GLP-1ダイエット薬で筋肉は減るのか — 減量に伴う除脂肪体重の減少とタンパク質・運動の科学

GLP-1受容体作動薬による減量では、減少した体重のうち除脂肪体重が試験により約25〜40%を占めると複数の臨床試験で報告されている。試験間のばらつきを踏まえた上で、タンパク質摂取と運動の科学的知見を整理する。

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本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防、特定の医薬品の使用・中止を推奨するものではない。個別の健康上の判断は医師・薬剤師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。


GLP-1受容体作動薬(GLP-1 receptor agonist)による減量では、減少した体重のうち除脂肪体重(lean body mass)が約25〜40%を占めると複数の臨床試験で報告されている。ただし試験間のばらつきは大きく、Neeland et al.(2024)のレビューでは15%未満から40〜60%に及ぶ例も報告されており、一律の数値として扱うことには限界がある。十分なタンパク質摂取の確保とレジスタンス運動(resistance exercise)の併用が、除脂肪量の損失を抑える方策として検討されている。


GLP-1受容体作動薬で筋肉(除脂肪体重)は減るのか

SURMOUNT-1試験のDXAサブスタディ(Look et al., 2025、n=160、平均BMI 38.0、平均年齢46歳、73%女性・72週間)では、チルゼパチド(tirzepatide)投与群の体重減少(-21.3%)に対し除脂肪体重の減少は-10.9%だった。主要論文(Jastreboff et al., 2022, NEJM)でも体重減少の約75%が脂肪・約25%が除脂肪体重と報告されている。STEP 1試験のDXAサブスタディ(Wilding et al., 2021 STEP 1 Study Group)では、セマグルチド(semaglutide)2.4mg投与群で除脂肪体重が5.8kg減少し、総体重減少(約15kg)の約39%を占めた。

GLP-1受容体作動薬による減量では、除脂肪体重の絶対量が減少することが主要臨床試験の体組成サブ解析から報告されている。一方、SURMOUNT-1試験のDXAサブスタディ(Look et al., 2025)では、プラセボ群でも体重減少に占める除脂肪体重の割合が約25%と同等であり、「除脂肪量損失の一定割合は大幅な減量に共通して生じる現象」という側面もある。

重要な解釈上の注意点として、除脂肪体重の絶対量は減少するが、体重全体に占める除脂肪体重の割合は増加する傾向がある。STEP 1 DXAサブスタディでは、セマグルチド群の体重に占める除脂肪体重の割合が+3.0ポイント増加したことが報告されている(Wilding et al., 2021 STEP 1 Study Group)。除脂肪量が「減少している」という事実と「体重内の割合は改善している」という事実は、両方を並べて解釈する必要がある。

主要GLP-1 RA臨床試験における体重減少と除脂肪量の変化

データ取得時点: 2026年6月。DXAサブスタディの数値は主要論文本文または別報告に基づく。ばらつきが大きいため個別試験のデータとして参照されたい。

試験名 / 薬剤対象集団(年齢・BMI・n・性別)期間総体重変化除脂肪量変化除脂肪量が体重変化に占める割合出典
SURMOUNT-1 DXAサブ / チルゼパチド(5/10/15mg)非糖尿病、平均BMI 38.0、平均46歳、73%女性、n=160(投与群+プラセボ)72週-21.3%-10.9%約25%Look et al., 2025
STEP 1 DXAサブ / セマグルチド2.4mg非糖尿病、平均BMI 34.8、76%女性、n=95(投与群)68週-15.0%(約15kg)-9.7%(絶対値-5.8kg)約39%(試算)Wilding et al., 2021(STEP 1 Study Group)

※ STEP 1の39%は「除脂肪体重減少5.8kg ÷ 総体重減少約15kg」の試算値。DXAサブスタディ(n=95)の小標本であることに注意。SURMOUNT-1ではプラセボ群でも体重減少に占める除脂肪体重の割合が約25%であり、除脂肪量の損失は大幅な減量に共通する現象という側面もある。なお両試験はnの定義が異なる(SURMOUNT-1のn=160はDXAサブ全体=投与群124+プラセボ36、STEP 1のn=95はセマグルチド投与群のみ=全体140)。Neeland et al.(2024)のレビューでは試験によって15%未満から40〜60%に及ぶ幅が報告されており、上表の2試験は代表例の一つとして参照されたい。

なお、Bikou et al.(2024、Expert Opinion on Pharmacotherapy)のセマグルチド試験6件(n=1541)の系統的レビューでも、除脂肪量の減少は総体重減少の約0〜40%と大きなばらつきが確認されている。


なぜ急速な減量で除脂肪量が減るのか

エネルギー不足(カロリー制限)の状態では、体はエネルギー確保のために脂肪だけでなく筋タンパク質も分解・利用する。GLP-1受容体作動薬は食欲抑制作用をもたらし、摂取エネルギーが低下しやすいため、タンパク質の摂取量も同時に減少しやすい状況が生まれる。タンパク質の摂取が不足すると、筋肉合成に必要なアミノ酸が不足し、除脂肪量の維持がより困難になる(Locatelli et al., 2024, Diabetes Care)。

