HMBとは — ロイシン代謝物の作用と効果
HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)は必須アミノ酸ロイシンの代謝物で、筋タンパク質の合成促進と分解抑制の二重作用が報告されている。ロイシンとの違い、若年トレーニー・高齢者での効果の差、HMB-CaとHMB-FAの形態差を一次論文ベースで整理する。
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- mTOR
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本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。
HMB(β-hydroxy-β-methylbutyrate、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)は必須アミノ酸ロイシンの代謝物であり、摂取したロイシンの約5%が体内でHMBに変換される(Van Koevering & Nissen, 1992, American Journal of Physiology)。mTOR経路で筋タンパク質合成を促進すると同時に、ユビキチン-プロテアソーム系とオートファジーを介した筋タンパク質分解も抑制するという二重作用が報告されている(Rathmacher JA et al., 2025, Journal of the International Society of Sports Nutrition)。
推奨摂取量は3g/日(体重あたり約38mg/kg/日)とされ、主な市販形態にはカルシウム塩(HMB-Ca)と遊離酸(HMB-FA)の2種類がある。若年のトレーニング経験者への効果は限定的とされる一方、50歳以上の成人では筋量・筋力・身体機能の改善が報告されている。ただし健康な高齢者を対象としたネットワークメタアナリシスではHMBの有意な優位性は確認されておらず、対象集団・健康状態によって結果が分かれる。
HMBとは何か
HMB(β-hydroxy-β-methylbutyrate、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)は、必須アミノ酸ロイシン(leucine)の代謝産物である。ロイシンは体内でまずKIC(α-ケトイソカプロン酸、α-ketoisocaproate)へ変換され、KICジオキシゲナーゼという酵素によってHMBへと転換される。Van Koevering & Nissen(1992, American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 262(1):E27-E31)は、この代謝経路において正常条件下では摂取ロイシンの約5%がHMBに変換されることを示した。
代謝経路を整理すると「ロイシン → KIC → HMB」というステップを経ており、HMBはロイシン代謝の末端産物の一つに位置する。Rathmacher et al.(2025)は、この経路においてHMBが合成促進と分解抑制の二重作用をもつ点でロイシンとは異なる作用機序を示すと報告している。
食事からの自然摂取量は1日あたり約0.3g程度であり、牛肉・カリフラワー・グレープフルーツなどに微量含まれる。推奨摂取量の3g/日を食事だけで摂ろうとすると、一般的な食品摂取量では補いにくいとされている。HMBはロイシン代謝の末端産物であり、前駆体であるロイシンそのものの定義と作用についてはロイシンとはを参照されたい。
HMBはどう作用するとされるか
Rathmacher JA et al.(2025)のISSN(国際スポーツ栄養学会)ポジションスタンドは、HMBの二重作用機序として、①mTOR(mechanistic target of rapamycin)経路を介した筋タンパク質合成の促進と、②ユビキチン-プロテアソーム系(ubiquitin-proteasome pathway)およびオートファジー・リソソーム系を阻害することによる筋タンパク質分解の抑制、の両経路を報告している(DOI: 10.1080/15502783.2024.2434734)。
ロイシンとHMBの作用の違いを機序の観点から整理すると、ロイシンはmTOR活性化を通じた合成促進が中心的な作用とされているのに対し、HMBは分解抑制という独立した作用も報告されている点が異なる。この合成促進と分解抑制の組み合わせが、HMBの「二重作用(dual mechanism)」と呼ばれる理由である。
mTORとはは細胞の成長・タンパク質合成を制御するセリン/スレオニンキナーゼであり、HMBはこの経路の上流で機能すると報告されている。ユビキチン-プロテアソーム系は細胞内のタンパク質分解経路の一つであり、筋萎縮状態ではこの経路が亢進することが知られている。Rathmacher et al.(2025)は長期(1年間)にわたるHMBの使用において安全性が確認されていると結論している。
HMBの効果はどの集団で確認されているか
Li N et al.(2025)による50歳以上の成人を対象としたメタアナリシス(21 RCT、n=1,935)では、HMB 3g/日を12週間以上摂取した場合に、四肢骨格筋量(ASMM)がWMD +1.56 kg(95%CI 0.03〜3.09)、除脂肪体重がWMD +0.28 kg(95%CI 0.16〜0.41)、握力がWMD +0.54 kg(95%CI 0.04〜1.04)、歩行速度がWMD +0.06 m/s(95%CI 0.01〜0.10)で有意に改善したと報告されている(DOI: 10.3389/fnut.2025.1522287)。ただし主要指標であるASMMはCI下限が0.03 kgと幅広く、研究間の不均一性も高い(I²>90%)ためGRADE評価上は「低エビデンス」と格付けされている点に留意が必要である。一方、若年者(18〜45歳)のレジスタンストレーニング実施者を対象としたJakubowski et al.(2020、Nutrients、n=302)は、除脂肪体重差+0.29 kg(95%CI -0.01〜0.60、p=0.06)、総1RMの有意な改善を示さなかったと報告している。
集団ごとにHMBの効果報告が異なる点を以下に整理する。
若年トレーニング経験者(18〜45歳): Jakubowski et al.(2020、Nutrients、n=302体組成、n=248筋力)のシステマティックレビュー&メタアナリシスは、レジスタンストレーニング経験のある若年者では、HMB補給によって除脂肪体重・筋力のいずれにも有意な改善が認められなかったと結論している。
