 / conjugated linoleic acid)が+125%多く、オメガ6/オメガ3比が0.95対5.77と約6倍の差が報告されている。一方、ホエイプロテインの製造工程では脂質が意図的に除去されるため、この脂肪酸プロファイルの差が最終製品にどの程度反映されるかは製法(WPI・WPC・WPH)によって異なる。

グラスフェッドとは何か

グラスフェッド(grass-fed)は、離乳後の家畜が生涯を通じて牧草・牧草由来飼料(生草・乾草・サイレージ・収穫後残渣)を主に摂取する飼育方式を指す。USDA AMS(農業省 農業市場局)は2007年に「100%牧草・牧草由来飼料のみ、穀物不使用、生涯を通じて」という定義(Grass (Forage) Fed Marketing Claim Standard)を公表したが、2016年1月12日に撤回した。撤回理由は「AMSがラベル基準を策定・定義する明示的な議会授権(express Congressional authority)がなく、ラベル承認権限はFSIS(食品安全検査局)にある」という法的・行政的な理由であり、グラスフェッドの健康効果が否定されたためではない(USDA公式ブログ, 2016)。

2016年の撤回以降、米国ではAMSが定めるグラスフェッドの統一基準は失われたが、肉製品ラベル全般の真実性審査はFSIS(食品安全検査局)が継続して行っている。FSISは申請者が独自に定義した「grass-fed」基準の妥当性を個別に審査する仕組みであり、製品ごとの基準が各社で異なりうる状態となっている。現在、グラスフェッドを名乗るための要件は民間認証機関(American Grassfed Association 等)が個別に定めており、認証なしに表記することも法的には可能な状態にある。

グラスフェッドの対義語はグレインフェッド(grain-fed)またはコーンフェッド(corn-fed)で、主に穀物(トウモロコシ・大麦・小麦等)を飼料として育てられた牛を指す。米国・日本国内で流通する一般的なホエイプロテインの多くは穀物飼育由来の乳が原料となっている。Benbrook et al.(2018, Food Science & Nutrition)が全米1,163乳サンプルを分析した大規模研究が示すように、飼料が牧草中心か穀物中心かは乳の脂肪酸組成に定量的な差をもたらすと報告されている。

グラスフェッドとグレインフェッドの栄養成分はどう違うとされているか

O’Callaghan et al.(2016, Journal of Dairy Science)は、フリージアン牛54頭を舎飼い(TMR: Total Mixed Ration)群・牧草放牧群・クローバー牧草放牧群の3群(各n=18)に分けて泌乳期全体で乳質を比較した。放牧群のミルクではCLA(C18:2 cis-9,trans-11)が舎飼い群の2倍以上、アルファリノレン酸(ALA: オメガ3脂肪酸の一種)が有意に高かった(DOI: 10.3168/jds.2016-10985)。Benbrook et al.(2018)の全米1,163サンプル分析でも、100%牧草飼育乳は通常乳と比較してオメガ3が+147%、CLAが+125%、オメガ6/オメガ3比が0.95対5.77であることが報告されている(DOI: 10.1002/fsn3.610)。

脂肪酸プロファイル以外の差についても研究が蓄積されている。Alothman et al.(2019, Foods)のレビューが引用する複数の研究によると、牧草飼育牛乳はβ-カロテン(beta-carotene)・α-トコフェロール(alpha-tocopherol / ビタミンE)が高く、飽和脂肪酸(ミリスチン酸・パルミチン酸)が低い傾向が報告されている。

牧草割合と脂肪酸組成の関係は比例的であることが示されている。Couvreur et al.(2006, Journal of Dairy Science)は、フランスの試験農場データから、牧草の給与割合が高まるほどCLA・ALA(オメガ3)が比例的に増加し、飽和脂肪酸が低下することを実証した(DOI: 10.3168/jds.S0022-0302(06)72263-9)。

