プロテインがまずいと感じる原因は何か — 苦味・甘味・後味・溶け残りの味覚科学

プロテインがまずいと感じる原因は製法・甘味料・テクスチャーの3層に分けて理解できる。WPHの加水分解由来の苦味ペプチドからステビアの後味まで、味覚科学の知見をもとに製法別の苦味リスクと対策を整理する。

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プロテインの「まずさ」は大きく3つの原因に分類できる。第1はタンパク質の製法に由来する苦味ペプチド、第2は甘味料の後味(リンガリング)、第3は泡立ちや溶け残りによる口腔テクスチャーの不快感である。これらは独立して生じるが、複合すると知覚される不快感が増幅する。製法ごとの苦味リスクは異なり、WPH(加水分解ホエイプロテイン)が最も高く、WPI が最も低い傾向がある(Liu et al., 2022, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety)。

なぜプロテインは「まずい」と感じやすいのか

タンパク質は本来アミノ酸と小分子ペプチドの苦味を内包する素材である。加水分解処理や加熱変性、乾燥工程を経ることで疎水性ペプチドや揮発性硫黄化合物が生成され、これらが苦味・加熱臭・えぐみとして知覚される。Boye Liu et al.(2022, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety)によれば、WPH製品では疎水性ペプチドの濃度が高くなる傾向があり、味覚受容体(T2R)への結合が苦味の主要なメカニズムとされる(DOI: 10.1111/1541-4337.13050)。

プロテインパウダーが生鮮食品より「まずい」と感じやすい理由は、製造工程で味覚に不快な化合物が濃縮されるためである。牛乳を飲んでも感じない苦味や金属的な後味がプロテイン飲料で感じられるのは、製造過程で苦味原因物質が濃縮されるためと考えられる。さらに香料・甘味料・乳化剤など複数の添加物が複合的に味覚を刺激する点も、独特の「ケミカル感」の一因となっている。

苦味の正体は何か — ペプチド・変性タンパク質・カゼイン

WPH(ホエイペプチド)の苦味成分として、Xiaowei Liu et al.(2014, Journal of Agricultural and Food Chemistry)はLC-TOF-MS/MS分析でYGLF・IPAVF・LLF・YPFPGPIPNの4種の疎水性ペプチドを同定している。これらは10% WPH溶液の苦味強度の88%を説明し、最も濃度が高いYPFPGPIPNはβ-カゼイン由来で2.64 g/kgに達する。

苦味の鍵は疎水性アミノ酸(フェニルアラニン・ロイシン・プロリン・イソロイシン・バリン等)の配列にある。これらを末端または内部に含むペプチドは味蕾上の苦味受容体(T2R: taste receptor type 2)の「疎水性認識ゾーン」に結合し、苦味シグナルを発生させる(DOI: 10.1021/jf4019728)。

加水分解度(DH)と苦味強度の関係は「ベル型曲線(bell-shaped curve)」を描く。Boye Liu et al.(2022, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety)のレビューによれば、DHが中程度の製品で苦味がピークに達し、過加水分解(高DH)では苦味が低減する傾向がある(DOI: 10.1111/1541-4337.13050)。したがってWPHの「苦さ」は製品の加水分解度によって大きく異なる。

WPC・WPIでは加水分解処理を経ないため疎水性ペプチドの生成は少ないが、スプレードライ等の乾燥工程で一部タンパク質が変性し、β-ラクトグロブリンのシステイン残基から揮発性硫黄化合物が遊離することで「加熱臭(cooked flavor)」が生じる場合がある(Wijayanti HB et al., 2014, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety)。カゼインは水への溶解性が低く、溶け残りや凝集物が異質感として知覚されることがある。

甘味料の「ケミカル感」や後味はなぜ残るのか

プロテイン飲料に使われる主要甘味料(スクラロース・ステビア・羅漢果)はそれぞれ異なる後味プロファイルを持つ。Parker MN et al.(2018, Journal of Dairy Science, 101(10):8875-8889)がバニラ風味ホエイプロテイン飲料(25g protein/360mL水)を用いて150名に官能評価させた結果、消費者を2つのセグメントに分類したところ、ラベルを重視する層は天然甘味料ブレンドを好んだ一方、風味を重視する層はラベル上は天然甘味料を好むと回答しながらも実際の味覚テストではスクラロース添加飲料を好む傾向を示した(DOI: 10.3168/jds.2018-14707)。