減量に伴う除脂肪量の損失は、GLP-1受容体作動薬に特有の現象ではなく、大幅なカロリー制限を伴う減量に共通して観察される現象である。Longland et al.(2016、American Journal of Clinical Nutrition)は、40%カロリー制限+レジスタンス運動+スプリントを6日/週・4週間実施した過体重の若年男性(n=40)において、タンパク質摂取量が1.2g/kg/日(低タンパク群)に対して2.4g/kg/日(高タンパク群)では除脂肪体重が+1.2kg増加したと報告している。ただし、この試験の対象は若年男性に限られ、期間も4週間という短期であり、40%という極端なカロリー制限条件である。GLP-1受容体作動薬を使用する中高年や女性への直接外挿は避ける必要がある。

GLP-1受容体作動薬による減量では、食欲抑制によって摂取量全体が減少するため、意識的にタンパク質摂取を確保しない場合、タンパク質の絶対量も減少する可能性が指摘されている(Locatelli et al., 2024)。この点が、単純なカロリー計算とは異なる栄養面での課題として研究者によって指摘されている。


高齢者ではサルコペニアと重なる懸念があるのか

Ren et al.(2025, Drug Design, Development and Therapy)は、65歳以上の2型糖尿病患者を対象にセマグルチド群(n=220)と対照群(n=212)の24ヶ月後ろ向きコホートを実施した。セマグルチド群では骨格筋量指数(ASMI)が女性で-0.39kg/m²・男性で-0.26kg/m²有意に低下し、歩行速度も両性で有意に低下したことが報告されている。高用量・低ベースラインASMIが独立した筋肉減少予測因子として同定された。

加齢に伴う同化抵抗性(anabolic resistance)とは、タンパク質を摂取しても高齢者では筋タンパク質合成反応が若年者より低くなる現象を指す。GLP-1受容体作動薬による急速な除脂肪量の低下が、この同化抵抗性を背景とするサルコペニア(sarcopenia)の進行と重なる懸念が、研究者によって指摘されている。

ただし、上記のRen et al.(2025)は後ろ向きコホートであり、交絡因子の統制に限界があるため因果関係を断定することはできない。中国単施設の2型糖尿病患者に限定されたデータでもあり、高齢者全般への一般化には限界がある。また、サルコペニアの確定診断には、欧州ワーキンググループ(EWGSOP2)の定義(Cruz-Jentoft et al., 2019, Age and Ageing)に基づき、低筋力と低筋量の両方が必要とされる。筋量の低下のみをもってサルコペニアと断定することはできない。

一方、反対方向の知見も報告されている。Alissou et al.(2025, Diabetes, Obesity and Metabolism)は、肥満患者(n=106、平均BMI 46.3、68.9%女性)を対象としたSEMALEAN前向きコホート(12ヶ月)において、セマグルチド投与後の握力が有意に改善し、サルコペニア肥満(sarcopenic obesity)の有病率が49%から33%に減少したと報告している。この研究は観察研究であり、介入を伴わない記述であるが、「GLP-1受容体作動薬による減量が常に筋力低下をもたらす」という単純な解釈への反証となる視点を提供する。

高齢者における急速な除脂肪量の低下が懸念される状況については、医療専門家への相談が重要とされている。


除脂肪量を守るためにタンパク質と運動はどう関わるのか

Neeland et al.(2024, Diabetes, Obesity and Metabolism)は、GLP-1系薬剤による除脂肪量変化を整理したレビューで、タンパク質摂取量として1.2g/kg体重/日以上を食事間で均等に分配することと、レジスタンス運動の併用を、除脂肪量の損失を抑える方策として挙げている。Locatelli et al.(2024, Diabetes Care)のナラティブレビューでも、タンパク質>1.2g/kg/日の均等分配、有酸素運動150分/週以上、構造的レジスタンス運動の組み合わせが検討されている。

これらの推奨は主にレビュー論文および観察研究に基づいており、GLP-1受容体作動薬使用者を対象とした直接的なレジスタンス運動介入のランダム化比較試験(RCT)はまだ少ない(Locatelli et al., 2024)。「確立された知見」ではなく「現時点で検討・推奨されている方策」として理解する必要がある。現在、LEAN-PREP試験などGLP-1薬使用者を対象とした運動介入RCTが進行中とされている。

Tinsley and Nadolsky(2025, SAGE Open Med Case Rep)は、セマグルチドまたはチルゼパチドを使用しながらレジスタンス運動(3〜5回/週)とタンパク質摂取(0.7〜1.7g/kg/日)を実施した3症例を報告した。体重減少13.2〜33.0%に対し除脂肪体重の変化は-6.9%〜+5.8%と症例間のばらつきが大きかった。ただしこれは症例報告(n=3)であり、どの介入要素が結果に寄与したかは特定できず、可能性を示す水準のエビデンスにとどまる。

