断食中にプロテインは飲んでいいのか — 16時間断食とタンパク質摂取の科学

16時間断食(タイムリストリクティッドフィーディング)中のプロテイン摂取が断食を崩すのか、筋分解への影響、断食明けの最適なタンパク質量について複数のRCTデータをもとに整理する。断食の目的別に判断基準を示す。

  • 間欠的断食
  • タイムリストリクティッドフィーディング
  • 筋タンパク質合成
  • 断食
  • プロテイン摂取タイミング

断食中(摂食窓外)にカロリーが含まれるプロテインを摂取すれば、厳密な意味でのカロリー断食は崩れる。一方、筋タンパク質合成(MPS: muscle protein synthesis)の観点では、断食様式(TRF・ADF)よりも1日の総タンパク質摂取量の方が規定因子として重要であることが2024年のRCTで示されている(Kouw et al., 2024, Clinical Nutrition)。ただしKouw et al.の対象は過体重中年男性27名であり、筋トレを行う16:8 TRF実践者への直接外挿には慎重さが必要である。断食の「目的」がカロリー管理か体組成改善かオートファジー誘導かによって、プロテイン摂取の位置づけは大きく変わる。

16時間断食中にプロテインを飲むと断食は崩れるのか

16時間断食(16:8 TRF: time-restricted feeding)では、1日のうち8時間の摂食窓を設けてそれ以外は絶食する。プロテインパウダーはたんぱく質(4 kcal/g)と炭水化物を含み、摂食窓外に摂取すればカロリー摂取となる。カロリー断食の観点では「断食が崩れる」と判断される。

断食の主目的が体組成改善(除脂肪量の維持・脂肪量の減少)にある場合、摂食タイミングそのものよりも1日の摂取エネルギーとタンパク質量が体組成に大きく影響する。Moro et al.(2016, Journal of Translational Medicine)は抵抗運動を行う成人男性34名を対象に16:8 TRFを8週間実施し、脂肪量は有意に減少(p=0.0448)した一方、除脂肪量と最大筋力は対照群と同等に維持されたことを報告している(DOI: 10.1186/s12967-016-1044-0)。

オートファジー(細胞の自己分解・浄化機構)への影響は別途考慮が必要である。動物実験や細胞実験では、アミノ酸(特にBCAA)がmTORC1シグナルを介してオートファジー関連タンパク質の発現に影響を与えるという報告がある。ただし、ヒトの骨格筋においてプロテイン摂取がオートファジーを定量的にどの程度変化させるかは確立されていない。16時間断食によるオートファジー誘導の程度自体も、ヒトを対象とした研究では限定的なエビデンスにとどまる。

断食明けの最初のタンパク質はどう摂るべきか

断食明けの最初の食事では、長時間の絶食により血中アミノ酸濃度が低下しており、タンパク質を摂取するとMPSが一時的に高まる。ただし、MPS刺激には「muscle full(筋肉飽和)」効果と呼ばれる現象が存在する。Williamson and Moore(2021)がまとめたように、1食あたりのロイシン豊富なタンパク質がMPSを最大化できる上限は体重1kgあたり約0.25g程度とされており、それ以上の摂取は追加のMPS刺激ではなくアミノ酸酸化に回される。

断食期間が長いほど食後のアミノ酸酸化が増大し、摂取したタンパク質のうちMPS寄与分の割合が低下する可能性がWilliamson and Moore(2021, Frontiers in Nutrition)のナラティブレビューで示唆されている(DOI: 10.3389/fnut.2021.640621)。この観点から、断食明け最初の食事では吸収速度の速いタンパク質(WPHやWPI)が有利に働く可能性があるが、これを直接検証したRCTは現時点では確認されていない。

体重70kgの場合、1食でのMPS最大化に寄与するタンパク質量は70×0.25=17.5g程度が目安となる。ただし断食後の酸化増大を考慮すると、20〜25g程度を摂取してMPS寄与分を確保するアプローチも合理的である。MPSのスイッチとなるロイシンの摂取量(2〜3g)を意識した製品選択が実践的な観点では有効である。