ステビアに含まれるレバウジオシドA(Reb A)はスクロースの約300倍の甘味を持つが、苦味受容体TAS2R4とTAS2R14を活性化するため苦みと金属的後味(metallic aftertaste)が生じやすいことが報告されている。一方、羅漢果由来のモグロシドVはReb Aより苦み受容体の活性化が低く、苦みと金属的後味が少ないとされる。Parker et al.(2018)のWPIバニラ飲料を対象とした官能評価では、ステビア25%+羅漢果75%のブレンドがスクロース(砂糖��の時間的甘味プロファイルに最も近い結果を示しており、天然���味料のブレンドが後味改善の有効な手法とされている。

スクラロースは低濃度では甘味受容体(T1R2/T1R3)を主に活性化するが、一部の個人では「甘味のリンガリング(口腔内に甘味が長く残る感覚)」を強く知覚する場合がある。過剰添加は「ケミカル感」の一因となる。

泡立ち・ダマ・粉っぽさは味覚にどう影響するのか

テクスチャー(口腔感覚)は味覚知覚に直接影響する。Stephanie P Bull et al.(2017, Food Quality and Preference, 56(Pt B):233-240)は70℃での加熱時間が長いほどWPC飲料の口腔乾燥感(mouthdrying)・コーティング感(mouthcoating)・チョーキー感(chalky)が増加することを示した(DOI: 10.1016/j.foodqual.2016.03.008)。この原因は変性タンパク質の粘膜付着(mucoadhesion)とされており、pH・粘度・ゼータ電位は加熱時間によらず同等だったため、テクスチャー変化は成分ではなくタンパク質の構造変化に起因すると結論づけられた。

泡立ちは乳化剤やタンパク質の界面活性作用によって生じる。気泡が口腔内で弾けるときに微細な粒子が鼻腔・咽頭に到達し、オフフレーバーを増幅させる場合がある。ダマ(溶け残り)は粉っぽさと渋みを同時にもたらし、苦味ペプチドが局所的に高濃度になる現象を引き起こす。

Victoria Norton et al.(2021, Foods, 10(9):2066)の官能評価試験では、ラクトース添加(9.4% w/v)が液体WPC飲料の口腔乾燥感スコアを有意に低下させることが報告されている(DOI: 10.3390/foods10092066)。クロスモーダルな甘味抑制メカニズムが推定されており、乳糖を含むWPCが無味のWPIより飲みやすく感じられる場合があることの一因とされる。

フレーバー別・製法別で「まずさ」は変わるのか

苦味リスクは製法によって大きく異なり、WPHが最高、WPIが最低に位置づけられる。Parker MN et al.(2018, Journal of Dairy Science)の官能評価では、甘味料の種類がプロテイン飲料の全体的な好まれやすさに影響することが150名の消費者パネルで確認されており、製法だけでなくフレーバー設計も「まずさ」の知覚を左右する(DOI: 10.3168/jds.2018-14707)。フレーバー付き製品は香料と甘味料がオフフレーバーをマスクするため、プレーンより飲みやすいと感じる傾向があるが、甘味料の後味が加わる分、「ケミカル感」が生じる可能性もある。

チョコレート風味はカカオの苦味・香りがタンパク質の苦味と相互作用し、全体として苦味を「風味として受容」しやすくする傾向がある。フルーツ系フレーバーは酸味と甘味の組み合わせで苦味をマスクしやすいが、ステビアの金属的後味が酸味と相互作用して増幅される場合がある。プレーンは甘味料の後味はないが、タンパク質や乳脂肪の素の風味がそのまま知覚されるため、製品品質がより直接的に味に出る。