なお、タンパク質含有量とアミノ酸プロファイルには飼料起因の有意差は報告されていない。Daley et al.(2010, Nutrition Journal)による牛肉のレビューでも、アミノ酸組成は牛の品種・遺伝的要因に依存し、飼料の違いでは変わらないとされている(DOI: 10.1186/1475-2891-9-10)。

グラスフェッド乳と穀物飼育乳の脂肪酸比較(Benbrook et al., 2018 / 全米1,163サンプル)

指標100%牧草飼育通常(穀物飼育)
総オメガ3(g/100g乳)0.0490.020+147%
総CLA(g/100g乳)0.0430.019+125%
オメガ6/オメガ3比0.955.77約6倍差
EPA(g/100g乳)0.00360.0025+43%

出典: Benbrook CM et al. (2018). Food Science & Nutrition, 6(3):681-700. DOI: 10.1002/fsn3.610

ただし、これらの定量差はミルク(原乳)段階のデータである。ヒトが摂取した場合の心血管リスクや体組成への長期的影響については、グラスフェッド由来の食品を使った介入試験の報告が限定的であり、健康効果が確立されているとは言えない段階にある。

グラスフェッドホエイは何が違うのか

ホエイプロテインの製造過程では、タンパク質含有率を高めるために脂質が意図的に除去される。グラスフェッド乳の栄養上の特徴であるCLA・オメガ3・βカロテン・ビタミンEはすべて脂溶性成分(fat-soluble compounds)であり、この脂質除去工程によって最終製品中の含有量が大きく変わる。アミノ酸プロファイルについては、Daley et al.(2010, Nutrition Journal)のレビューをはじめ複数の研究が「飼料の違いによる有意差はない」と報告しており、タンパク質の品質は飼料ではなく品種・遺伝的要因に依存する。原乳がグラスフェッドであることと、最終ホエイ製品の脂質プロファイルがグラスフェッドの特性を持つこととは、製法によって乖離しうる。

WPI(分離ホエイ / Whey Protein Isolate)は、マイクロフィルトレーション(microfiltration)またはイオン交換によって脂質を1%以下まで除去する製法であり、タンパク質含有率は90%以上に達する。この工程ではCLA・オメガ3等の脂溶性成分は実質的に除去されるため、原乳がグラスフェッドであっても最終WPI製品の脂肪酸プロファイルにグラスフェッド由来の差は残りにくい。

WPC(濃縮ホエイ / Whey Protein Concentrate)は脂質を4〜8%程度残す製法であり、タンパク質含有率は70〜80%程度である。1食30gあたりの脂質量は約1.5〜2gとなる。原乳のグラスフェッド特性が一部残存する可能性はあるが、濃縮・乾燥工程で脂質は乳全体の約60〜80%が除去されており、残存する脂肪酸プロファイルの実質的な寄与は限定的である。

WPH(加水分解ホエイ / Whey Protein Hydrolysate)はWPIと同等か、それ以上の精製を行うことが多く、脂質含量はWPIと同水準か低い。

製法別のグラスフェッド脂肪酸成分の残存可能性

製法タンパク質含有率目安脂質量目安(1食30g)グラスフェッド脂溶性成分の残存
WPH(加水分解ホエイ)≥80〜85%(高精製品)0〜0.5g程度実質除去(WPI同等以下)
WPI(分離ホエイ)≥90%≤0.3g程度実質除去
WPC(濃縮ホエイ)70〜80%1.5〜2.0g程度部分的残存の可能性あり(限定的)

注: 各数値は業界標準的な製品を想定した目安。製品によって異なる。

アミノ酸プロファイルについては、グラスフェッドホエイと通常のホエイで有意差があるという報告はない。タンパク質・アミノ酸の品質は飼料の違いではなく牛の品種・遺伝的要因によって規定される。

「グラスフェッドWPI」という表記は、原乳の由来がグラスフェッドであることを示しており、最終製品の脂質特性を保証するものではない。詳細な製造工程との関係はグラスフェッドプロテインは普通のプロテインと何が違うのかで整理している。