50歳以上の成人: Li N et al.(2025、Frontiers in Nutrition、21 RCT、n=1,935)は、50歳以上の成人において12週間以上のHMB摂取(3g/日)で筋量・筋力・身体機能の改善が報告されたとまとめている。対象集団の健康状態は研究によって混在しており、健康状態を問わない幅広い50歳以上の成人が含まれている。
診断確定サルコペニア患者: Su H et al.(2024、Frontiers in Medicine、6研究、n=667)は、診断確定したサルコペニア(sarcopenia)患者において、HMB補給は握力強度のみ有意に改善した(MD=1.26 kg、95%CI 0.41〜2.21、p=0.004)ことを報告している。一方、歩行速度・除脂肪量・骨格筋指数(SMI)については有意差が観察されなかったとしている。サルコペニアとは加齢に伴う骨格筋の量・機能低下を指す状態であり、詳細はサルコペニアとはを参照されたい。
健康な高齢者でのネットワークメタアナリシス: Ma et al.(2025、Frontiers in Nutrition)は、健康な高齢者を対象とした19 RCT・997名のネットワークメタアナリシスにおいて、HMBは筋力・筋量の両指標で有意な効果を示さなかったと報告している。同解析では、筋力においてはタンパク質補給+レジスタンストレーニングが最も有効(SUCRA 98.7%、SMD=0.45、95%CI 0.20〜0.69)、筋量においてはクレアチン補給+レジスタンストレーニングが最も有効(筋量増加MD=2.18 kg、95%CI 0.92〜3.44、SUCRA 99.9%)とされた。HMBのSUCRAは筋力で8.7%、筋量で23.9%であり、健康な高齢者という限定条件下では他の介入手段に比べて優先順位は低いとされる結果であった。
集団別の効果報告をまとめると、「50歳以上で12週間以上」という条件下での改善報告はあるが、健康な高齢者に限定したネットワークメタアナリシスではHMBの有意な優位性は確認されていない。若年のトレーニング経験者への効果は限定的とする知見が複数のメタアナリシスで報告されている。
HMB-CaとHMB-FAは何が違うか
Ribeiro HR et al.(2024、Amino Acids、56, 27)は、n=16のクロスオーバー試験においてHMB-Ca(カルシウム塩・カプセル)とHMB-FA(遊離酸)のバイオアベイラビリティを比較し、HMB-CaのAUCが50,078 µmol/L×720 minであるのに対しHMB-FAは29,130 µmol/L×720 minであり、HMB-Ca水溶液のAUCを100%とした相対バイオアベイラビリティはHMB-Caカプセル 104.8%、HMB-FA 61.5%と報告している(DOI: 10.1007/s00726-023-03369-z)。
2種類の主要形態の概要を以下で整理する。HMB-Ca(calcium salt form)はHMBをカルシウム塩として安定させたもので、粉末・カプセルとして流通しやすい形態である。HMB-FA(free acid form)はHMBの遊離酸型であり、液体・ゲル状で提供されることが多い。
Ribeiro et al.(2024)のデータはHMB-Caのバイオアベイラビリティ優位を示しているが、Rathmacher et al.(2025)のポジションスタンドは機能的なアウトカム(筋量・筋力)については両形態が同等であるとまとめている。同データの「104.8%」「61.5%」はいずれもHMB-Ca水溶液のAUCを100%とした相対値であり、HMB-FAをHMB-Caと直接比較するとAUCで約40%低いという含意である。一部の古いレビューにはHMB-FA優位とする記述も見られるが、Ribeiro 2024の最新の薬物動態データはHMB-Ca優位を示している点に注意が必要である。
推奨摂取量は両形態ともに3g/日(体重あたり約38mg/kg/日)が一般的とされており、Wilson et al.(2013、JISSN)とRathmacher et al.(2025)の両ポジションスタンドで一致する値である。以下に形態別の主要な特徴をまとめる。
HMB-CaとHMB-FAの形態比較(2026年6月時点)
| 項目 | HMB-Ca(カルシウム塩) | HMB-FA(遊離酸) |
|---|---|---|
| 化学形態 | HMBのカルシウム塩 | 遊離酸型HMB |
| 主な使用形態 | 粉末・カプセル | 液体・ゲル |
| 相対バイオアベイラビリティ(HMB-Ca水溶液=100%基準) | カプセル104.8%(Ribeiro 2024) | 61.5%(Ribeiro 2024) |
| 推奨摂取量 | 3g/日(体重38mg/kg/日) | 3g/日(同等) |
| 機能的効果(筋量・筋力) | 同等とされる(Rathmacher 2025) | 同等とされる(Rathmacher 2025) |
| 推奨摂取タイミング | 運動に近接した時間帯(Rathmacher 2025) | 同等 |
| 想定対象 | 一般トレーニー・高齢者 | 液体形態を好む場合 |
出典: Ribeiro HR et al. (2024). Amino Acids, 56(1). DOI: 10.1007/s00726-023-03369-z / Rathmacher JA et al. (2025). JISSN. DOI: 10.1080/15502783.2024.2434734
よくある質問
Q: HMBはロイシンを直接摂取するのと何が違うのか
作用機序と代謝変換率の2点が異なる。ロイシンはmTOR経路を活性化して筋タンパク質合成を促進する作用が中心とされるのに対し、HMBは合成促進(mTOR経路)と分解抑制(ユビキチン-プロテアソーム系・オートファジー抑制)の二重作用が報告されている。また、ロイシン摂取量のうちHMBへ変換されるのは約5%とされ(Van Koevering & Nissen, 1992)、推奨摂取量の3g/日をロイシンの体内変換で得ようとすると 3g ÷ 0.05 = 60g のロイシン摂取が必要になる計算となり、食事やプロテイン補給でこの量を確保するのは現実的ではない。ただしこれは「ロイシン摂取が無意味」という意味ではなく、ロイシン自身はmTOR経路を介した合成促進という独立した役割を持つため、HMBとの関係は代替ではなく補完として理解されることが多い。ロイシンそのものの詳細についてはロイシンとはを参照されたい。
Q: HMBとプロテインの併用には意味があるとされているか