断食中の筋分解はどの程度進むのか

16時間程度の断食では、タンパク質の体内貯蔵(筋肉)からのアミノ酸動員は生じるものの、その規模は体組成に影響を与えるほどではないことが複数のRCTから示されている。

Kouw et al.(2024, Clinical Nutrition)は過体重中年男性27名を対象に、隔日断食(ADF)・持続的カロリー制限(CER)・対照群の3群で筋タンパク質合成速度を重水素水(D2O)法で比較した。1日のタンパク質摂取量を同等にそろえたところ、MPS速度に群間差はなかった(ADF: 1.18、CER: 1.13、対照: 1.18 %/day、P>0.05)(DOI: 10.1016/j.clnu.2024.09.034)。断食様式そのものではなく総タンパク質摂取量がMPSを規定するという結果である。

Tinsley et al.(2017, European Journal of Sport Science)は週4日・4時間摂食窓のTRF+筋トレを8週間実施した若年男性において、除脂肪量の有意な群間差がなく、上腕・大腿の筋横断面積は両群で増加したことを報告している(DOI: 10.1080/17461391.2016.1223173)。摂食窓が4時間と極端に短い条件でも筋量は維持・増加している点は注目に値する。

16時間断食の範囲では、断食中の筋分解は1日の総タンパク質摂取量が十分であれば実質的な問題にならないと考えられる。ただしMoro et al.(2016)ではTRF群でテストステロンおよびIGF-1が有意に低下しており(p<0.05)、筋力・筋量への影響は8週間の観察期間内では認められなかったが、長期的なホルモン環境への影響については今後の研究が必要である。

断食×高タンパク食の体組成への影響は

断食(TRF)と高タンパク摂取を組み合わせた場合の体組成変化について、複数のRCTが一貫したパターンを示している。除脂肪量は維持または軽度増加し、脂肪量は減少する傾向が認められる。

Tinsley et al.(2019, American Journal of Clinical Nutrition)は活動的女性40名を対象に12:00〜20:00の摂食窓(8時間TRF)+筋トレ8週間を実施した。全群で除脂肪量は+2〜3%増加し、脂肪量はTRF群で-2〜-4%、TRF+HMB群で-4〜-7%の減少が確認された。タンパク質・エネルギー摂取量を両群で同等にそろえた条件では、筋肥大の程度に差はなかった(DOI: 10.1093/ajcn/nqz126)。

Stote et al.(2007, American Journal of Clinical Nutrition)は健常正常体重の中年者15名を対象に1日1食(カロリー制限なし)vs 3食を8週間クロスオーバーで比較した。1日1食群では脂肪量が-2.1kg減少し、除脂肪量に有意差はなかった(DOI: 10.1093/ajcn/85.4.981)。

断食×高タンパク食は脂肪量の減少と除脂肪量の維持を両立できる可能性がある。鍵は1日の総タンパク質摂取量を体重1kgあたり1.6〜2.2g程度確保することである。摂食窓が短くなるほど1食あたりの摂取量が増えるため、消化効率の高いタンパク質源(WPHやWPI等のペプチド・精製タンパク質)を活用することで、短い時間内に必要量を摂取しやすくなる。

TRF実践者はどのプロテインを選ぶべきか

以下はタイムリストリクティッドフィーディング実践者が参考にするプロテインパウダーの代表製品比較である。各製品の1食あたりサービングサイズが21〜30gと異なるため、カロリー・タンパク質量は「各製品の公式1食分」の値である。製品スペックは各メーカー公式サイトに基づく(2026年4月時点)。Tinsley et al.(2019)が用いたプロトコルでは、摂食窓内にWPC系のプロテインを分割して摂取する設計が採用された。

製品種別1食重量タンパク質/食カロリー/食甘味料価格(/kg)
GronG WPC スタンダード(ナチュラル)WPC29g22.3g118kcalなし¥2,958
BAZOOKA WPHWPH(ペプチド)30g20.1〜20.5g109〜112kcal羅漢果(天然)¥16,560
VALX WPCWPC30g23.3g119kcalアスパルテーム・アセスルファムK¥4,980
GronG WPI ハイプロテインWPI25g21.2g以上約107kcalスクラロース¥7,980