グラスフェッドの認証制度はどう違うのか

2016年のUSDA AMS基準撤回により、米国では法的な統一定義が失われた。現在グラスフェッドを規定するのは複数の民間・行政認証であり、牧草要件・グレイン補助の扱い・第三者監査の有無・対象動物が認証ごとに異なる(USDA AMS, 2016)。Alothman et al.(2019, Foods)のレビューが示すように、認証の要件差は原料乳の脂肪酸プロファイルと直結するため、どの基準で認証されているかの確認が重要である。認証なしに「グラスフェッド」と表記されている製品も存在するため、認証の有無と要件の内容を区別して理解することが重要である。

2025年6月11日には、ニュージーランド農林省(MPI: Ministry for Primary Industries)が初めてグラスフェッドの行政標準(NZ MPI Grass-Fed Administrative Standards)を公表した。これはNZに公的なグラスフェッド定義が存在しなかった時代が2025年6月まで続いていたことを意味する。この基準は任意(voluntary)であり法的強制力はないが、乳製品分野での国際的な需要に応える形で策定された。

主要グラスフェッド認証制度の比較(2026年6月時点)

認証国・地域牧草要件グレイン補助の扱い第三者監査主な対象策定・最新動向
USDA AMS(旧基準)米国100%牧草のみ不可あり(撤回済みのため現在無効)牛肉・乳製品2007年定義・2016年1月撤回(議会授権不在の行政的理由)
American Grassfed Association(AGA)米国生涯100%牧草のみ一切禁止独立第三者・15ヶ月ごと牛肉・乳製品・羊等現行
PCAS(Pasturefed Cattle Assurance System)豪州生涯穀物・穀物副産物不使用特定の非穀物素材は許容(アーモンドハル・カノーラミール等)初回+年次(廃止前)牛肉のみ(乳牛は対象外)2012年〜2025年・2026年1月廃止(AUS-MEAT運営。後継は各社の自社プログラムや Animal Raised Claims Framework の参照基準として継続)
NZ MPI Grass-Fed Administrative Standards+AsureQualityNZ飼料の平均90%以上が牧草系・年340日以上・1日8時間以上放牧限定的に許容(要件内)あり(任意・AsureQuality等が実施)乳製品2025年6月11日初公表・任意・3年ごとレビュー予定
Bord Bia Grass Fed Dairy Standard+SDASアイルランド飼料の最低90%が牧草(乳製品製造業者向け平均95%)一部許容SDAS農場監査(18ヶ月ごと)連動乳製品現行・99%のアイルランド酪農農家が閾値を満たすとされる

出典: USDA AMS公式・AGA公式(americangrassfed.org)・AUS-MEAT関連(PCAS公式)・NZ MPI公式(mpi.govt.nz)・Bord Bia公式(bordbia.ie)

ソート基準: グラスフェッドホエイ市場での輸出量・知名度順(米国→豪州→NZ→アイルランド)

認証間で注目すべき違いとして、牧草要件の水準がある。AGA は生涯100%牧草を要件とし穀物を一切禁止するのに対し、NZ MPI基準やBord Biaは飼料の90〜95%が牧草であれば認証対象となる。また、PCAS は牛肉のみを対象とし乳牛は適用外であった点が見落とされやすく、加えてPCASは2025年末で運用を終え2026年1月に廃止されている。アイルランドのBord Bia基準はSDAS(Sustainable Dairy Assurance Scheme)の農場監査データを流用して適合判定を行う仕組みであり、認証の独立性の意味合いが他と異なる。NZ MPI基準は2025年6月に初公表されたばかりで、2026年6月時点での認定スキームはFonterra・Spring Sheep・Westland Milk Productsの3事業者にとどまる。