機序的には、プロテイン(アミノ酸補給による合成促進)とHMB(分解抑制)の補完関係が想定されることがある。ただし、Shirato et al.(2016、Journal of the International Society of Sports Nutrition)が未訓練男性18名(各群n=6)を対象とした小規模RCTでは、HMBとホエイプロテインの併用は、それぞれ単独と比較して遠心性運動後の筋力低下・筋肉痛・筋損傷マーカーに対して追加的な効果を示さなかったと報告している。Shirato 2016はサンプルサイズが小さく(各群n=6)、結果の解釈には留保が必要である。HMBとプロテインを組み合わせた場合の効果については、より規模の大きな試験でのエビデンスの蓄積が期待されている。詳しくはHMBとプロテインの併用は意味があるのかを参照されたい。
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参考文献
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Van Koevering M, Nissen S (1992). Oxidation of leucine and alpha-ketoisocaproate to beta-hydroxy-beta-methylbutyrate in vivo. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 262(1 Pt 1), E27-E31. DOI: 10.1152/ajpendo.1992.262.1.E27
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Wilson JM, Fitschen PJ, Campbell B, Wilson GJ, Zanchi N, Taylor L, Wilborn C, Kalman DS, Stout JR, Hoffman JR, Ziegenfuss TN, Lopez HL, Kreider RB, Smith-Ryan AE, Antonio J (2013). International Society of Sports Nutrition Position Stand: beta-hydroxy-beta-methylbutyrate (HMB). Journal of the International Society of Sports Nutrition, 10(1), 6. DOI: 10.1186/1550-2783-10-6
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Rathmacher JA, Pitchford LM, Stout JR, Townsend JR, Jager R, Kreider RB, Campbell BI, Kerksick CM, Harty PS, Candow DG, Roberts BM, Arent SM, Kalman DS, Antonio J (2025). International society of sports nutrition position stand: β-hydroxy-β-methylbutyrate (HMB). Journal of the International Society of Sports Nutrition, 22(1). DOI: 10.1080/15502783.2024.2434734
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Jakubowski JS, Nunes EA, Teixeira FJ, Vescio V, Morton RW, Banfield L, Phillips SM (2020). Supplementation with the Leucine Metabolite β-hydroxy-β-methylbutyrate (HMB) does not Improve Resistance Exercise-Induced Changes in Body Composition or Strength in Young Subjects: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients, 12(5), 1523. DOI: 10.3390/nu12051523
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Li N, Chen S, He Y, Chen Y, Duan X, He W, Wang Q, Liu S, Liu T, Fang H (2025). Effects of oral supplementation of β-hydroxy-β-methylbutyrate on muscle mass and strength in individuals over the age of 50: a meta-analysis. Frontiers in Nutrition, 12, 1522287. DOI: 10.3389/fnut.2025.1522287
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Su H et al. (2024). The effects of β-hydroxy-β-methylbutyrate or HMB-rich nutritional supplements on sarcopenia patients: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Medicine, 11, 1348212. DOI: 10.3389/fmed.2024.1348212
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Ribeiro HR et al. (2024). Superior bioavailability of the calcium salt form of β-hydroxy-β-methylbutyrate compared with the free acid form. Amino Acids, 56, 27. DOI: 10.1007/s00726-023-03369-z
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Shirato M et al. (2016). Effects of combined β-hydroxy-β-methylbutyrate (HMB) and whey protein ingestion on symptoms of eccentric exercise-induced muscle damage. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 13(1). DOI: 10.1186/s12970-016-0119-x