カロリー昇順で並べている。サービングサイズが異なるため、100gあたりのタンパク質含有率での比較も参考にすること(WPIは80〜90%、WPHは67〜68%(ビタミン・マルトデキストリン含む)、WPCは70〜80%程度)。断食明けの吸収速度を重視する場合はWPH・WPIが候補となる。カロリーを抑えつつ多くのタンパク質を摂りたい場合はWPIが合理的である。

よくある質問

摂食窓が8時間しかない場合、1日分のタンパク質をどのように分配すればよいか

体重70kgで1日のタンパク質目標が140g(2.0g/kg)の場合、8時間に3食を収めると1食あたり約47gになる。ただし1食あたりのMPS最大化に寄与する量は体重1kgあたり0.25g(70kgなら17.5g)程度とされるため、食事間隔を3〜5時間程度空けてMPS刺激の不応期(約3〜5時間)をリセットしながら分配することが合理的である。Williamson and Moore(2021)のまとめでは、食事間隔を短くしすぎると「muscle full」効果により追加摂取がMPSに寄与しにくくなる可能性が示唆されている。

WPHとWPIでは断食明けの吸収速度に違いがあるか

ホエイペプチド(WPH)はあらかじめ酵素で加水分解されジペプチド・トリペプチドとして存在するため、消化酵素による分解を要せず腸管から直接吸収される。WPI(ホエイプロテインアイソレート)は精製度が高く消化性は良好だが、消化による分解ステップが必要である点でWPHより吸収立ち上がりがわずかに遅いとされる。ただし両者の吸収速度差が実際の体組成に与える差は、現時点のRCTでは明確に示されていない。断食後に胃腸の準備が整っていない状態では、ペプチド型のWPHが消化器への負担が小さい可能性はある。

間欠的断食中はプロテインバーよりプロテインパウダーの方が良いか

プロテインバーは食物繊維・脂質・炭水化物を含むため消化に時間がかかり、摂食窓内での消化・吸収完了が遅くなる場合がある。プロテインパウダーは液体に溶かすことで消化吸収が速く、短い摂食窓内で効率的にタンパク質を補給しやすい。また摂食窓外に持ち込む場合、バーの固形食としての性質よりもパウダーを水に溶かした状態の方がカロリー吸収開始が遅いとも言えない(いずれもカロリーとして機能する)。摂食窓内での活用を前提にすれば、利便性・コスト面でパウダーが実践的である。

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参考文献

  • Kouw IWK, Parr EB, Wheeler MJ, Radford BE, Hall RC, Senden JMB, Goessens JPB, van Loon LJC, Hawley JA et al. (2024). Clinical Nutrition, 43(11):174-184. DOI: 10.1016/j.clnu.2024.09.034
  • Moro T, Tinsley G, Bianco A, Marcolin G, Pacelli QF, Battaglia G, Palma A, Gentil P, Neri M, Paoli A et al. (2016). Journal of Translational Medicine, 14, Article 290. DOI: 10.1186/s12967-016-1044-0
  • Tinsley GM, Moore ML, Graybeal AJ, Paoli A, Kim Y, Gonzales JU, Harry JR, VanDusseldorp TA, Kennedy DN, Cruz MR et al. (2019). American Journal of Clinical Nutrition, 110(3):628-640. DOI: 10.1093/ajcn/nqz126
  • Tinsley GM, Forsse JS, Butler NK, Paoli A, Bane AA, La Bounty PM, Morgan GB, Grandjean PW et al. (2017). European Journal of Sport Science, 17(2):200-207. DOI: 10.1080/17461391.2016.1223173
  • Williamson E and Moore DR. (2021). Frontiers in Nutrition, 8, Article 640621. DOI: 10.3389/fnut.2021.640621
  • Stote KS, Baer DJ, Spears K, Paul DR, Harris GK, Rumpler WV, Strycula P, Najjar SS, Ferrucci L, Ingram DK, Longo DL, Mattson MP et al. (2007). American Journal of Clinical Nutrition, 85(4):981-988. DOI: 10.1093/ajcn/85.4.981