フレイルとは — サルコペニアとの違いと判定基準の読み方
フレイルは健常と要介護の中間にある状態を指す。日本版CHS基準(J-CHS基準)の5項目による判定方法、サルコペニアとの包含関係、たんぱく質摂取に関する国の食事摂取基準の記述を、原典に基づいて整理する。
本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患や状態の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。
フレイルは、健常な状態と要介護状態の中間に位置づけられる概念である。日本版CHS基準(J-CHS基準・2020年改定)は、体重減少・筋力低下・疲労感・歩行速度低下・身体活動量低下の5項目で判定し、3項目以上の該当でフレイル、1〜2項目でプレフレイルとされる。握力や歩行速度の測定には条件の統制が要るため、判定は医療者や専門職が行うことが前提になっている。サルコペニアは骨格筋量と筋力の低下に限定した概念で、身体的フレイルを構成する要素の1つにあたる。
フレイルとは何を指すのか
日本老年医学会(2014)は、高齢期に生じるこの状態を指す用語として「フレイル」を提唱した。加齢に伴い予備能力が低下し、ストレスへの脆弱性が高まった結果、要介護状態や生活機能の低下に陥りやすくなっている段階を指す。健常でもなく、すでに要介護でもない、その中間に位置づけられる概念である。
日本老年医学会がこの用語を提唱して以降、フレイルは身体的側面・精神心理的側面・社会的側面という3つの側面から捉えられてきた。身体機能の低下だけでなく、認知機能や気分の変化、独居や社会参加の減少といった要素も含む、幅の広い概念だ。この中間段階という位置づけには、介入によって健常な状態に戻ることが想定されているという性質も含まれる。ただし、これは制度上・概念上の位置づけであり、個々人が必ず改善するという意味ではない。どの程度戻りうるかは状態や介入内容によって異なり、一律に約束できるものではない。
サルコペニアとどう違うのか
サルコペニアは骨格筋量と筋力の低下に限定した概念である。AWGS 2019(Chen LK et al., 2020, JAMDA)は、低筋量に加えて低筋力または身体機能低下が認められる場合にサルコペニアと診断する枠組みを示しており、評価の対象は筋肉に関する指標に絞られる。一方J-CHS基準は、筋力(握力)に加えて体重減少・疲労感・歩行速度・身体活動量を評価項目に含む。ただしJ-CHS基準の5項目は身体的な指標が中心で、社会参加や社会的孤立そのものは判定項目に入っていない。両者は重なる部分を持つが、フレイルのほうが対象とする範囲は広く、サルコペニアは身体的フレイルを構成する要素の1つという関係になる。
判定基準を並べると、この関係がわかりやすくなる。サルコペニアの診断基準であるAWGS 2019(Chen LK et al., 2020)は、低筋力の基準として握力を男性28kg未満・女性18kg未満と定めている。この数値は、フレイルの判定基準であるJ-CHS基準の筋力低下項目のカットオフ値と同一である。ただし数値が同じだからといって、両者が同じ状態を測っているわけではない。サルコペニアは筋量・筋力・身体機能という筋肉に関する指標に絞った診断であるのに対し、J-CHS基準は体重減少・疲労感・歩行速度・身体活動量まで評価項目に含む。ただしJ-CHS基準の5項目も身体的な指標が中心で、フレイルという概念に含まれる精神心理面・社会面をそのまま測る項目は入っていない。フレイルという概念の広さと、J-CHS基準が実際に測る範囲は一致しない。
| 観点 | フレイル | サルコペニア |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 身体的・精神心理的・社会的の3側面 | 骨格筋量と筋力に限定 |
| 代表的な判定基準 | J-CHS基準(2020年改定) | AWGS 2019 |
| 判定に使う項目 | 体重減少・筋力低下・疲労感・歩行速度・身体活動の5項目 | 筋量・筋力・身体機能 |
| 位置づけの関係 | サルコペニアを含むより広い概念 | 身体的フレイルの構成要素の1つ |
サルコペニアの操作的な定義そのものについては、サルコペニアとは何かで個別に扱っている。
フレイルはどう判定されるのか
日本版CHS基準(J-CHS基準)は5つの項目の該当数で判定する。3項目以上の該当でフレイル、1〜2項目でプレフレイル、該当なしでロバスト(健常)と区分される。5項目は体重減少・筋力低下・疲労感・歩行速度低下・身体活動量低下で、握力のカットオフ値は男性28kg未満・女性18kg未満、通常歩行速度は1.0m/秒未満とされている。いずれも身体的な指標で、判定には測定条件の統制が要る。
この枠組みの原型は、Fried LPらが2001年に提唱した表現型モデル(Fried et al., 2001)にある。Friedらは65歳以上5,317名を対象としたCardiovascular Health Studyのデータから、体重減少・易疲労感・活動量低下・歩行速度低下・握力低下という5つの指標を操作的に定義し、該当する項目数でフレイルをカテゴリカルに判定する枠組みを示した。J-CHS基準はこれを日本人向けに修正したもので、2020年に改定されている。国立長寿医療研究センターが公開する版の評価基準は以下の通りである。