製法・甘味料別の苦味リスクを以下の表に整理する。ソートは苦味リスク降順(高リスクが上位)で行っている。各製品の代表フレーバーで比較しており、フレーバーにより甘味料が異なる製品は複数行で示した。

製法苦味リスク主な苦味原因甘味料の後味影響溶け残りリスク代表的な対策
WPH(加水分解)疎水性ペプチド(YGLF・IPAVF・LLF等)。DHが中程度の製品で最大苦味マスク目的の甘味料が必須。過剰添加でケミカル感低(分子量が小さく溶けやすい)高DH加工、カプセル化、甘味料ブレンド(例: ステビア25%+羅漢果75%)
カゼイン中〜高低溶解性による凝集感、加水分解物の苦味ペプチドスクラロース添加製品では甘味のリンガリングが生じやすい高(水に溶けにくくダマが残りやすい)少量ずつ混合、温水使用、十分な撹拌
ソイ(大豆)大豆特有の青臭さ(beany flavor)。加熱や酵素処理で低減可能中(繊維質由来の粒子残存)分離大豆タンパク(SPI)を使用した製品を選ぶ
WPC低〜中加熱変性による含硫化合物(加熱臭)、乳糖残存ステビア使用製品では苦みのある後味が出やすい中(乳糖・乳脂肪の残存)低温製法(CFM)採用製品、即溶(instantized)加工
WPIWPCより精製度が高く苦味原因物質が少ない

本表の特性は製品カテゴリ一般の傾向を示すものであり、同一製法でも製造条件・加水分解度・品質管理によって個別製品の苦味強度は異なる。

よくある質問

Q. プロテインの苦味を抑える飲み方はあるか

水の量を増やして濃度を薄めると苦味ペプチドの口腔内濃度が下がり、苦味知覚が低減する傾向がある。牛乳で溶かすと乳糖と乳脂肪が苦味をマスクする効果が期待できる(Norton et al., 2021)。冷水よりも常温の水の方が粉が溶けやすく、溶け残りによる局所的な高濃度化を防ぐ。また食後に摂取すると唾液量が多く残っており、口腔内での希釈効果で苦味を感じにくい場合がある。

Q. プレーンプロテインはフレーバー付きより飲みにくいのか

一概にそうとは言えない。フレーバー付きは香料と甘味料が苦味をマスクするため飲みやすく感じることが多いが、甘味料由来の金属的後味やケミカル感が苦手な場合、プレーンの方が快適に飲める場合もある。プレーンの場合でも、タンパク質の風味自体は製法によって異なり、WPCは乳風味があり比較的飲みやすいとされる一方、高DH加工のWPHプレーンは苦味が顕著に出やすい。Parker et al.(2018)の官能評価でも、天然甘味料への好みは実際の味覚テストとラベル印象で乖離があることが示されており、個人の味覚感度と好みによる影響が大きい。

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参考文献

  • Xiaowei Liu et al. (2014). Identification of Bitter Peptides in Whey Protein Hydrolysate. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 62(25), 5719–5725. DOI: 10.1021/jf4019728
  • Boye Liu et al. (2022). Review on the release mechanism and debittering technology of bitter peptides from protein hydrolysates. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 21(6), 5153–5170. DOI: 10.1111/1541-4337.13050
  • Parker MN, Lopetcharat K, Drake MA (2018). Consumer acceptance of natural sweeteners in protein beverages. Journal of Dairy Science, 101(10), 8875–8889. DOI: 10.3168/jds.2018-14707
  • Stephanie P Bull et al. (2017). Whey protein mouth drying influenced by thermal denaturation. Food Quality and Preference, 56(Pt B), 233–240. DOI: 10.1016/j.foodqual.2016.03.008
  • Victoria Norton et al. (2021). Investigating Methods to Mitigate Whey Protein Derived Mouthdrying. Foods, 10(9), 2066. DOI: 10.3390/foods10092066
  • Wijayanti HB, Bansal N, Deeth HC (2014). Stability of Whey Proteins during Thermal Processing: A Review. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 13(6), 1235–1251. DOI: 10.1111/1541-4337.12105