プロテインと一緒に摂るとクレアチンの吸収は変わるのか — インスリン応答とクレアチン取り込みの科学
クレアチンの筋肉への取り込みはインスリン濃度に依存し、血清インスリン約100 mU/l以上の条件でのみ取り込み促進が確認されている。プロテインや炭水化物との同時摂取がクレアチン保持率をどう変えるか、Green 1996・Steenge 2000・Pittas 2010の研究データをもとに定量的に整理する。
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クレアチンの筋肉への取り込みは、インスリン濃度が高い状態ほど促進される。炭水化物93gと同時摂取した場合、クレアチン単独より5日間の筋クレアチン蓄積が約60%増加するという報告がある(Green et al., 1996, American Journal of Physiology)。プロテイン(タンパク質)50gと炭水化物47gを組み合わせると、炭水化物96g単独と同等のインスリン応答とクレアチン保持増強が得られることも示されている(Steenge et al., 2000, Journal of Applied Physiology)。ただし、インスリン促進効果には閾値が存在し、食後の通常の生理的応答でその閾値に安定して到達するかどうかは条件によって異なる。
クレアチンはどのように筋肉に取り込まれるのか?
クレアチンは骨格筋細胞への取り込みに、SLC6A8(クレアチン輸送体/CRT)と呼ばれるナトリウム・クロライド依存性の共輸送体を使う。SLC6A8はX染色体長腕(Xq28)にコードされ、骨格筋・腎臓・脳・心臓で高発現する。
この輸送体はクレアチンを濃度勾配に逆らって細胞内に取り込むため、Na⁺-K⁺-ATPase(ナトリウムポンプ)が供給する電気化学的勾配が駆動力となる。細胞外のクレアチン濃度が高くても、ポンプが十分に働いていなければ取り込み効率は上がらない。
インスリンがこの系に関与することは、1975年にHaugland & Chang(Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine)が単離ラット骨格筋を用いた実験で初めて実証した。インスリンは糖やアミノ酸の輸送と同様の機序でクレアチン輸送速度を直接促進することが示された(Haugland RB, Chang DT, 1975, Proc Soc Exp Biol Med, PMID: 1129249)。
インスリンはクレアチンの取り込みを促進するのか?
インスリンによるクレアチン取り込み促進は確認されているが、効果が現れるのは血清インスリン濃度が一定の閾値を超えた場合に限られる。
Steenge et al.(1998, American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism)はeuglycemic insulin clamp(血糖値を固定しながらインスリンだけを外から注入する人工的な実験手法)を用い、インスリン濃度と筋クレアチン蓄積の関係を定量化した。その結果、インスリン注入速度55〜105 mU·m⁻²·min⁻¹の条件(血清インスリン濃度として概算100 mU/l超に相当するとされる)でのみ筋クレアチン蓄積が有意に増加(約4.5〜8.3 mmol/kg乾燥重量の増加)した一方、低インスリン条件(5 mU·m⁻²·min⁻¹)では効果が認められなかった(DOI: 10.1152/ajpendo.1998.275.6.E974)。
ただし、この実験はeuglycemic clampという人工的な条件下で実施されており、通常の食事後に生じる生理的なインスリン応答で同じ閾値に安定して到達するかどうかは別に検討する必要がある。食後のインスリン応答は食品の種類・量・個人差によって大きく異なるため、この閾値を日常的な食事摂取に直接あてはめることには注意が必要である。
メカニズムとしては、インスリンがNa⁺-K⁺-ATPaseポンプの活性を高めることで細胞内のNa⁺勾配が強化され、SLC6A8を介したクレアチンの取り込みが間接的に促進されると考えられている。
プロテインはインスリンをどの程度上昇させるのか?
ホエイプロテインはタンパク質の中でもインスリン促進効果が高い部類に入る。Power et al.(2009, Amino Acids)はホエイ加水分解物(WPH)がホエイ分離物(WPI)よりもインスリン最大濃度(Cmax)を28%高め、インスリンAUCが43%増加(7.6 vs 10.8 nM)することをn=16名の交差試験で報告している(DOI: 10.1007/s00726-008-0156-0)。
ホエイによるインスリン促進の機序はBCAA・リジン・スレオニン等のアミノ酸5種と消化管ホルモンGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)を介したβ細胞への直接作用によることが示されている(Salehi et al., 2012, Nutrition & Metabolism, DOI: 10.1186/1743-7075-9-48)。
ただし、ホエイプロテイン単独25g摂取で得られるインスリン応答が、Steenge 1998が示した閾値(約100 mU/l)に安定して到達するかは現時点で明確ではない。ホエイ単独では食後のインスリン応答が炭水化物摂取時と比べて小さい場合が多く、クレアチン取り込みの有意な促進効果を期待するためには炭水化物との組み合わせが現実的な選択肢となる。
クレアチン+プロテインの同時摂取は実際に吸収効率を変えるのか?
Steenge et al.(2000, Journal of Applied Physiology, DOI: 10.1152/jappl.2000.89.3.1165)はn=12名の男性を対象に、以下の4条件のクロスオーバー試験を実施した。
- 低炭水化物条件(炭水化物5g)
- タンパク質50g+炭水化物47g条件
- 高炭水化物条件(炭水化物96g)
- 炭水化物50g条件
タンパク質50g+炭水化物47g群は、高炭水化物96g群と同等のインスリン分泌・クレアチン保持増強効果(プラセボ比約25%増)をもたらした。タンパク質が炭水化物の一部を置き換えながら同等のインスリン応答を引き出すことが確認された形である。
さらにPittas et al.(2010, Journal of Sports Sciences, DOI: 10.1080/02640410903390071)は、タンパク質加水分解物14g+ロイシン7g+フェニルアラニン7g+デキストロース57gの組み合わせが、デキストロース95g単独よりも24時間クレアチン保持を有意に向上させることをn=7名の健康若年男性で示した。少量のタンパク質とアミノ酸の追加が大量炭水化物単独を上回る効果を示した点が注目される。ただしこの試験は経鼻胃管(naso-gastric tube)による投与という非通常条件で行われており、口から通常摂取する場合と同じ結果が得られるとは限らない。
何と一緒にクレアチンを摂るのが最適か?