| 項目 | 評価基準(2020年改定版) |
|---|---|
| 体重減少 | 6か月で2kg以上の(意図しない)体重減少 |
| 筋力低下(握力) | 男性28kg未満、女性18kg未満 |
| 疲労感 | (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする |
| 歩行速度 | 通常歩行速度1.0m/秒未満 |
| 身体活動 | 軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツのいずれも「週に1回もしていない」 |
| 判定の主体 | 測定条件の統制が要るため、判定は医療者・専門職が行うことが前提の基準 |
3項目以上に該当すればフレイル、1〜2項目の該当でプレフレイル、該当なしはロバスト(健常)と判定される。J-CHS基準そのものは公開されたスクリーニングの枠組みで、質問項目は基本チェックリストに由来する。ただし握力の測定には握力計が、歩行速度の測定には決められた距離と手順が要る。**測定条件の統制が結果を左右するため、判定は医療者や専門職が行うことが前提になっている。**本記事も、読者が自分で判定を下すための情報として書いたものではない。
なお、フレイルの評価方法はFriedらの表現型モデルだけではない。疾患やADL障害など多数の「欠損」の累積割合で程度を連続的に評価する欠損累積モデル(Frailty Index)というアプローチも存在する。該当項目数で区分する表現型モデルとは、測り方の設計が根本的に異なる。J-CHS基準はFriedの表現型モデルを日本人向けに修正したものであり、欠損累積モデルの系統ではない。
たんぱく質摂取はフレイルとどう関わるのか
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の策定検討会報告書は、習慣的なたんぱく質摂取量とフレイルの発症率・罹患率との関連を検討した観察疫学研究のメタ・アナリシスについて、結果が一致していないと明記している。そのうえで、研究の質・量ともに十分でないためフレイル及びサルコペニアの発症予防を目的とした望ましいたんぱく質摂取量を策定することは難しいとしながら、高齢者では推奨量より多め(1.2g/kg体重/日以上)に摂取するほうがフレイル及びサルコペニア発症を予防できる可能性があると考えられる、と記している。研究の質・量が十分でないという留保つきの記述であり、断定的な予防効果を示すものではない。
同報告書はフレイルの重症化予防についても触れている。プレフレイルからフレイルへの移行や重症化を検討したコホート研究は存在するものの結果は一貫しておらず、研究の数・質ともにまだ十分でないため、フレイルを改善させるためのたんぱく質摂取量に関して結論を出すことは難しいとされる。フレイルという状態そのものへの介入効果は、現時点で明確な結論が出ていない領域だ。
観察研究のレベルでも、結果は割れている。Coelho-Júnior et al., 2018のメタ分析(横断研究7件・縦断研究3件、計50,284名)は、高たんぱく質摂取と虚弱状態との間に負の関連(OR=0.67、95%CI 0.56-0.82)を報告した。ただし2022年の最新メタ分析(横断研究12件・縦断研究5件、地域在住高齢者46,469名)では様相が異なる。横断研究では絶対量・体重調整量・総エネルギー比のいずれのたんぱく質摂取も虚弱と有意な関連を示さなかった一方、縦断研究では高たんぱく質摂取と将来のフレイル発症リスク低下との関連が見られている。いずれも観察研究であり、たんぱく質摂取が原因でフレイル発症が抑えられたと直接証明したものではない。
食事摂取基準の報告書は、個別の観察研究の例も引用している。台湾の高齢者を対象とした横断研究では、フレイルを有する者(男性1.11g/kg体重/日、女性0.9g/kg体重/日)に比べ、フレイルでない者(男性1.34g/kg体重/日、女性1.26g/kg体重/日)のほうがたんぱく質摂取量が多かった。一方、ブラジル人高齢者(女性が8割を占める集団)を対象とした横断研究では、集団の平均摂取量がもともと1.5g/kg体重/日以上と多く、フレイルの有無による摂取量の違いは見られなかった。いずれも報告書の本文が引用する研究であり、原著論文を直接参照したものではない。
たんぱく質の目標量(下限)は、65歳以上で総エネルギーの15%とされている(1〜49歳は13%、50〜64歳は14%)。上限は全年齢区分で20%エネルギーだ。この目標量のエビデンスレベルはD2に区分される。1.2g/kg体重/日という水準を%エネルギーに換算すると、65歳以上ではおよそ14.9〜16.6%エネルギーに相当するという記述もある。これは食事摂取基準が性・年齢区分ごとの参照体重と身体活動レベル「低い」の推定エネルギー必要量を用いて算出した参考値であり、個人の体重や総エネルギー摂取量によって変動する。数値としては具体的だが、これらはあくまで「発症を予防できる可能性がある」という水準の記述にとどまる。