タンパク質の「1食あたりの量」の観点では、同化抵抗性が生じやすい高齢者では各食事で一定量のタンパク質を確保することが栄養科学的に重要とされている。ただし、食事からのタンパク質確保が具体的にどの食品・方法で最適かは個人の状況に依存し、管理栄養士への相談が有用と考えられる。


よくある質問

Q: ダイエットで体重を落とすとき、筋肉も減るのを防ぐ方法はあるのか

一般的なカロリー制限を伴う減量では、十分なタンパク質摂取(体重1kgあたり1.2g以上が参考値として複数レビューで言及されている)とレジスタンス運動の継続が、除脂肪量の損失を抑える方策として検討されている。ただし、最適な摂取量は年齢・体重・運動量・健康状態によって異なる。GLP-1受容体作動薬を使用している場合は、食欲抑制による摂取量低下を考慮しながら栄養計画を立てることが重要とされており、医師・管理栄養士との連携が推奨されている。

Q: 高齢者が急速に体重を落とすとき何に注意が必要とされているのか

加齢に伴う同化抵抗性(anabolic resistance)により、高齢者では急速な除脂肪量の低下がサルコペニア(筋肉量・筋力の低下による身体機能障害)の進行と重なる懸念が研究者によって指摘されている。EWGSOP2(欧州サルコペニアワーキンググループ)の定義では、低筋力と低筋量の両方が確定診断に必要である。高齢者における急速な体重減少に伴う筋肉量の変化は、個別の健康状態を担当医・管理栄養士と確認しながら進めることが重要とされている。

Q: セマグルチドとチルゼパチドで除脂肪量の損失に差はあるのか

セマグルチドとチルゼパチドを同一条件で直接比較した試験は現時点で確認されていない。試験別にみるとSURMOUNT-1(チルゼパチド)で体重減少に占める除脂肪量の割合が約25%、STEP 1 DXAサブスタディ(セマグルチド)で約39%との報告があるが、対象集団・試験期間・測定方法が異なるため、これらを直接比較して優劣を結論づけることはできない。今後、同一条件での比較試験の知見が蓄積されることが期待されている。


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参考文献

  1. Wilding JPH, Batterham RL, Calanna S et al. (STEP 1 Study Group). (2021). Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. New England Journal of Medicine, 384(11), 989–1002. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2032183 ※DXAサブスタディの体組成データは STEP 1 Study Group による別報告(Journal of the Endocrine Society 2021 Supplement)による。

  2. Jastreboff AM, Aronne LJ, Ahmad NN et al. (SURMOUNT-1 Investigators). (2022). Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. New England Journal of Medicine, 387, 205–216. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2206038

  3. Look M, Dunn JP, Kushner RF et al. (2025). Body composition changes during weight reduction with tirzepatide in the SURMOUNT-1 study. Diabetes, Obesity and Metabolism, 27(5), 2720–2729. https://doi.org/10.1111/dom.16275

  4. Longland TM, Oikawa SY, Mitchell CJ, Devries MC, Phillips SM. (2016). Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial. American Journal of Clinical Nutrition, 103(3), 738–746. https://doi.org/10.3945/ajcn.115.119339

  5. Neeland IJ, Linge J, Birkenfeld AL. (2024). Changes in lean body mass with glucagon-like peptide-1-based therapies and mitigation strategies. Diabetes, Obesity and Metabolism, 26(Suppl. 4), 16–27. https://doi.org/10.1111/dom.15728

  6. Locatelli JC, Costa JG, Haynes A, Naylor LH, Fegan PG, Yeap BB, Green DJ. (2024). Incretin-Based Weight Loss Pharmacotherapy: Can Resistance Exercise Optimize Changes in Body Composition? Diabetes Care, 47(10), 1718–1730. https://doi.org/10.2337/dci23-0100

  7. Bikou A, Dermiki-Gkana F, Penteris M, Constantinides TK, Kontogiorgis C. (2024). Effects of semaglutide on lean mass: a systematic review. Expert Opinion on Pharmacotherapy, 25(5), 611–619. https://doi.org/10.1080/14656566.2024.2343092

  8. Ren Q, Zhi L, Liu H. (2025). Semaglutide therapy and accelerated sarcopenia in older adults with type 2 diabetes: a 24-month retrospective cohort study. Drug Design, Development and Therapy. https://doi.org/10.2147/DDDT.S531778

  9. Alissou M, Demangeat T, Folope V et al. (2025). Impact of semaglutide on fat mass, lean mass and muscle function in patients with obesity: the SEMALEAN study. Diabetes, Obesity and Metabolism. https://doi.org/10.1111/dom.70141

  10. Tinsley GM, Nadolsky S. (2025). SAGE Open Medicine Case Reports, 13: 2050313X251388724. https://doi.org/10.1177/2050313X251388724

  11. Cruz-Jentoft AJ et al. (2019). Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age and Ageing, 48(1), 16–31. https://doi.org/10.1093/ageing/afy169