現在入手できる研究データをまとめると、インスリン応答を通じてクレアチン保持を最大化したい場合、プロテイン単独よりもプロテイン+炭水化物の組み合わせが安定した効果をもたらす。
以下の比較表はクレアチン摂取パターンごとの研究結果の概要である。
| 摂取パターン | インスリン応答の目安 | クレアチン保持変化 | 主な研究 |
|---|---|---|---|
| 水のみ | 低(ベースライン) | ベースライン | Green et al., 1996 |
| クレアチン+炭水化物93g | 高 | +60%(vs 水のみ) | Green et al., 1996 |
| クレアチン+タンパク質50g+炭水化物47g | 高(炭水化物96g群と同等) | +25%(vs プラセボ) | Steenge et al., 2000 |
| クレアチン+炭水化物96g | 高 | +25%(vs プラセボ) | Steenge et al., 2000 |
| クレアチン+タンパク質加水分解物14g+Leu7g+Phe7g+デキストロース57g | 高(95g CHO群超) | 95g CHO群超(有意) | Pittas et al., 2010※ |
※Pittas et al.は経鼻胃管投与のため通常摂取との比較に注意
実用的な観点では、食後(食事にタンパク質と炭水化物が含まれる)のタイミングでクレアチンを摂取することが、インスリン応答を利用したクレアチン取り込みの促進として現実的な方法となる。一方、長期的なクレアチン補給では水のみの摂取でも最終的には筋クレアチンが飽和レベルに達するため、インスリン促進の有無は「補給速度」に影響するものの、到達水準そのものを決定する唯一の要因ではない。
インスリン非依存的な取り込み経路の存在も示唆されているが、SLC6A8以外の機構の詳細はまだ十分に解明されていない。
よくある質問
Q. クレアチンは食後に摂るべきか、空腹時に摂るべきか?
インスリン応答を通じた取り込み促進を期待するならば、タンパク質と炭水化物が含まれる食事と同時またはその直後が理にかなっている。ただし長期補給では筋クレアチンは最終的に飽和するため、タイミングよりも毎日一定量を継続して摂取することが優先事項となる。タイミングの詳細については別途整理している。
Q. ホエイプロテインだけと一緒に摂っても効果はあるか?
ホエイプロテインはタンパク質源の中でインスリン促進効果が高い部類に入るが、単独で摂取した場合に Steenge 1998が示した閾値(血清インスリン約100 mU/l以上)に安定して到達するかは現時点で明確ではない。炭水化物との組み合わせがより確実にインスリン応答を高める方法とされる。なお、長期的には水のみでもクレアチンの筋蓄積は進むため、プロテインを持っていない場合に効果がゼロになるわけではない。
Q. WPH(加水分解ホエイ)とWPI(分離ホエイ)ではインスリン応答に違いがあるか?
Power et al.(2009, Amino Acids)によれば、WPHはWPIよりもインスリンAUCが43%高いと報告されている。WPHは加水分解により低分子化されており、血中アミノ酸濃度が急峻に上昇するため、インスリン分泌をより速やかに刺激すると考えられる。ただし、WPHとWPC(濃縮ホエイ)のインスリン応答を直接比較した研究は現時点では限られており、クレアチン取り込みへの効果量の差を直接比較した研究も見当たらない。
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参考文献
- Green AL, Hultman E, Macdonald IA, Sewell DA, Greenhaff PL. 1996. Carbohydrate ingestion augments skeletal muscle creatine accumulation during creatine supplementation in humans. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 271(5 Pt 1):E821-E826. PMID: 8944667
- Steenge GR, Lambourne J, Casey A, Macdonald IA, Greenhaff PL. 1998. Stimulatory effect of insulin on creatine accumulation in human skeletal muscle. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 275(6):E974-E979. DOI: 10.1152/ajpendo.1998.275.6.E974
- Steenge GR, Simpson EJ, Greenhaff PL. 2000. Protein- and carbohydrate-induced augmentation of whole body creatine retention in humans. Journal of Applied Physiology, 89(3):1165-1171. DOI: 10.1152/jappl.2000.89.3.1165
- Pittas G, Hazell MD, Simpson EJ, Greenhaff PL. 2010. Optimization of insulin-mediated creatine retention during creatine feeding in humans. Journal of Sports Sciences, 28(1):67-74. DOI: 10.1080/02640410903390071
- Haugland RB, Chang DT. 1975. Insulin effect on creatine transport in skeletal muscle. Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine, 148(1):1-4. PMID: 1129249
- Power O, Hallihan A, Jakeman P. 2009. Human insulinotropic response to oral ingestion of native and hydrolysed whey protein. Amino Acids, 37(2):333-339. DOI: 10.1007/s00726-008-0156-0
- Salehi A, Gunnerud V, et al. 2012. The insulinogenic effect of whey protein is partially mediated by a direct effect of amino acids and GIP on β-cells. Nutrition & Metabolism, 9:48. DOI: 10.1186/1743-7075-9-48