よくある質問
フレイルは治るのか。 フレイルは、しかるべき介入によって健常な状態に戻ることが想定されている段階と位置づけられている。ただしこれは概念上の位置づけであり、個人ごとの改善を保証するものではない。実際の見通しや対応は、医師など医療者が判断する事柄になる。
J-CHS基準の5項目に自分で回答すれば判定できるのか。 基本チェックリストの質問項目自体は公開されているが、体重減少・歩行速度・疲労感などの評価には専門的な判断が伴う。この記事も含め、判定は医療者や専門職が行うものであり、自己判定を目的とした情報ではない。気になる変化があれば、まず医療機関や地域包括支援センターなどに相談することが基本になる。
高齢者はたんぱく質をどれくらい摂ればよいか。 食事摂取基準(2025年版)は65歳以上の目標量下限を総エネルギーの15%としている。フレイル及びサルコペニア発症の予防については、推奨量より多め(1.2g/kg体重/日以上)の摂取が予防できる可能性があると考えられるとされているが、報告書自身が研究の質・量ともに十分でないと明記している水準の記述であり、「摂取すれば予防できる」と断定できる段階にはない。
関連記事
参考文献
- Fried, L.P., Tangen, C.M., Walston, J., Newman, A.B., Hirsch, C., Gottdiener, J., Seeman, T., Tracy, R., Kop, W.J., Burke, G., & McBurnie, M.A. (2001). Frailty in Older Adults: Evidence for a Phenotype. The Journals of Gerontology: Series A, Biological Sciences and Medical Sciences, 56(3), M146-M157. (https://doi.org/10.1093/gerona/56.3.m146)
- Coelho-Júnior, H.J., Rodrigues, B., Uchida, M., & Marzetti, E. (2018). Low Protein Intake Is Associated with Frailty in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Nutrients, 10(9), 1334. (https://doi.org/10.3390/nu10091334)
- Coelho-Junior, H.J., Calvani, R., Picca, A., Tosato, M., Landi, F., & Marzetti, E. (2022). Protein Intake and Frailty in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Nutrients, 14(13), 2767. (https://doi.org/10.3390/nu14132767)
- Chen, L.K. et al. (2020). Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. Journal of the American Medical Directors Association, 21(3), 300-307.e2. (https://doi.org/10.1016/j.jamda.2019.12.012)
- Satake, S., & Arai, H. (2020). The revised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria). Geriatrics & Gerontology International, 20(10), 992-993.(国立長寿医療研究センター公開資料「2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準)」https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/frailty/documents/J-CHS2020.pdf に記載の出典表記による・2026年8月参照)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
- 日本老年医学会「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」(2014年5月13日)
本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、診断・治療・予防を目的としたものではない。フレイルやサルコペニアの判定、体調の変化については、自己判断をせず医師・薬剤師等の医療専門家に相談すること。