よくある質問

Q: グラスフェッドホエイWPIの脂質はグラスフェッド由来の成分なのか

WPI(分離ホエイ)の製造工程では脂質を1%以下まで除去するため、原乳がグラスフェッドであっても最終WPI製品の脂質プロファイルにCLA・オメガ3の差は残りにくいと製造工程上の原理から推測される。最終製品レベルで脂肪酸プロファイルを実測した報告はまだ限定的であるため、本記述は製法の構造的推論として理解されたい。「グラスフェッドWPI」という表記は原乳の由来を示すものであり、製品中の脂質特性がグラスフェッドの特性を持つことを意味しない。WPC(濃縮ホエイ)は脂質を4〜8%程度残すため、原乳由来の脂肪酸プロファイルが部分的に保持される可能性はあるが、濃縮工程により実質的な寄与は限定的である。

Q: グラスフェッドにはヒトでの長期的な健康効果が確認されているのか

グラスフェッド乳はCLA・オメガ3・βカロテンが多いという成分レベルの報告は複数の研究で蓄積されている。一方、グラスフェッド由来の食品(プロテインを含む)を使ったヒトへの長期介入試験(心血管リスク・体組成・炎症マーカー等への影響)は現時点で限定的であり、健康効果が確立されているとは言えない。成分の差と健康効果の差は別の問いであり、混同しないことが重要である。グラスフェッドプロテインの科学的根拠の詳細はグラスフェッドプロテインは普通のプロテインと何が違うのかを参照されたい。

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参考文献

  • Daley CA, Abbott A, Doyle PS, Nader GA, Larson S (2010). A review of fatty acid profiles and antioxidant content in grass-fed and grain-fed beef. Nutrition Journal, 9:10. DOI: 10.1186/1475-2891-9-10

  • O’Callaghan TF, Hennessy D, McAuliffe S, Kilcawley KN, O’Donovan M, Dillon P, Ross RP, Stanton C (2016). Effect of pasture versus indoor feeding systems on raw milk composition and quality over an entire lactation. Journal of Dairy Science, 99(12):9424-9440. DOI: 10.3168/jds.2016-10985

  • Benbrook CM, Davis DR, Heins BJ, Latif MA, Leifert C, Peterman L, Butler G, Faergeman O, Abel-Caines S, Baranski M (2018). Enhancing the fatty acid profile of milk through forage-based rations, with nutrition modeling of diet outcomes. Food Science & Nutrition, 6(3):681-700. DOI: 10.1002/fsn3.610

  • Benbrook CM, Butler G, Latif MA, Leifert C, Davis DR (2013). Organic production enhances milk nutritional quality by shifting fatty acid ratios. PLOS ONE, 8(12):e82429. DOI: 10.1371/journal.pone.0082429

  • Couvreur S, Hurtaud C, Lopez C, Delaby L, Peyraud JL (2006). The linear relationship between the proportion of fresh grass in the cow diet, milk fatty acid composition, and butter properties. Journal of Dairy Science, 89(6):1956-1969. DOI: 10.3168/jds.S0022-0302(06)72263-9

  • Alothman M, Hogan SA, Hennessy D, Dillon P, Kilcawley KN, O’Donovan M, Tobin J, Fenelon MA, O’Callaghan TF (2019). The Grass-Fed Milk Story: Understanding the Impact of Pasture Feeding on the Composition and Quality of Bovine Milk. Foods, 8(8):350. DOI: 10.3390/foods8080350

  • USDA AMS (2016). Understanding AMS’ Withdrawal of Two Voluntary Marketing Claim Standards. www.usda.gov(2026年6月参照)

  • American Grassfed Association. AGA Standards for Ruminants. americangrassfed.org(2026年6月参照)

  • NZ Ministry for Primary Industries. New Zealand Grass-Fed Administrative Standards(2025年6月11日公表・任意). mpi.govt.nz(2026年6月参照)

  • Bord Bia Grass Fed Dairy Standard. bordbia.ie(2026年6月参照)